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楽しい楽しい遠足

もう少しで10万文字いくことを最近知りました。結構書いていたことに我ながら驚いています。物語って面白いですよね。物語の数だけ世界が存在すると私は思っています。適当な妄想で生まれた主人公や登場人物がいるだけで、それは物語として成立しているのではないかと思うのです。読み手に回るのも確かに良いのですが、一度書き手に回り文字起こしをしてみるのも、自分の世界観が形作られるような気がして私は好きです。

 着替えを終えた後、朱美の背中に乗せてもらって移動することになった。


 荷物箱は私が抱え、スラちゃんは私の後ろに乗っている。


 目的はあくまで森の外の世界を確かめることにあるし、野宿程度なら朱美たちがいれば何とかなると思うので、道中の歩幅は緩やかだ。朱美の感覚でね。


 樹里は動きが奇抜だからか、そこまで早く動けないみたいだ。朱美もそれを考慮してか、樹里のペースに合わせているって感じ。


 私といえば、どのタイミングでこの同じ景色が広がる森の中から抜けられるかという、子供のような無邪気な好奇心が表に出てしまっている。


 割と森を抜けるまでは退屈なものだと思っていたが、案外そうでもないらしい。


 前の世界では自然そのものが珍しい場所に住んでいたためか、自然の景色に長い時間包まれるという経験そのものが、まるで真新しい経験のように感じられる。


 精神が成熟したのか、それとも老衰しているのか……しみじみしますなぁ。


 自然っていいよね。


 名残惜しくなったわけではないよ?


 前言撤回。


 正直、あの場所は良かったなぁ。右も左も分からない状態でいきなりこの世界に産み落とされて、数日間過ごした湖の畔には、確かに私がそこで少しの間寝床としていた事実が残る。


 私という個が、この世界で初めて過ごした歴史が刻まれているのだ。


 恥ずかしい言い回しかもしれないが、要するに、いい思い出だってこと。


 外の世界に好奇心を持ち、勢いのままにみんなを巻き込んで来たのはいいけど、出発して大した時間も経過していないのにも関わらず名残惜しさを感じるくらいには、私にとっての思い出の場所ということだ。


 自然の中での移動って、色々なことを考えてしまう。これは自然に包まれ、自然音以外の音がほぼ聞こえないからだろうか?


 自然音以外の音といえば、朱美と樹里の移動の時の地面を脚で踏んだり、その足が雑草とかに掠る微かな音だったり、四肢を引きずるようにして進む時の摩擦の音であったり……樹里って移動方法の割に音があまり聞こえないな。


 昨夜も私は樹里の接近に気づけなかった。まだまだ私の知らない不思議が詰まっているんだなって思うよ。


 むしろ知らないことだらけなんですけどね。


「楽しそうね」

「うん、楽しいよ。なんでかはあんまり分からないんだけど、朱美の背中に乗せてもらってゆっくり進んでる時って、すごく安心できるしリラックスできる気がするんだ」


 これは事実で、朱美は極力私たちに振動を与えないような移動方法をしてくれていた。私が酔わないようにと朱美なりの配慮だと思う。


 ……なんか朱美の頬が赤い気がするな。


「赤くないわよ」

「思考に直接的な突込みとは恐れいきましたな」

「私はそう簡単に隙を見せないわ」


 ほほう?言ったな?


 今この状況でそれを言ってしまったね朱美さんや。


 この、私に対して無防備な背中を晒してしまっているという、この如何ともしがたい煽情的で妖艶的な美しい曲線美を惜しげもなく私の眼前にこれでもかと存在感を示しているこの状況で。


「……結愛、なんであなたたまにそんな表現を瞬時に展開できるのかしら?」


 さぁ?


 ということで朱美の背中を人差し指で上から下へ軽くなぞってみよう。


「やめなさい」


 やめません。


 白く美しい肌に私の人差し指を優しく押し付け、そのまま肌の上を滑らせるように指を下へと払う。


 朱美の身体が少し反応した……が、まだ我慢しているな?


「結愛、もう一度言うけど、やめなさい」


 ならばこちらも先のセリフを繰り返そうか。


 やめません。


 今度はさっきの逆で、下から上へとなぞってみよう。


 散々私のことをいじめてるんだから、これくらいの仕返しは許されるよね。私は毎日のように鳴かされているんだから、この程度の仕返しは仕返しにすらなっていないと断言するよ。


 声を出さないように我慢しているっぽいけど、私はやられたらやり返す精神を持っているんだ。


 だから、朱美がかわいい声を上げるまでやめるつもりはない。


「……私、あまり隙は見せないって言ったわよね?」

「言ったね」

「あまりということは、たまに隙をつかれてしまうこともあるということよ」

「確かにそうだね」

「そして、哀れにも私の隙をついてしまった者たちが……その後ただで済んだと思う?」


 …………。


「ごめんなさい」


 気づけば、私は朱美に頭を下げて謝罪をしていました。


 朱美から私の姿は見えないでしょう。なぜなら彼女は前を見て進んでいるのですから。


 そして、それは同時に私からも朱美の表情が見えないことを意味しています。


 私はこのことに関して強い安堵感を覚えています。


 今の朱美の表情が、おそらく特殊プレイ専門のお店の女王様のような顔をしているだろうことが雰囲気から察することができたからです。


 だから、朱美の表情を窺うことのできない今のこの状況は私にとってありがたいものではあるのですが、先ほどまでの己の行動を顧みて、冷や汗が止まらないのです。


 何よりも、朱美は私の思考を読むことができます。もうお前マジでエスパーじゃねぇのってくらいに読まれます。もちろんこの思考も読まれているでしょう。


 詰んだ。


「結愛?」

「……はい、なんでしょうか」

「夜、楽しみね」

「……そうですね」

「結愛は私がかわいい声を上げるまでやめないつもりだったみたいだけど、私は結愛がどんなに声を上げてもやめるつもりないから、そのつもりで」


 あ、これやべぇやつ。


「スラちゃん、助けてくれないかな?」

『結愛のかわいい声?聞きたい!』


 おおう既にそちらの陣営に加わったのか。


 ならば樹里だ。樹里ならば私の救援に応えてくれるに違いない。


「樹里ー……」


 なんでこの子は手の部分をいやらしくクネクネさせているんですかね?


 樹里は喋ることができないだけで、理解力はある子だから、さっきまでの話で本能的につきたい方を選択したって感じかな?


 樹里も私のあられもない姿を見たいと?


 おいおいおいちょっと待っておくれよ。停戦協定を結びませんかね朱美さんや。


「結ぶわけないでしょ。そもそもやってきたのは結愛からでしょ」

「今までの積み重ねの仕返しというのは?」

「過去のことなんてなんの意味もなさないわ。過去は過去なのよ?私たちは今を生きているのだから、今この時点で被害を受けたその報復をするだけの話じゃない」

「勢力図が約三倍なんですけど?」

「自業自得よ」


 くそ、ぐうの音も出ねぇ。


「朱美、謝ったんだから許してよ」

「対話で済む話なら、弱肉強食なんて概念存在しないわ。弱ければ食われるだけよ。結愛は触れてはいけない逆鱗に触れ、その代償に私に食べられる、シンプルな話じゃない」

「逆鱗だったの?」

「私にとって、辱めは何よりの屈辱よ。それをされたら、万倍は返さないと気が済まないわ。あ、でももちろん食べるっていうのは腹を満たすわけではなくて、性的な方ね」

「言わなくても分かるよそれぐらい」


 神は死んだ。そもそも神なんていないか。


 あぁ、なんだか楽しい旅行気分が一瞬で死刑直前の囚人のような陰鬱とした気分になってしまったよ。いや、死刑直前の人間が何を考えているとか全く分からないから憶測で語っているだけなんだけどさ。


 私と朱美では頭の回転の良さが全然違うから、いざスラちゃんと樹里を説得しようとした時に勝てる気がこれっぽっちもしないっていうね。


 なんでかなー。


 これが頭のいい奴と悪い奴の違いってやつか。


「どっちかって言うと、勇気と無謀は違うじゃないかしら?」

「私と朱美にそこまでの差があるの?」

「差というかね……結愛ってみんなの欲望の捌け口になりやすい身体というか、その体質のせいで周りを説得しやすいのよね。結愛限定だけど」


 流石この身体だ。メリットがほとんどないくせにデメリットに関してはすごいアドバンテージを誇る。


 くそ、ならせめてもの腹いせに大声で泣き喚いてやろう。そうすれば朱美以外なら多少加減を緩めてくれるような気がする。


「私は一切緩めないわよ。ついでに、自分の意識がありながら身体が勝手に反応する状態を維持し続けて、精神以外のコントロールを全て奪い尽くすつもりで責めるからよろしくね」

「朱美~~~……」

「……本気の涙声は想定してなかったわ。そこまでは……まぁやらないと思うから安心しなさい」


 朱美の言っていることが、私の身体の体質のことを含めて考えたら余裕であり得る未来で想像しやすいため、思わず半泣きになってしまった。


 だって朱美なら本気でやりそうだし、そこにスラちゃんや樹里も入ったら私抵抗する術がなくなるじゃない。


 そうしたら私の知らない世界の扉まで開かれてしまいそうで怖くなりました。


 決めた。これからは朱美を弄るのはやめよう。洒落にならない反撃を食らうことが想定される。


 触らぬ神に祟りなしだようんうん。


「そうね、今回は授業料とでも考えておけばいいんじゃない?」


 やっぱ今回は逃げ切れないかー。


「当たり前でしょ」


 夜なんか来なければいいのに……。


「そんなこと言ったって仕方ないでしょ。今回はおとなしく諦めなさい。そして受け入れなさい」

「はい……」

「ほら、そろそろ森を抜けるわよ」


 話に夢中で気づかなかったけど、朱美が見ている先には視界いっぱいの青空に、広大な草原が広がっているのが見える。視野の端端が森の木々に遮られていた草原に、燦々とした日光がその暖かな光を注いでいる光景は、森とは違う自然という意味でも、私の心に言葉にできない感動を与えた。


 私が呆けている最中にも、朱美は歩みを止めることなく、森の出口へと向かっていく。それに反して、草原という、私にとっての森の外の世界への入り口は着々と近づいていた。


 視界を塞ぐ異様に頑丈な草は少し前から無くなっていて、この辺りまで来ると、私でも知っている森の中を進んでいるようだ。異世界感丸出しだったのは、森の最深部から比較的近い距離の場所までだったみたい。


 それにしたって、ここからでも分かる草原一帯の緑一色。森には木々の茶色などの別の色が混同していたのに比べると、マジで緑しかないね。


 きれいな一色すぎて、そこにも感動を感じているのかもしれない。


 私は芸術家でも何でもないから、あくまで主観で直感的に感じたことを上手く言葉で表現できないんだ。


 ただ、湖の畔とは違った美しさがあり、違った感動があることだけは理解できたよ。


「まだ森から出てないのに、ずいぶんと嬉しそうね」

「なんか、私は自然が好きみたいだよ?」

「でしょうね」


 人工物に塗れた環境は、決して嫌いではなかった。が、今この自然たちと比べると、私はこっちの方が好きなのかもしれない。


「……なんかいるわね」

「え?」


 目の前の感動に浸って脳内トリップしていた私を現実に引き戻したのは、警戒心を露わにしている朱美が、その歩みを止めたからだった。


 朱美が見ているであろう場所を注視してみる。


 結構距離があるため、全体像を上手くつかむことができないが、人間みたいな生物がこちらに向かってきているようだ。


 ……あれ人じゃないの?


 私の視力では草原の中、そこそこの荷物といえばいいのか……それとも装備といえばいいのか分からない恰好をしている人がこの森を目指して歩いているようにしか思えない。


 集団ではなく、一人だ。


 私たちは進むのを一旦やめて、その人間の動向を探ることにした。


 普通に歩いているように見えるけど、なんだか警戒しているようにも見える。この世界の人類が近代的な発展を遂げていないのであれば、職業に狩人がいてもおかしくはないのかもしれない。前の世界にも狩猟民族っていたはずだし、その手の人だという可能性は高いのではないだろうか。


 出会い頭に攻撃されるかもしれない理由としては上出来すぎる人材じゃありませんか。


 しかも、朱美とスラちゃん、樹里までもが警戒心を露わにしている時点でこちらに敵対する可能性が生まれてしまっている。


 私自身、あの人間?から嫌な雰囲気を感じてしまうのだから、ここまで条件を出してしまっている以上、初対面からの友好的な意思疎通は難しそうだ。


 不安感を拭えず、朱美の背中に軽くしがみ付いてしまう。


 私は人間と会いたかったはずなのに、何故いざ目の前にしてみるとこんな不安に押しつぶされそうになってしまうのだろうか。


 不安も、ただ漠然とした抽象的な不安ではない。


 さらに細分化された、恐怖を伴う不安。樹里の時は姿を認識する前からの未知に対する恐怖感や、狂気が身体の内部から侵食してくる恐怖感を味わった。


 今回の恐怖は、得体の知れない恐怖だ。人間という認識は出来ているため、これは道に対する怖さではない。


 まるで身体そのものが、こちらに向かってくる人間のような存在に嫌悪感を示しているかのような恐怖。


 未来を予知するなんて私にはできない。でも、このまま相対したら絶対に嫌なことが起こる、そんな直観を私は感じていた。


 朱美はそんな私の頭を軽く一撫でして、身をさらに屈めた。


「……まだ、いるみたいね」

『一杯いる?』

「3……4……6はいるわ。かなり距離があるみたいだけど、あいつに様子見させてるわけね」


 嫌な予感的中とはまさにこのこと。


 一人に様子を見させるとは、斥候みたいなことをさせている認識で合っているだろう。


 仮に攻撃されたとしても、朱美たちが負ける未来は想像できない。むしろ逆だ。


 彼らが虐殺される未来が想像できるのだ。


 相手のことを心配することからの恐怖なんだろうか。いや、違う。


 おそらく、朱美たちの身を案じての恐怖だ。些細な怪我にすら私は恐怖を抱いている?


 きっと、朱美たちは私を守るために動いてくれると思う。でも、その結果、負うはずのない傷を負うことになるとしたら……そういう結果に対しての罪悪感からくる恐怖。


 折角できた仲間に傷ついてほしくないみたいだ。我ながら、面倒な性格してるよ本当。


 何の力も能力もなく、守られるだけの存在が、守ってくれる仲間に傷ついてほしくないだなんておこがましい。なら、守られないくらいに強くなればいいのだ。


 そうすれば守る必要はなくなり、自分の身を案じることに集中できる。


 でも、感情ではそう簡単に納得できないんだよ。そういう意味では、私って感情的なのかな。


 一人であーだこーだ悩んでいる最中も、狩人みたいな格好の人間はこちらに向かっている。森が間近に迫っているからか、注意深く森の周辺を見回していた。


 ……ここまで来ると、流石の私でも分かる。あれは人間だ。そして多分、さっきの予想は的を得ている。


 パッと見でも分かる範囲のことを説明するとするならば、彼は腰に剣をぶら下げ、背中に弓を背負っていた。鎧姿ではなく、何かの皮でできた服を着ていて、剣と反対の腰には少し膨れたポーチをつけている。いかにも獲物を狩に来てますよーって雰囲気がしていた。


「……朱美、あれは敵だと思う?」

「敵ね。しかも普通の狩猟じゃなくて、私たちの存在を嗅ぎ付けたのか、色々持ち込んでいるみたいよ」

「……つまり、彼らの目的は朱美とかスラちゃんとか樹里とか……私みたいなのを狩ることが目的?」

「まぁ……そうなるわね。それにしても、なんでこのタイミングで嗅ぎ付けられたのかしら?」


 樹里が申し訳なさそうにクネクネしている。


 朱美はそれだけで大体のことを把握したようだ。


「なるほどね。別の場所で発狂死でもしたってことか」

「ちょっと待って朱美。今のどういうこと?」

「簡単に言えば、樹里は結愛にだけ力を使おうとしたわけだけど、あいつらって脆くてね?樹里の力に充てられて精神が狂って死んだ奴が出たのよ」


 おいおいおいマジかよ。樹里もなにテヘッみたいな感じのジェスチャーしてるのさ。どこで覚えたそれ。


 でも、それを考えると、近くに村が存在してる可能性が浮上してきましたね。


「それか、前からどこかに拠点を張ってこの森の探索をしている奴らの誰かが、運悪く樹里の狂気にでも充てられたのかもしれないわ」

「だからあんなに警戒心が高い?」

「まぁね。この森はあいつらも近寄りがたいから、近くに集落を作ろうとする奴は相当な性悪だと思うわ」


 まぁ、確かに朱美もそうだけど、スラちゃんや樹里も珍しい生物だって言ってたから、そういう未知の生物が出る場所に嬉々として来るもの好きは少ないか。


「でも、あの人間、だいぶ近くまで来てるよ?」

「最悪、樹里が出ていくだけでもあいつは簡単に始末できるわ」


 始末て。言い方が怖いですよ朱美さん。


「でも、その後が面倒なのよ」

「面倒?」

「後の奴らの相手もしなきゃいけないし、あいつらが仮に斥候だとしたら、その背面にはもっと数を増やしたあいつらがいるかもしれないでしょ?数を増やされたら最悪殺されちゃうわ」


 朱美がこう言うってことは、あいつらもそれだけの力を持っているってことなんだよな。どうするのがいいんだろう。


 私っていうお荷物がいると死ぬ確率は激増すると思うし、かと言って迂回するといっても他にあの人間たちの部隊がいない保障はない。第三者が大きく場を動かしてくれさえすれば、もっと大胆な行動ができるんだろうけど……。


 ぶっちゃけた話、今日森から出ることを諦めて、人間から見つからないように息を潜めているのもありなのかもしれないけど、ここまで来たんだから出たいという欲求がある。


 頭が良くない私には良い案が思いつかないよ。樹里を特攻させる?でも朱美の言い方だと、少なくとも一度、朱美は斥候からの大部隊との戦闘をしている気がする。


 さっきの状況判断は、人間というものに疎い朱美にしては妙に実感のこもった言い方というか、面倒だったという感情が見て取れるくらい説得力があった。


「何度かあるわよ?本当に疲れるのよ。数で来られると」


 そんなげんなりした表情も美しいのが朱美さん。


「少しは怖くなくなったでしょ?」

「うん、ありがと。でも、なんとかしないとね」

「そうねぇ……」


 コミュニケーションを図りたい気持ちももちろん嘘ではないのだが、今警戒している人間から滲み出ているのは殺意とかの怖い感情なので、そんな相手の正面に立ちたくありません。


 誰か助けてくれないかな……。


 何気なく思ったその言葉は、一種の願いだったのかもしれない。


 新しい世界を目の前にして、緊張感走る場面に遭遇してしまった私たち。


 私が諦めれば済む話なのかもしれない。でも、諦めたくないのだ。


 これは我儘なのかもしれない。


 何もできない小娘風情が何をほざくと鼻で笑われてしまうかもしれない。だが、選択肢とはその個人の自由であり、何に影響されようと選択するのは自分自身なのだ。


 そして、私は選択した。外へ行きたいと。知らない世界を知りたいのだと。


 私を連れて行ってほしいと。


 その小さな願いが果たして功を成したのか、本当に何気ないつもりで思った救済を求む願いは、その場の雰囲気を一転させる形で実現された。


 ……森の最深部の方向から、何かを感じた。


 思わず振り返り、その何かを言葉で表現することは叶わないけれど、確かに感じ取れる何かであることを確信する。


「……あいつ、動いたのね」


 朱美は一瞬だけ警戒心を跳ね上げたが、すぐにそれを解いた。私にはその言葉の意味は分からないため、朱美の行動と言動の意味を理解することができない。


 ただ、森の探索をしていた斥候の一人には劇的な変化があった。


 大きく顔を歪めたのだ。


 その表情の意味を私はよく知っている。


 それは、恐怖だ。

それでもやっぱり読むのが好き。

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