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初めてのご飯

我ながらゆるふわな空間を演出できたのではないかと自負しています。

 何はともあれ、まずは火起こしから始めなきゃいけないよね。


 スラちゃんがいれば種火を作るとかの重労働はいらないと分かってしまったので、適当に薪を並べる。一日目は枯れた木とか、枯葉とか探してたけど、人間楽を覚えるとダメだね。


 一昨日よりも昨日を、昨日よりも今日を楽に生きようとしてしまう。その果てが文明開化につながり、人類は緩やかに衰退の一途を辿ってますよー。


 開花するまでは頑張るのに、楽になりすぎるとどれだけ楽になれるかの極限を目指すなんて、さすが俺は文明人やってる~。


 さぁスラちゃん、君の素晴らしい魔法のガスバーナーの出番だよっ。


 俺の期待の眼差しに応えようとしてくれているのか、スラちゃんはフンスッと気合を入れている。かわいい。


 そんなに気合を入れる必要があるのかどうかはさておき、あとは、筍の下処理をしたほうがいいのかどうなのかっていうのを考えなければいけないわけなんですけどー……野生の筍なんて初めて取ったから、下処理の方法が分からぬ。


 普段はスーパーで千切りかつ下茹でされた感じのしか見たことがないから、写真以外で実物を見たのってこれが初だったりするのよ。


 逆にさ、街中に住んでる人で自然の筍見たことある奴とかいんの?田舎のーとかじゃないぞ。俺は自然のほとんどない街を想像して語り掛けているんだぞ。いや誰にだよ。


 独りノリ突っ込みを心の中で展開しつつ、筍を手に持ったまま微動だにしない俺を不思議がっている朱美の視線を感じたこともあって、俺はこのまま皮ごと丸焼きにする決心をした。


 原始人は火の扱いを覚えた当初、全てを丸焼きしていたに違いない。つまり、丸焼きは全ての調理という概念の原書にあたる偉大な功績なのだよ。異論反論は謹んでお断りさせてさせていただきます。そんなにこの手の知識に俺は詳しくないんで。


 無言の時間が長引いているような気がするが、そんなもんは気にしねぇ。ようやく文明の第一歩に辿り着けそうなんだよ。テンションが上がってるんだよ。


 スラちゃんは昨日も見せてくれた謎のガスバーナーで薪に火を付けている。


 相変わらずガスバーナーにしか見えないんだよな。マジでこれどうなってんの?


 漫画とかみたいに火の塊を木にぶつけた瞬間に燃え上がったりするけど、そういうわけでもなく、前の世界でも見たことあるというか、いくら俺でもガスバーナーぐらい使ったことあるわけでして。


 魔法とかそういうものよりも、スラちゃん=スライム型ガスバーナーという概念が定着しつつあるわけでして。


 何が言いたいかっていうと、ファンタジーなんだけど、やっぱりここは現実なんだなぁといった何度目かもう忘れるくらいの我に返るかのような感覚。


 ハハッ、何が言いたいのか上手くまとまんね。


 まぁいいんだよそんなことは。


 無駄な思考をしているうちに焚き火も出来上がったし、これで筍を焼くことができるぞー。


 朱美はこの炎を見てなんも感じないんだな。結構、動物は本能的に火に恐怖を感じるとか聞いたことあるような気がするけど……いいや、お腹空いたし。


 めんどくさいからこのまま火が大きく聳え立つ焚き火に筍を放り込もうかと考えたところで俺は気が付いた。


 なんか、熾火とかなかったっけ?


 炎って確か燃えている下の部分よりも先端の部分というか、先の方が温度が高かったような気がする。最高温度は1200~1400度くらいじゃなかったっけ?


 マグマが800度くらいっだような……うる覚えではあるけど、火、やべぇ。


 こんな中に適当に放り込んだら、温度の差で均等に火が通らないかもしれないじゃないか。熾火になるまで待つ必要がありそう。


 ……ここからまた待つ作業か……。


「……浮ついたり、落ち込んだり、落差が激しいわね」

「……ほっといて」


 俺自身は表情が動いてるような気はしなかったんだけどな。そんなに分かりやすい?分かりやすいかー、そっかー。


「で?いったいどうしたの?火は着いたじゃない。料理しないの?」

「いや、このままだと中まで火が通る前に焦げちゃうから、火が落ち着くまでしばらく待たなきゃいけない」

「めんどくさいわね」

「ほんとね」


 仕方ないから、一仕事終えてゆったりとしていいるスラちゃんを撫でて時間を潰すよ。


 スラちゃんは撫でられると、『うきゃーっ』と身体全体が俺の手のひらに触れるように、少し身体の形を崩した。やっべぇかわいい。


 スラちゃんを両手で掴んで股の間に持ってくる。


 ふへへこいつぁやべぇや。


 手触りいいし、かわいいし、『うきゅーっ』とか言ってるし、最高に癒されるわ。


 そんな俺を呆れた目で見つめる朱美の視線もしっかり感じています。だって火はまだ立ってるんだよ。筍の下処理も詰んだし、いいじゃん少しくらいだらけても。


 朝一であんな気色悪いもの見たんだから、今くらいは少しリラックスしたいわけですよ。


 朱美さんや、なぜ筍の顔を俺に見せつけてくるんです?今それはいらないよ。


 俺の視界に余計な不純物を加えないでほしいんですけど。おい、こら、朱美明らかに暇だから俺の邪魔しに来てるでしょ。俺が構わないからって拗ねてんじゃないのー?


「んっ……ちょっ、なんで胸っ……やめっ……」

「今心の中で私のことをからかっていたような気がしたから、その仕返しよ」

「でも……それはっ……反則ぅ……」


 こいつぅ……俺が弱いのをイイことに、いきなり背中から胸を揉みしだいてきやがった。ちょっ、マジでさっきから全身に電流みたいの奔ってるからっ……手を止めないさいよこのエロ蜘蛛。


 敏感な先端部分を軽くこするような感じで刺激しつつ、ゆっくりと痛くない程度の力で山を揉まれるのは、感度の高い俺にはクリティカルヒットすぎて何もできないんですぅ。


「反省の色が見えないわね」

「はん……せい……しましたぁ……」

「……涙目だし、これくらいで許してあげましょうか」


 やっと解放された……。スラちゃん、俺、一昨日までは男だったんだよ?もう、本当に尊厳も何もないんだなって……。


「私に隙を見せるからそうなるのよ」

「常に警戒してろと?」

「されたらされたで組み伏したくなるわね」

「ごめんなさい」


 もうやだこのエロ蜘蛛。勝てる気しないんですけど。


 そうやって時間を潰していれば、火もいい感じに落ち着いてきた。やっと調理にかかれますね。


 早くこの空腹感を紛らわせたい。


 薪を一本使って焚き火を少し崩す。そこに筍を放置。


 調理、終わり。


「これだけ?」

「これだけ」


 朱美さんも何も言えないこの状況。うん、俺も何も言えない。スラちゃんは俺の手の中でご満悦。


 いやね、だから、これが他のよく使うような食材だったらもう少し思考を凝らしてみるんだけど、調味料も器具もない、焚き火オンリーでできる料理は、なんの変哲もない超ド直球な丸焼きしかできないわけだよ諸君。


 だが、繰り返しになるかもしれないが、丸焼きだからと侮ることなかれ。これは我らが先祖が文明へと大きく一歩を踏み出すきっかけにもなった偉大な調理技術なんだよ。


 そもそも火をこういう風に使うなんて思いつくだけども勲章ものだと俺は思うよ?だからそんな残念そうな子を見るような顔をしないで朱美。


 君は今文明開化の足掛けを間近で見ているようなものなんだよ!?


「そんな熱意の籠った視線を向けられても、やってることは結局、火の中に死体を放りこんだだけじゃない」

「言い方考えようよ朱美。それじゃまるで火葬だよ」

「そう言ってんのよ。あいつらの中にもいたわね。死体の放置は何かに変わってしまうかも知れないから燃やして処理するらしいわ」


 え、この世界にはゾンビみたいなのもいるって遠回しに言ってません?


 俺ホラーとかマジで無理な人なんだけど。ホラー苦手だけど怖いもの見たさでホラーを求めてしまうような刺激を求めるタイプとは違った意味で、本気と書いてガチでホラーが苦手なタイプなんだけど。


 そこんところどのようにお考えで?


「だから熱の籠った視線だけじゃ伝わりきらないこともあるのよ?」


 俺そんな長文喋れないよ。


 朱美は相手の表情とかで思考まで読める超生物なんだから察してよ。今こそ届け俺の想い。


「本当にどうしたの結愛……」


 察せよぉぉぉぉぉ……。こういう時に鋭さを発揮してほしいんだよぉぉぉぉぉ。もうキャラが崩壊しそうだよぉぉぉぉぉ。


 スラちゃんが一本の触手を伸ばし、頭を撫でてくれる。あぁ……こいつが優しさってやつか……。


「いやだから、全く表情変わらないのに視線だけ熱込められても、分かることなんて些細なことくらいよ。会話の流れもないっていうのに」


 朱美……君にはがっかりしたよ。


 イタッ。朱美にチョップされた。


 何をするんだと怒りを込めた視線を朱美に送ろうとすると、


「今のは分かったわ。謂われようのない罵倒をしたでしょ」


 と返されたので、流れるように視線を絶賛火にかけられている筍に移した。


「命が惜しくないようね?」

「ごめんなさい」

「素直な子は好きよ」


 俺は嘘をつけないんだ。


 命(社会的な)が懸かった瞬間に手のひらクルーは常套手段さ。これ以上乱れたくないんだよ。


 朱美の目つき怖いし。怒らせたら本気で命(社会的な)を刈ってきそう。


「……そろそろ筍ひっくり返そうか」

「こっち側は火が通ったのかしら?」

「多分ね」


 片面はもういいと思うんだよな。香ばしい香りもしてきたし、このままだと火が入りすぎるかもしれないからひっくり返して様子見しよう。


 でもこれ上手く返せるかなぁ。スラちゃんに頼んだせいで、薪は結構立派なのが多い。つまり、二本使って筍をひっくり返そうと考えているわけだけど、小回りが利きそうなやつがないんだよね。


 かといって手で触ろうものなら火傷は必至だろうし……。


「これを返せばいいんでしょ?」

「できるの?」

「当り前じゃない」


 そういいながら朱美は指から出した糸を使い、器用に筍をひっくり返した。万能すぎやしませんかね?っていうか前の世界でも指から糸出す戦士がいたような気がする。蜘蛛系の人?たちはみんな指からも糸出せるんですか?


「これでいいの?」

「いいよ。朱美はすごいね」

「これくらい普通よ」


 どこがよ。


 本当に常識が通用しないね。おかげで突っ込んでばっかだよ。


 このまま放置してればもうじき焼けると思うし、また少しの間暇で空白な時間ができてしまったよ。


 スラちゃんを撫で続けるのもいいけど、やりすぎると朱美からの思いもよらないちょっかいが来る可能性が生まれた。つまり、次はスラちゃんではなく朱美を構えばいいってことになるのかな。


「また何かくだらない考えをしているような気がするわね」

「ソンナコトナイヨー」


 なんて勘のイイ女なんだ。上から目線でもの語ってましたとか、バレた瞬間に何されるか分かったもんじゃないよ。


「そんなことばっかり考えているから痛い目を見るのよ?」

「私と朱美って今日出会ったばっかりな気がするんだけど、なんでそんなに私のこと分かってますよオーラが出てるの?」

「言ったでしょ?結愛は分かりやすいのよ」


 この短時間でそこまで見抜かれるような要素あった?俺基本無表情らしいけど、そんなにも俺を見抜ける要素ありました?


 朱美さんやばいよ怖いよー。そんなところも好きですなんて洒落たこと言えないよ。隠し事したら一発でバレること必至なんて嫌だよ。どうすんだよ。


「隠し事しなければいいじゃない」

「なぜわかった」

「そんな顔してた」


 顔を揉む。何も変わってないやん。


 おうコラ。俺のこと弄んでじゃねーぞコラ。俺だって怒るときは怒るんだぞ。


 いちいち朱美に何を言っても無駄だということはすでに理解していることではあるんだけどさ。こればっかりはやっぱ一言言いたい感じするよね。


 知能レベルの高い奴の言いたいことなんて俺には理解できないんだよなー。


 なに、頭いい奴って往々にして相手の顔である程度の思考を読むとかできんの?そしたら頭いい奴同士を顔合わせさせたら会話する必要無いじゃん。


 てか、それなら前の世界の営業系の役職に就いている人間の中でも、業績が上の存在って相当な化け物ってことになるじゃない。


 前の世界の常識なんて捨てましょうね。通じないんだから。これも何回目の戒めなんだろうかな……。


 よく考えたらだけど、スラちゃんと朱美って、存在としてみたらどういう風に映るんだろう?


 俺はなぜだかこの二人?に恐怖心というものが湧かない。けれど、それは俺がこの世界に来る過程の中で歯車が狂ってしまい、俺の価値観そのものに何らかの悪影響が起こった可能性も捨てきれないよな?


 もし……仮にだけど、俺の価値観がバグっていて、本当はスラちゃんや朱美が恐ろしい存在でしたなんて結末が急に訪れたとしたら……俺はその時どんな選択をするんだろうね。


 俺の性格上、いきなりスラちゃんや朱美を悪と断定し、粛清の対象とするような真似は出来ない。むしろ、逆に食料にされる未来は簡単に想像できてしまうんだけど。


 異世界転生って、こんな鬱々とした気分がいちいち襲ってくるようなモノなのかなぁ……もっと未知を楽しむもののような感じがしないわけでもないけど。


 ……未知って、怖いな。


「そろそろ焼けたんじゃない?」

「……ん、ああそうだね。多分そろそろ大丈夫だと思う」


 意外と長い間ボーっとしていたみたいだ。


 筍はもういい塩梅で焼けている。ここまで香ばしい匂いを発しているんだから、もうそろそろ食べごろだと思うんだよね。


「朱美、これ持てる?」

「だと思ったわ。そこまでは考えてなかったのね」

「すっかり頭から抜けていました」


 火を通すと熱くなるよね。俺は何故そのことをもっと深く考えなかったんだろうか。素手でじっくり焼いた筍を触れると無意識に確信していたのかね?


 朱美は普通に素手で筍を掴み、熾火の中から取り出した。


 ……マジっすか。


「え、熱くないの?」

「そこまで熱くないわね」

「朱美さんの身体は何でできてるんですか?」

「さぁ?ところで、これ皮剥いていいのよね?」

「あ、お願いします」


 朱美さんが男前すぎて敬語が抜けないよどうしよう。


 ところでさ、俺時計とか持ってないし、ここの時間の流れを把握してないからあれなんだけど、空が若干赤みがかっている気がするんだよね。


 もしかしなくても夕焼けですか?いくら何でも早くない?


 ……起きる時間が遅かったとか?これも文明に甘えすぎていたが故の弊害ってやつか……。


 時間の概念を見つけた学者さん?は凄く偉大だと思うよ。俺はそんなことに微塵も興味を持たずに、明るくなったら起きて、暗くなったら寝るみたいな生活を死ぬまで続けていたんだろうね。


 そこに求めるのは極力考えない、考える必要のない既定通りの生活。それは一種の閉鎖世界に位置づけられるものかもしれないけど、その世界はきっと、想像以上に幸福に満ちていて、些細な不幸にすら気づけない世界なんだろう。


 人間が壁に当たる瞬間というのは、ある意味新しい何かを形作ろうしたときだよ。煙の無いところに火は立たないのと同義で、無から有を作り出すことはできない。でも、今ある前提条件の中で、新たな可能性というのは無限とはいかないまでもかなりの数存在する。


 その一つ一つは大したものにならないかもしれない。それでも新しいものが既存のモノになることによって、そこに更なる可能性が生まれる。


 新しいを生み出すことは、知能のある存在にしかできない。そうやって人間とは発展してきたのだから。そして、その新しいを生み出すその時、それが既存の枠組みでは推し量ることのできない何かへと昇華させるために考えるということは必要不可欠であり、そこでの発想は大きな壁と何ら変わりない難問に等しいということ。


 それを生きがいにする人は結構な数いるんじゃないだろうか?


 どうやら俺は違ったようだけど。


 目の前で、焼けた筍の皮を剥く朱美と、その様子を間近で見ているスラちゃんを眺める。


 俺もまさに今、あらゆる可能性の中にいるわけだ。


 今からとる選択によっては、この場の雰囲気が一変するだろうし、その逆もありうる。


 ほぼ無限ともいうべき”もし”の中、この場で最悪の選択肢を俺が故意に選ぶ可能性も無きにしも非ずということ。


 ……朱美とスラちゃんを■■■か、その逆も場合によってはあり得てしまう。


 こんな思考をしてしまう俺はなんて嫌な奴なんだろうか。


 あぁ……いま、おれはどんなかおをしているのだろう?


 じぶんでもわからない。


 わらっている?ないている?おこっている?それともきょむ?


 このかんかくはさすがにわかるよ。やばいって。


 なんか、おかしい、くるってきてる。


 でもなぜだろう。


 あらがえない、あらがおうとおもえない。


 もしかして、おれってさいしょからどこかがおかしかったのかも?


 こわい、こわい?こわい。こわいよ。


 でもやらなきゃね。そうだよね。しにたいもんね。


 あぁ、あみがわたしのほうをみた。


 ■■だよ。

我ながらゆるふわな空間を演出できたのではないかと自負しています。

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