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1-1 運命の辞令①

 シルドニア国の第1防衛部隊の副隊長の一人である『カイト・キルヒナー』は、王直々に任命したい役職があるということで会議室に呼ばれていた。


 シルドニア国は貴族中心の国である為、軍隊の隊長・副隊長クラスは通常貴族のみで構成されていたのだが、カイトはシルドニア国内でもトップクラスの実力を持つ剣の使い手だったこと、今まで挙げてきた功績が大きいこと、そして周囲からの信頼が厚いことにより平民出身でありながらも、珍しく副隊長として抜擢されていた。


 だが、そんなエリートであるカイトにおいても平民出身という壁は大きく、王に直接会うことは初めてのことだった。


 会議室への入室を促す指示があるまで、カイトは会議室の前に待機をしていたのだが、カイトが想像していたことは決して良いものではなかった。


(王直々の勅令なんて、嫌な予感しかないな……)


 もし、自分が貴族出身者であったならば、疚しい事をした覚えもないし、寧ろ最近は仕事で活躍をすることが多かった為、出世だと思い手放しで喜んでいただろう。

 しかしながら、俺は平民出身だ。流石に今以上の出世は見込めないだろう。


 だとすると……王が直々に任命するような重要な役職で、俺にできることと言ったら表に出すことができない汚れ仕事しかないと思った。

 そうこう考えているうちに、カイトは会議室に入室をするように命令された。


 ガチャ―。

「失礼します。」

 会議室に入るとすぐに、カイトはギョッとしてしまった。

 カイトが想像していた以上に、部屋中に重苦しい雰囲気が広がっていたのだ。


 会議室にある大きなテーブルを挟んだ向かい側の中央には立派な椅子が置いてあり、そこには王が座っていた。

 王を囲んで横並びに大臣と、輝かしい活躍で有名なシルドニア国の最高部隊である白銀騎士団の隊長が座っており、騎士団長の隣には見知らぬ人物が2名座っていた。


 2名とも男だったが、一人は屈強な厳つい体形をしており、片目は大きな傷で塞がれていた。

 如何にも幾千の戦場を駆け回ってきた強者という印象だった。

 もう一人は、体つきは良さそうだが髪が長い綺麗な服装を纏った美男子で、隣に座っている男とは全く違った印象だった。


 王、大臣、騎士団長は、流石に国のトップレベルの偉い人物とあって堂々としており威厳があったのだが、それ以上に片目に大きな傷のある男の存在が気になった。

 カイトは言っても剣の達人だ。強さを見極める腕も一流だった。

 そして剣を交えなくとも、傷の男の力は自分をも超える化け物クラスだと直感した。


 カイトは入室後、大臣に促されるまま向かい側の中央の席に座った。


「君はドラゴンという存在をどう思うかね?」

 大臣はカイトが着席したのを確認すると、早速質問をしてきた。


 カルティア教会の教えでは、ドラゴンは悪の化身とされている。

 きっと、それを答えるのが正解何だろう……。

「ドラゴンは……、人間に敵対する悪の化身です。……ただ、」

「ただ、なんだね?」


 ここで、自分の考えを述べるべきではないと頭ではわかっている。

 この世界にとってドラゴンは、忌むべき存在として浸透していた。

 でも、俺は幼い頃にドラゴンに助けられた経験があった。

 俺にとってのドラゴンは救世主なんだ!


「…ただ、とても大きい力を持っており、人間が抗えない脅威にも立ち向かうことができる。

 ドラゴンと協力関係を結べたら、人間を助けてくれるそんな存在にもなり得るのではないでしょうか。」


(あぁ、言ってしまった……!)


 俺の考えを聞き、テーブルの向かい側では何かしら話し合いをしていた。

 小声で話していたのだが別に俺に聞かれても問題ないようで、テーブルを挟んで座っていた俺にも時々声が聞こえてきた。

「私はいいと思いますよ」

「ええ、私も、まぁ……」

 といったように、皆何かに対して賛成をしているような会話だった。


 ◇ ◆ ◇


 その話し合いは、すぐに終わった。

 時々、聞こえてきていた話の内容のとおり反発するものもおらず、すんなりと意見がまとまったようだ。

 そして、大臣がカイトに対して口を開いた。


「早速だが、これから第1防衛部隊 カイト副隊長に王から新しい任を授けられる。なお、これは命令なので、断ることはできん。心して聞くように! では、陛下お願いします。」


(やはり拒否はできないのか……)

 どんな任に任命されても断ることはできない。

 事前にわかってはいたが、改めて言われると全く嫌なものだ。

 心の中はどん底の気分だったが、俺は表情を全く変えること無く話を聞くことができた。


 第1防衛部隊の副隊長として赴任したばかりの頃は、俺の出世が気に入らない貴族出身の兵士たちが山ほどいた。

 そいつらの嫌がらせにいちいち反応していたらキリがない。

 何事も無かったように無視をするのが、一番の得策だったのだ。

 平民出身の俺が貴族たちの中にいると、こういう処世術は上手くなる。


「では、申し伝える。」


 遂にこの時がやってきた。

 せめて命が幾らあっても足りないような任務には就きたくない! そう心の中で祈った。


「本日より、カイト・キルヒナーは、新設する『第3ドラゴン部隊』の隊長に任命する。」


「ドラゴン部隊!?」

 俺は思わずビックリして、声を出してしまった。

 そして、どんな言葉にも物怖じしないはずの俺の自慢の鉄壁仮面は無残にも崩れ去っていた。


「まぁ、驚くのも無理はない。

 ドラゴンとはつい最近まで伝説の生き物だと思われていたものだしな。

 詳しい説明は、他のドラゴン部隊の隊長から聞くように」


 そう言うと、王、大臣、白銀騎士団長は会議室を後にした。

 そして、そこには白銀騎士団長の隣に座っていた男2人とカイトの3人だけになった。

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