1-3 運命の辞令③
ナルシスの言葉に俺は絶句してしまった。
いくら悪人たちの巣窟とはいえ、スラム街には何の罪のない人たちもいたはずだ。
そういう人々も一緒に残虐したなんて……。
そんな俺に追い打ちをかけるように、ナルシスは話を続けた。
「君は、ドラゴンを用いてスラム街を焼き尽くしたことに対して反感を持っているように見えるが、国に不必要なゴミをただ排除しただけのことさ。
ゴミは処分する。当たり前のことじゃないか。
あとね、陛下との謁見の際に君は「ドラゴンと協力関係を結べたら」と言っていただろ?
それも間違いなんだよ。ドラゴンは殺戮の道具であり、人間に服従させるべきものなんだ。そんな甘い考えを持っていたら、いつかドラゴンに殺されてしまうよ。」
(こいつ、何を言っているんだ……)
思わず、ナルシスに突っかかりそうになったその時、その行動を制止するようにダクーリュが話を割り込ませてきた。
「カイト隊長!! コホン……話の途中のようだが、失礼する。
では、これより実際にドラゴンを見てもらう。」
実際にドラゴンを見てもらうといっても、ここにはドラゴン部隊の隊長である3名しかいない。
カイトが不思議に思っていると、ダクーリュがカイトたちから少し距離を取った。
そして羽織っていたマントを脱ぎ棄てると、次の瞬間、ダクーリュの身体が巨大化し、あっという間にドラゴンへと姿を変えた。
そのドラゴンは見間違えることはない。
カイトが幼少の頃に出会った、村を救った救世主たるドラゴンの姿だった――。
(ダクーリュ隊長はあの時のドラゴンで、ドラゴンの正体は人間だったのか……!)
その姿を食い入るようにカイトが見ていると、隣でナルシスが話始めた。
「ダクーリュ殿はね、原初のドラゴンでもあり、我が国で最高の力を持つドラゴンなんだよ。
美しいだろう。彼だけは特別なんだ……、そう彼だけはね。」
ナルシスはドラゴンの事を道具としてしか見ていないようだったが、その言葉より察するに、ダクーリュに対してだけは見方が違うようだった。
俺はそう話をするナルシスの方を見た。
カイトの視線に気付いたナルシスは、
「おっと、僕はドラゴンじゃないよ。普通の人間さ。」
と、自分がドラゴンであることをすぐさま否定をしてみせた。
ナルシスと話をしている間に、ダクーリュは人間の姿に戻っていた。
そして脱ぎ捨てたマントを身体に巻き付け、こちらに向かって歩いてきた。
「これがドラゴンの正体さ、普段は人間の姿をしている。
ドラゴンになると、服がダメになるからあんまり変身したくないんだけどな。」
と、ダクーリュは冗談混じりに話始めた。
「きっと、お前も疑問に思っていたはずだ。
なぜ、人間よりも力があるドラゴンを人間たちが使役する事ができるかを。
俺たちには時間制限があるんだよ。ドラゴンに変身できる時間の制限がな。
通常は30分程度だ。それを過ぎたら人間の姿に戻ってしまう。
一度、人間の姿に戻ってしまったら力が回復するまで、ドラゴンに変身することはできない。
人間の姿に戻ってしまうと、能力も勿論人間並みに戻ってしまう。
また、ドラゴンの力を持つ人間には、生まれつき手の甲に印があるんだが、
その印を封印されたら、俺たちはドラゴンに変身することができない。
俺たちには、弱点が多いんだよ……。」
そう説明するダクーリュの姿は、少し寂しそうに見えた。
「明日、早速お前の部隊に入るドラゴンたちと対面してもらう。
そいつらは、元々は第1、第2部隊にいたドラゴンたちで、聞き分けのよいやつばかりを選んだつもりだ。
きっとお前なら上手くやっていけるだろうさ。」
そう言い残すと、ダクーリュとナルシスは帰って行った。
残された俺はというと、
たった1日で国家機密である重要事項を一遍に知ることになったのだが、意外と頭の中は冷静だった。
恐らく、この時はあまりに色々な事がありすぎて、脳内で上手く情報の処理が行えていなかったのだろう。
後で秘密保持の為の契約書にサインしてもらうと言っていたが大丈夫だったのだろうか。
ドラゴンに変身した際に契約書も一緒に破いてしまったのではないか等と考えながら、かつて大勢の人々が暮らしていいただろう場所に一礼をし、帰路についた。