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同じ釜の飯を食ったならそれはもう仲間と一緒だよ

季節の変わり目、急激な気温の変化に体調を崩すことはありますが、時たま精神に不調を抱える方も現れます。スーパーで安売りしていたキュウリをかごに入れようとしたところ、横から手を叩かれ、狙っていたキュウリを横取りされました。思わずその顔を見てみれば、大層不機嫌そうなおばあ様。これは荒立ててはいけないと見て見ぬふりをして、違うキュウリを手に取りました。そのキュウリも同じように横取りされました。

ならばと思い、その横のパプリカは予想外だろうと一つ手に取るとそれも横取りされ、ズッキーニならばどうだと思いきや、それすらも取られました。

仕方ないなと思い、一度安売りコーナーから離れたところ、そのおばあ様は、私から横取りした野菜類を全て元の位置に戻していました。何故なのかは分かりません。

 食卓とは楽しく囲むものだと思うんだ。


 生きるために必要な、食べるという行為はとても神聖な雰囲気を持つ言葉だと私は思うよ。あらゆる生物が、食を失くして生を謳歌できようか?謳歌も何も死ぬっての。


 スラちゃんと樹里のおかげで、美味しそうに焼けた肉があるわけですよ。


 せっかくだから、美味しいものは美味しいうちに食べてあげたいよね。さっきまでは殺伐とした雰囲気の中にぶち込まれていたせいか、身体がエネルギーを求めてるんだよ。具体的にはカロリーだ。


 私は早く食べたいんだよ。マズローの五段階欲求の第一階層の最低限こなさなくてはいけない欲求の一つを早く満たしたいんだよ。


 なのに……なのに何で君たちは互いに睨み合って食事を始めようとしないんだい?


 重い雰囲気は払拭されたんじゃないの?


 朱美たちからというよりも、あの子が威嚇するもんだからそれに反応して朱美たちも圧を出している感じ。そのせいで食事にありつけない。私のお腹は悲鳴を上げているよ。


「ね、ねぇ、とりあえず食べない?お腹空いたんだけど」

「自分で獲物も狩れず、他者からの恩恵を授からなきゃ満足に栄養補給もできない乞食同然の存在が、恩恵を与える側に威嚇するという、なんとも滑稽かつ愚かな行いをしていることに違和感を覚えないのなら先に食べてなさい」

「ごめんなさい」


 ぐぅの音も出ない正論とはまさにこのことか。でもさ、こんなに小さな子どもにそこまで厳しく接する必要なんてあるのかね?


「この世界は弱肉強食よ?生存競争を勝ち抜くために、足を引っ張る奴は誰であろうと邪魔にしかならないわ」

「ごめんなさい」

「結愛は私たちが好きで貢いでいるのだから問題ないわ」


 うわぁ、なんかお前はヒモなんやでみたいなことを変化球なしの直球で真っ直ぐに言われた。これは心に来ますわ。


「私が大丈夫ならこの子は?」

「私はこの子好きじゃないし」

「なるほど」


 まさに力あるものが正義みたいな思考の世界観だ。これ完全にあの子を擁護することってできないんじゃない?ものすごく難しいと思うよ?


 倫理観とか道徳的なことを無法地帯の存在に求めたとしても、それは机上の空論のように現実として受け入れてもらえない気がする。


 簡単に言えば、私がいくら庇っても、最終的には力とか根本的な肉体言語で解決する可能性が高すぎて、平和的解決への足がかりが皆無だということ。


 根拠のない哲学よりも、痛みを伴う暴力の方がシンプルでとても分かりやすいんだよね。


 だから、この時点で力が無い私は戦力外通告を言い渡されたみたいなもんでさ、何言っても無駄で、決定権が一つも存在しないということですね。


 持たざる者代表みたいな感じなのかな?今の私は。


 そんな思考に逃げているのも束の間、朱美たち相手というか、樹里に恐怖を植え付けられてしまったのか、精一杯の威嚇はすれど、身体の震えが止まっていないケモミミっ子は、本能的に私が大切にされてると認識したのか、私の右腕に掴まってきた。さっきようやく離れたのに、また抱き着いてきたよ。


 あ、なんか朱美たちの圧が上がった気がする。


 ……とりあえず、宥める役として私がいるのかなー。


 特に何を考えるまでもないわけだけど、今この場でとるべき行動は、この子の頭を撫でて落ち着かせることが最優先な気がする。


 ということで、残っている左手で頭を優しく撫でる。なるべく落ち着くように、ゆっくりと遅いリズムで。


 でも、視線は朱美たちに向けたままだ。だって何しでかすか分かったもんじゃないし。朱美も樹里もスラちゃんも、近づかなくても相手を殺す方法持ってるんだから、それされたら反応できる気がしないよね。


 ……嫌だよ?いきなり頭撫でてる子が爆発四散みたいな死に方するのは。


「……結愛は随分とそいつに甘いのね」

「いや、甘くしてるつもりはないんだけどさ……ほっとけなくて」

『結愛!スラも!スラも!』

「はいはーい。次はスラちゃんの番だねー」


 会話を弾ませることができているのかは分からないが、朱美たちの毒気が多少引けた感じではある。この子もだいぶ落ち着いてきたし、離しても大丈夫かな?さっきから若干感じてるんだよね。場の雰囲気があれだったから頑張って我慢してるんだけどさ。


 視線をケモミミっ子に移す。


 ……ふむ、なんてキラキラした純真な眼差しで私を見つめているんだ。


 なんだろう?私が朱美たちの圧を弱めたのがそんなにお気に召したのだろうか?


「もう、喧嘩はダメだよー。仲良くしようね」


 言葉が通じているかと言われれば、全くというほど通じている気がしないけれど、イントネーションとフィーリングで伝わってくれないかなー。


 とりあえず、ご飯を食べさせろ。話はそれからだ。


 放っておいたらまた雰囲気が悪化しそうな気がしたので、率先して食事を始めることにする。と言っても、肉の丸焼きに変わりはないので、そのお肉に齧り付くだけなんだけどね。


 いただきますと一言呟いて食べようとすると、横からケモミミっ子が齧り付いてきた。


 美味しいのか、耳がピクピク動いて、尻尾が激しく動いている。その後は一心不乱に私がとったはずの肉を横から奪い去っていった。


 おぉう……私の肉がみるみる減っていく……。そして、それを見ている朱美の眼がヤバい光を帯びている。


「結愛……私、腕が無くてうまく食べることができないのよ。食べさせてくれないかしら?」

「……マジ?」

「マジ」


 それを言われたら断れないじゃないですかヤダー。もう一つ肉をとり、隣まで移動してきた朱美の口まで肉を運ぶ。


 うん、餌付けだよね完全に。


 スラちゃんと樹里はご飯に夢中になっているのか、特に何を言うこともなく黙々と食事を進めている。


 私だけ食事にありつけない。あんなにも食事をしたいと嘆いていた私が一番食事できていない。


 これはもう、激怒案件なのでは?私のお腹はすでに怒りの炎を焚きつけているよ。


「結愛は怒っても大して怖くないのよねー」

「デスヨネー」


 そこら辺はもう諦めてますよ。


 というかさ、朱美はまだ分かるんだよ。この子は違うんじゃないの?


 私の手を借りずとも一人で食べれるでしょ。そもそも、この手の肉は私が食べるために取った肉なんですけど?


「ウゥ?アゥ」

「うん、まぁいいよいいですよ。お腹いっぱいになるまで召し上がれ。私が取ってきた訳でもないし、料理した訳でもないからね。みんなで仲良く食べようね」

「アゥッ」


 ……まぁ、かわいいから許すか。めちゃくちゃ耳と尻尾振ってるし、美味しいんでしょう。


 朱美は表情変わらないんだよなぁ……。


 もっと愛想良く食べてくれると、美人だから映えると思うんだけど。


「あんたと大差ないでしょーが」


 あ、ハイ。そっすね。私も全然表情変わらないからね。私には言われたくないか。


 しばらくの間、肉の咀嚼音のみが続き、誰も言葉を発することなく食事の時間が過ぎていった。


 その間、私は食べさせることに徹していたわけだけど、何気なく樹里を眺めていたときに、肉を頭部から食べるのではなく、腕や胴体脚といった部分を開閉させ、蛇のように丸々吸収していたことには素直に驚いた。3度見くらいした。


 本当に謎が多いよね。


 その様子をこの子に見せたら、なおさら恐怖しそうな感じがしたから、私の陰に隠して樹里を見せないようにする。


『結愛!スラの番!』

「あれ、スラちゃんもう食べ終わったの?早くない?」

『早い!』


 そんなに撫でてほしかったのか。別に私は良いんだけどさ?今手を離せない状況なんだよね。


 特に朱美に関してはこれ以上機嫌を損ねると大変なことになる予感がする。


 消去法でケモミミっ子しかいないわけだけど、この子とは言葉の壁という越え難い城壁が存在するため、どういう風に説得すればいいのか分からない。


 ジェスチャーをしようにも、私自身の両手が塞がっているから身体を使えないし……でもスラちゃんの要望には応えてあげたい。それにしてもお腹が空いた。


 空腹のせいで思考が定まらない中、私が導き出した答えは膝に乗せること。というか、それ以外今の私には考えつかない。


「スラちゃん、ここにおいで」


 分かりやすく正座を崩し、スラちゃんをそこへ誘導する。この際感じるとかもうどうでもいい。あ、でもちょっとクルかも。


 右の手でケモミミっ子に餌付けをし、左の手で朱美に餌付けをし、膝の上にスラちゃんを乗せる。


 ……私、動けない。


 そして、その様子を身動きせずにガン見している樹里。


 何かを思いついたのか、独特な歩き方でゆっくりとこちらに向かってくる。


 樹里ってさ、何考えているのか分からないことが多いから、こうやって急に何かを思いついたかのように行動されると、その容姿と相まって正直怖いんだよね。歩き方も特徴的過ぎるし、何故かゆっくりだし。


 恐怖と性欲は相乗効果を発揮するものだと私は思う。何されるか分からないとか、何が起きるか分からないと感じるが故に、警戒して五感への集中力が高まるから、様々な刺激に敏感になるんだ。


 そして、私は何故か感度が異様に高い性質を持っており、そんな私が膝の上にスラちゃんを乗せた状態で思考不明の樹里を真正面から見つめていると……スラちゃんからの刺激が増し増しになりました。


「樹里……も何かしてほしいの?うっ、私もう何もしてあげられないよ?……私をいじめないでほしいなぁ……なんて……」


 声が途切れ途切れになるのは仕方ないんです。そこら辺は好きにご想像ください。何でケモミミっ子……は良いとして、朱美もスラちゃんも私に助け舟を出してくれないの?


 こういう時いつも傍観してるよね。


「危険じゃないし、それに今は肉を食べるのに忙しいわ」

「おのれ……はうっ」


 反射的に朱美に軽口を叩いてしまい、反動で我慢していた声が漏れてしまう。ケモミミっ子は私の変化をただただ不思議そうに見つめてくる。そんな目で私を見ないでくださいオネガイシマス。


 顔が赤くなるのを感じながらも、樹里を見上げる。


 ……肉を持ってる?


「もしかして、食べさせてくれるの?」


 頷いているつもりなのかはたまた照れているのか、頭部を渦巻き状に巻き始める樹里。思わず大量の?マークを浮かべてしまう。


 しかし、厚意に甘えさせてもらおう。いい加減限界だったんだ。


 樹里が差し出す肉に噛り付く。凄い絵面だろうな今。私たち以外に生物はいないだろうしいいか。


 蛇の肉って初めて食べたけど、前の世界の肉もこんな感じなのかな。凄い淡泊なんだけど、臭みとか全くない。スラちゃんと樹里がただ丸焼きにしただけだと思うけど、それでも十分美味しい。


 ケモミミっ子は私の前にいる樹里に軽く顔を青褪めているみたいだけど、樹里だって大切な仲間の一員なんだから、仲間外れはさせない。


「ところで結愛」

「ん?」


 もうすでに食べ終えてしまった朱美が、食事を始めたばかりの私に声をかけてくる。


「そいつどうするの?」

「ん~……」


 まぁ、そうだよね。そこが問題だよね。


 自然にご飯を一緒する流れで食べているわけだけど、この後のこと何も考えていなかった。


 私たちは旅してるわけだし、この子もここに居るということはどこかに向ってる最中とかもしくはこの近くを縄張りにしているとかかな?


 それならこの子はここでお別れなわけだけど……ん?


 食べ終わった蛇の骨を舐めつつ、此方につぶらな瞳を向けてくるケモミミっ子。何かを期待しているように感じる。


 でも、私は朱美のように相手の思考を読んだりすることは出来ない。


 と、いうことで朱美さんに熱烈な眼差しを送って助けを乞うことにしました。ねぇ朱美、何で鼻で笑うの?悲しいんだけど?


「まぁいいわ。ついでに言うとそいつも私たちと一緒だし、結愛みたいに生まれたばかりみたいね。本能のままに行動してるところからもそうだけど、そいつにとってここは縄張りみたいなものね」


 じゃあこのままお別れかなぁ。


「でも何となくここに居ついているだけみたいだから、特定の場所に留まろうとして留まっているわけでもないみたいよ」

「この期待の眼差しはつまり」

「結愛に付いて行きたいんでしょうね」

「朱美は良いの?」

「…………まぁ、結愛が良いならいいんじゃないの?」


 今の間は?ねぇ今の間は?


「アゥ?ウゥ?」

「あー、うん、まぁとりあえずあれだよ。分かった。正直こんな小さな子を一人にしておくのはなんか嫌だ。だから、保護しよう」


 一緒にご飯も食べちゃったし、もう仲間みたいなもんでしょ多分。


「でも仲良くしてよ?小さいんだから」

「そいつの態度によるわ」

『仲良し?仲良し!』


 うん不安ですわ。大丈夫だろうけど不安で仕方ないですわ。


「決まり。この子はもう仲間。これからいろいろ教えていくから、とりあえず朱美」

「何?」

「この子に服着せてあげてくれない?」


 連れていく以上、全裸はヤバいでしょ。

この間終始無言無表情だった私は、見知らぬナイスなおじさまにドンマイとばかりに背中を叩かれ、あぁ、そういえば季節の変わり目かと一人納得していました。

他の客は今までの光景を見てドン引きしていました。

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