1-2 運命の辞令②
3人だけになり静かになった会議室で一番初めに口を開いたのは、あの傷の男だった。
「俺の名前は『ダクーリュ・バシュレ』だ。第1ドラゴン部隊の隊長をやっている。
隣にいるこいつは『ナルシス・マリオット』第2ドラゴン部隊の隊長だ。
いきなりで驚いただろうが、これから順次説明をしていく」
『バシュレ』と『マリオット』どこかで聞いた名前だと思いながら俺も軽く挨拶をすると、早速ダクーリュは説明を始めた。
「まず、ドラゴン部隊についてだが、その名の通り基本的に隊長と副隊長以外はドラゴンで編成された部隊だ。
所属するドラゴンの数は部隊によって異なるが、お前の部隊は最初は5体からスタートだ。
なお、ドラゴン部隊というのはお前も知らなかったとおり、国家機密だ。
なので、普段は他の者たちからは『D部隊』と呼ばれている。
まぁ、D部隊と呼ばれている意味はそのうちわかるだろう……。
話が終わったら最低限の秘密保持の為に契約書をサインして貰うが、お前の仕事は全て最重要機密事項だ。
もし、誰かに話したら極刑は免れないと思え。
まぁ、お前についての資料を見せて貰ったが……、お前なら誰かに話すこともないだろう。
次にお前の仕事内容の話だ。
基本的なドラゴン部隊の仕事は、隣国のドラゴン部隊との戦争だ。
領土などの所有権をめぐって、戦ってもらう。」
「なっ……!」
つい、俺は声を出してしまった。
俺は防衛部隊にいたので、ある程度の国家間の外交状態は知っていると思っていた。
確かに、国境沿いの領土がコロコロと変わるのでおかしいとは思っていたが、
戦争が起こっているなど聞いたことがなかった。話し合い等で決められていると思っていた。
「まぁ、裏でこんなことが起こっているとは普通は思いもしないだろうな。
ドラゴンが戦争の道具として使用されるようになったのはつい最近のことだ。
…10年ほど前に1体のドラゴンが姿を現してから、戦争にドラゴンが用いられるようになった。
最初は人間とドラゴンの混合部隊で戦争を行っていたのだが、ドラゴンの力は凄まじく人間は虫けらのように駆逐されていった。
他国がドラゴンを用いて隣国の町を襲ったこともあった。
その結果、攻められた町は一瞬のうちに住民ごと灰と化してしまった。
人間界にとって、ドラゴンの力はあまりにも巨大すぎた。
このままドラゴンの力を用いた戦争を続けると、全てが灰になってしまう。
危機感を持った国家同士は話し合いの末、今後戦争する際には然るべき場所でドラゴン同士の戦いで勝敗を決めることに決めた。
まぁ、最初は細かい揉め事などもあったが、結局人間の力ではドラゴンに勝つことはできない。
もしドラゴン同士の戦いで負けたら、それ以上何をやっても無駄なのだ。
戦争の形式はだんだん単純化されていった。」
そのような話を聞いて、俺には疑問しかなかった。
(そんな巨大な力を持ったドラゴンを、なぜ人間が従えることができるのか?)
(10年ほど前からドラゴンが出現したということだが、それまでドラゴンはどこにいたのか?)
「まだ色々と疑問に思うことはあるかと思うが見てもらった方が早い。
場所を移そう。」
そう言うとダクーリュは、カイトに付いてくるようにと命じ会議室を出て、城の裏側にある立ち入り禁止のエリアに移動をした。
そして、隣で静かに話を聞いていたナルシスも一緒に付いて来た。
◇ ◆ ◇
俺たちは立ち入り禁止エリアに移動してきた。
そこは周囲を城壁に囲まれており、外からは見ることができない構造になっていた。
広さは、小さな村だとすっぽりと入ってしまうサイズだった。
よく王国内にこれだけの土地を設けることができたものだと感心してしまった。
カイトが何を考えてるかを読み取ったのか、ここに来て初めてナルシスが口を開いた。
「ここは昔、巨大なスラム街だったんだよ。
近隣の国からも悪人どもがウヨウヨと集まってくるぐらい有名なスラム街でね。
貧困の者も多く衛生管理なんてそれはもう杜撰でさ、国に病気が蔓延するのもいつもこのエリアからだった。
悪の吹き溜まりのような場所さ。
その為、国のお偉いさん方はこのエリアが邪魔でしょうがなかったんだけど、国が管理をしようとにも、スラム街は常に無法地帯だった。
スラム街を武力で占拠しようと何度か話は挙がったようだけど、流動的に人の出入りもあり人数の把握も難しい。また、武器売買なども頻繁に行われていたようで戦力も未知数だった為、下手したらこちらが返り討ちに遭い大打撃を受けてしまうかもしれない。
そんな理由もあり、ずっと手が付けられない状態だったんだ……。
でもね、今はそのスラム街が綺麗に無くなり、何もない平地になってしまった。
なぜだと思う?」
「……はっ!?」
カイトは直感した。
恐らく今頭に浮かんでいる事こそが答えなんだろう。
「そうそう、君が考えているとおりのことさ。
焼かせたんだよ、ドラゴンに。」
そう話をしているナルシスの表情は、
俺にはなぜか、笑っているように見えた。