俺は異世界の勇者に復讐したい
「あんたなんかもう好きでも何でも無いし、関わられるのが鬱陶しいからさっさと消えてくれない?」
「私はセカイが好きなのよ」
それが、俺が一年ぶりに会った恋人からの言葉だった。
その言葉を聞き、俺は頭が真っ白になり、急に世界が反転したかのような気持ち悪さを覚えて、膝から崩れ落ちた。
何で、俺はこんなことになっている?
何故、俺はこんなにも嫌われている?
あの時までは、あんなにも俺を癒す綺麗な笑顔でこっちを見ていたのに。
何故今はそんな、ゴミに群がる虫でも見るような顔で俺を見る?
俺は何を間違えた?
俺は、あんなにも努力していたのに……
〜〜〜〜〜 一年前
「ねぇ、リーフ」
ミラは、まるで天使のような微笑みを浮かべて俺の名を呼んだ。
半年前に告白してOKを貰えた時は嬉しすぎて死ぬかと思った。
「どうしたんだ?」
今でも夢なんじゃないかって思う時もあるけど、この笑顔を見る度にそんな思いは吹っ飛んでしまう。
俺って、幸せだな。
「ただ呼んだだけよ」
「そっか」
こんな何気ない会話も楽しく感じられてしまうのは、恋人補正だったりするのかなぁ……
今は2人でステータスを貰いに行く最中だ。
他の国では違ったりするところもあるらしいが、俺の住んでいる国、リアン王国では15歳の誕生日に教会で貰う事になっている。
ステータスには自分の潜在能力である《スキル》と、生物を倒してその魔力を吸収する事によってだんだん上がっていき、上昇すればする程強くなる《レベル》という物がある。
とんでもないハズレスキルとかじゃなけりゃ、それでも良いんだけどなぁ……
「神よ、この子らに贈り物を……」
神父が呪文を唱えた時から何故かステータスが開けるようになる。
と思われているが、実際には裏に隠れているもう1人の人物が特殊な魔道具ーー魔力によって動く道具ーーを使っているだけである。
どんなスキルを貰えたか楽しみだ。
ワクワクが抑えきれずに俺はステータスを開く。
ーーーーーーーーーー
リーフ レベル1
スキル] 《心眼》
ーーーーーーーーーー
心眼……?
一体どんなスキルなんだろう。
近くにいたシスターに問い合わせてみるも、そんなスキルは初めて見る との事だった。
もしかして凄い外れ引いたりとかかなぁ……
嫌だなぁ。
さて、ミラはどんなスキルを持ってるんだろうか。
「おおっ!これは凄い!《全魔法適正》と《魔力増大:極》だ!」
何だって!?
《全魔法適正》は、火、水、風、土、雷の5つある属性全てに適正があるスキル。
《魔力増大:極》は、魔法を使う為のエネルギーである魔力を圧倒的に増やすスキルだ。
どっちもかなり強力なスキルとしてお伽話にもなる程のスキルだ!!
自分の好きな人が強力なスキルを手に入れている。
そう思うと、何故かとても嬉しくなって思わずミラに駆け寄ってしまう。
「凄いいいスキルじゃないか!やったな!」
「うん!よかったぁー変なスキルとかじゃなくて」
「俺は《心眼》とか言う、よく分からないスキルだったけどね」
「でもいいじゃない。偶にスキルすら貰えない人だっているらしいし、あるだけマシよ」
それもそうだ、と2人で笑い合う。
俺はよく分かっていなかったんだ。
ーー強すぎるスキルを手に入れた事の意味が。
翌日、ミラは村長に呼び出された。
俺も同伴を許して貰い、話を聞いたが、どうやら勇者パーティに加わって魔王討伐の旅に出るらしい。
話が終わった後ミラに、家の裏の大きなサクラの木の下に呼び出された。
「あのさ……私はいなくなっちゃうけど、忘れたりしないでよ?」
なぁんだ。
そんなことか。
「勿論、俺がミラの事を忘れるなんてない。魔王をしっかり討伐して、平和になったら……結婚してくれないか?」
言ってしまった……
今俺の顔は真っ赤だろうな。
「うんっ!嬉しい!待っててねリーフ!すぐに魔王なんてけちょんけちょんにして戻ってくるから!」
「俺も出来る限りの努力はするけど、専門パーティには負けそうだなぁ……」
「大丈夫よ!私に全部任せなさい!後、手紙送るからしっかり見てよ!返事は多分届かないと思うから送らなくてもいいけど」
ありがとう神様。
俺をこんなに恵まれた環境に生まれさせてくれて。
翌日ミラは何人かの護衛と一緒に旅立ってしまった。
ちょっと寂しくなるけど、俺も頑張ろう。
確か近くの森の魔物がだんだん多くなってきているらしいから、レベルを上げてちょっとは役立てるぐらいまでは強くなりたい。
ミラが旅に出てから一週間程経った頃、手紙が届いた。
内容は勇者パーティがいい人ばかりで過ごしやすいだとかそんな内容だった。
ちゃんとやれてそうで良かった。
あいつ昔からヤンチャな所があったからなぁ……
それからまた一週間程度、手紙が届いた。
この前来た手紙とは大差無い内容だったけど、遠い場所にいるミラとの繋がりが感じられて、なんか嬉しい。
それからも手紙は一週間ごとぐらいに届いていた。
でも、だんどんと頻度が落ちていって、半年もする頃には手紙が届かなくなってしまった。
ミラの身に何かあったんじゃないだろうか。
噂を聞く限りでは四天王の1人を倒したとかで、メンバーが死んだなんて話は聞かないけど……
心配だ。
ミラが旅に出てから一年。
一時的にだけど帰ってくるらしい。
積もる話は一杯あるし、楽しみだ。
遂にミラが帰ってくる日だ。
もうすぐそこまでやってきているらしい。
村の入り口まで行ってみる。
ミラの姿は……あった。
ちゃんと生きているらしい。
本当に、良かった。
俺のレベルはもう21にもなっているし、ミラのレベルは幾つぐらいなんだろうか。
50とか超えてそうだなぁ……
その事も話したいし、早く2人きりで会いたいなぁ。
その日の夜、ミラをサクラの木の下に呼び出した俺は昼のパーティの時に飲んだお酒で少々痛む頭を抑えつつ、向かった。
〜〜〜〜〜
ミラは言う事だけ言って去っていった。
何故、どうして。
自分に聞いては、分からないと返す。
俺は、そんなにもダメな奴だったのか……?
何か、喪失感を感じる。
失っちゃいけないナニカを無くしてしまったようだ。
ミラは、そんなにも俺の中で大きい存在になっていたのか。
ははは……
俺は出来る限りのことをしたさ。
いつか役に立てるようにと、レベルを上げた。
毎日素振りをしていたし、走り込みや筋トレもやった。
でも、ミラは俺よりも勇者の方がいいらしい。
確かに昼間あった勇者はいい奴そうだったもんな……
クソ……
諦めるのなんて……嫌だよ。
その時、俺の頭の中にスキルの使い方が流れ込んできた。
これは、ひょっとしたら神様が俺に真実を調べろ、と言っているのかも知れない。
《心眼》はどうやら、心が読めるらしい。
これで、万が一ミラが操られているとかそんなんだったら、どれだけ良いことか。
早速俺は勇者達がいる家へと向かった。
壁越しでも分かるのだろうか……
そんな俺の不安とは裏腹に、しっかりと心の声が聞こえてきた。
眼なのに声が聞こえるっておかしいよな?
(セカイ……愛してる。)
(セカイさん大好きです)
うっ……
何か途轍も無い罪悪感を感じる。
やっぱり戻ろう。
ミラも心から惚れている見たいだし……
俺にとやかく言えたもんじゃ、無いんだよな。
理不尽過ぎる……どうして、この世界はこんなにも残酷なんだ。
(ふふふ……どいつもこいつも、無能以下だな)
……?
今、確かに何か聞こえた気が。
(僕が実際は、裏で魔族と繋がっている事すらも理解出来ずに、勇者って祭り上げているし、女共はちょっとマッチポンプしてから救ってやればコロっといくし)
(あー異世界サイコー)
……は?
どう、いうことだよ。
あの勇者が、魔族と繋がっている?
それに、自作自演をしている、だって?
……………。
………………………。
音が聞こえる。
まるで窓が割れる音見たいな音が。
なんの音なんだ?
……あぁ、俺の心が崩れていく、音か。
はははっっ……
俺は、何が幸せだよ……
こんなの、あっていいはずがないだろ!
もう……生きていく気力が湧かない。
このまま、死んでしまおうか。
復讐?出来るはずがない。
あの勇者は天才だ。
俺みたいな一般人じゃ、何もできない。
今まで一切ボロを出していないのが良い証拠だ。
あいつは頭がよく回るのだろう。
自然と、足は森へと向かっていく。
最早入り口辺りの魔物程度じゃダメージは一切受けないから、いつもは行かない深部へ行こう。
そこでなら、死んだって誰も分からない。
初めて入る森の深部はとても暗く、不気味だった。
そして、俺の命を奪うであろう魔物がそこにはいた。
オーガ・ジェネラル。
推奨レベルは60超えの化け物だ。
殺してほしい。
そう思って森にきた。
でも、どうしても一歩が踏み出せない。
怖い。
死にたくない。
俺は、こんなんで諦めて良いのか?
でも、どうしようもないもんなぁ……
諦めるしか、無いよな。
目からは涙が落ちる。
体はブルブルと震え、今にも自分の意思を無視して逃げ出しそうだ。
あぁ……
俺は、死にたくないんだな。
俺は、もう奪われたくない……
じゃあ、どうすればいいんだ?
強くなれば良い。
誰にも、勇者だろうが、魔王だろうが、世界全体だろうが、敵に回しても自分の大切な物を守れるぐらいに、強くなりたい。
《心眼》、俺はどうしようもない奴だけど、ちょっと手伝ってくれや……
《心眼》の効果は、
・心を読む能力
・動体視力の大幅上昇
・自身の体の動きを思い通りに動かすが、その代わりに体にかかる負担が大きくなる。
・相手の弱点の把握
この4つだった。
レベルを、上げて上げて上げまくれ。
ーー俺は、世界最強になってやる。
オーガ・ジェネラルの愚直なまでの突進をスッと横に避けると、弱点を示す赤い靄を狙って剣を振るう。
レベルでは圧倒的に負けているはずなのに、面白いぐらいに剣が入る。
単調な攻撃をスラスラかわし、その度にオーガ・ジェネラルに反撃し、傷を増やしていく。
そして遂にーーオーガ・ジェネラルが膝をついた。
「お前のお陰で、俺はやる事を理解したよ……礼を言おう」
そう言うと、俺は真っ赤に染まった首に向かって剣を振り下ろす。
オーガ・ジェネラルを倒すだけで俺のレベルは40に上がっていた。
普通はパーティを組んで倒す物だ。
魔力が分散されていないから、レベルが上がりやすいんだな。
100だろうが、1000だろうが、10000だろうが超えてやる。
もう奪われるのは、こんな思いをするのは嫌なんだ。
切る。
現れる側から切って切って切り捨てる。
例え体に幾ら傷がつこうとも、それを心配してくれる人間はとうに失せた。
もう、あの頃は戻ってこないんだ。
100……200……300……400……
奥に進むにつれ、俺の体の傷は増えていき、魔物は速く、強靭になっていく。
痛いけど、何処か他人事で、全く何も感じられない。
お腹が減れば、そこらに生えている野草やキノコを食べ、殺した魔物を喰らい、喉が乾けば血を飲み、草の水分を取る。
500……600……700……
ここまでくれば、どれだけ丁寧な使い方をしていたとしても、もう限界が来ていた。
この剣は、よく役に立ってくれた。
ありがとう……。
ありえない程の強力な魔物が出て来る。
こんなに強いやつがいれば、魔王なんて目じゃないんじゃないのか?
それとも、魔王はもっと強いのか?
まだまだ、俺は弱いんだろうか……
レベルが上がりすぎてよく分からない。
それに、ここは本当に村近くの森なんだろうか。
こんなレベルの魔物達が1匹でも出てくれば、うちの村は壊滅だぞ……
800……900……950……999……
後1上がれば、1000。
まだ上がれるのか、それともここで打ち止めなのか。
もっと上がって欲しいのが本音だな。
……いくら倒しても、上がらない。
いくら屠っても、喰らっても、殺し尽くしても、レベルは上がらない。
あぁ……999が限界、なのか。
その時、こんな森の奥ではありえない、人間の心の声が聞こえた。
(ぐ……まさか騙されていたとは……王ともあろう者が……)
(ネル……すまない。お父さんを許してくれ……ソフィア、私はお前を最後まで愛していたぞ……)
おいおい、なんだか物騒だな……!
急いで声が聞こえる場所まで走る。
そこには、今にも殺されそうになっている初老の男性と、その男性を殺そうとしている、オーガ・ロードの姿があった。
「今!助けに入る!」
レベルが上昇し、風よりも速くなった俺は間に割り込む事に成功し、オーガ・ロードのパンチに合わせてこちらも右拳を突き出す。
2つの拳がぶつかった衝撃により、周囲には物凄い風圧が発生する。
そして、打ち勝ったのはーー俺の方だった。
そのまま拳を振り抜き、オーガ・ロードをぶっ飛ばす。
木々を薙ぎ倒しながら飛んでいくオーガ・ロードに追いついた俺は回り込み、額に踵落としをする。
グシャリ、と頭が潰れる音。
一瞬遅れ、ドガァン、と大地が揺れ、クレーターが作られる。
急いで男性の下へと駆けつけ、声をかける。
「大丈夫か!?」
「う、私は助かったのか?」
(一体……この青年は何だ?さっきの、あの超人的な動きは……)
「俺の名前は、リーフという。森でただひたすら魔物を倒してたら、貴方を発見したから、急いで助けに入ったんだ」
「私は、アルウォーター・リアン。リアン国王だ」
(と名乗ったは良いが、どう考えても信じられないだろうな。運が悪ければ不敬罪で殺される事もありえる……。だが、間違いなく私の生殺与奪はこの青年が握っている。なるべく嘘をつかないのが懸命だろう)
この人国王かよ!
しかも、心の中の情報量が半端ないな!
普通もっと短いんだけどな……
って魔物でしか試してないか。
「国王様だったのか……何故、こんな所に?」
「まさか、信じるのか?」
(この青年は騙されるということを知らないのか?)
「ああ。俺は嘘を付いているかどうか分かるスキルを持っている。だから貴方が国王様だということは分かる」
「そうか……実は、私がここにいるのは……」
どうやら、国王様は家臣が急に反乱を起こし、それに巻き込まれたらしい。
下手したら姫や王妃がどんな目に遭っているか……
「よし、俺も行こう。乗りかかった船だ。手助けする」
「い、いいのか……ありがとう!」
(なんてツいているんだ!こんなに強い人が手助けしてくれるのなら、きっと収めれる)
俺は国王様をおんぶすると、方向を聞き、ダッシュで王城まで向かう。
道中で色んな事を聞いた。
あれからどれだけ経っていたのか気になり、聞いてみたところ、1年しか経っていないらしい。
そして、この森は王都近くの森の深部で、決して俺が住んでいた村の森とは繋がっていないという。
王様に聞くには、恐らく[神の通り道]を通ったのかもしれないと。
何でも、森の奥深くにあって、様々な場所に繋がっているが、魔物の強さがありえないほど、強いらしい。
レベルがカンストした俺の脚力は凄まじく、あっという間に城の裏口に到着した。
「アルさん、ここからは道案内を頼む」
「わかった」
道中の会話でアルさんと呼ぶ事を許してもらえた。
決して遊んでいるわけではない。
《心眼》で心を読んだところ、自分が国王だからと皆一歩引いた対応をしていて、納得がいかなかったらしい。
王族と仲良くしたい俺としては、そこを突こうということだ。
何故王族と仲良くしたいか、その理由としては王女にある。
実は、王女は勇者の婚約者だ。
器が小さい俺としては、やられた事をやり返してやろうと。
つまりーー寝取りをしてやろうということだ。
幸いにして、俺は心が読める。
それを駆使すればきっといけるだろう。
アルさんに合わせて城の中を走る。
途中襲い掛かってくる兵士がいたが、大体は王様を見ると引き、引かない奴は俺が殴って吹っ飛ばした。
恐らく、引いたのが鎮圧をしようとしている兵士で、襲い掛かってきたのがクーデターをしようとした奴ら側の兵士だったんたろう。
王女と王妃が捕らえられていそうな場所へたどり着いた。
そこは玉座の間だった。
堂々と扉を開けて入っていくアルさん。
えぇ……
作戦とか考えなくて良いん?
意外にも、玉座の間には3人しかいなかった。
縄で縛られた王女と王妃、そして玉座に座っている若い男。
「貴様は、誰だ?」
(この男は……誰だ?私の臣下にはこんな男いなかったはずだ)
「ほう……無事生還したか。国王」
(大方、隣の男に助けられたのだろう。あいつは……強い。四天王のこの俺に敵うは無いにしても、相当なものだ)
「アルさん、そいつ四天王だ」
「!?四天王だと!」
(バカな!クーデターの裏では四天王がいたというのか!)
「貴様……何故わかった!」
(もしや、鑑定持ちか!)
「俺の名前は、リーフ!アルさんに頼まれたんでな。王女と王妃は解放させて貰うぞ?」
「ふんっ!国王がいるのなら話は別だ。今、ここで殺せば良い!」
(この男が何者か知れん今は、人質を殺し、動揺させてから精神汚染魔法で仕留めるのが最善!)
若い男は、王女に向かって剣を振るう。
王女はその瞬間に備えて目を瞑り、王妃は顔を逸らし、アルさんは叫ぶ。
誰も間に合わない……
俺以外はな。
一瞬で間に割り込み、手刀で剣を破壊する。
思った通りだ。
どうやら俺は、相当強くなったらしい。
「大丈夫ですよ。王女様」
「貴様ッ!一体何者なんだ!」
(ありえんっ!魔剣を手刀で破壊するなど、聞いたことが無い!)
「さっきも、言っただろう。俺は、そこの国王様に頼まれてこの国を救いに来た、リーフって名前の旅人だよ」
「おのれぇぇぇぇっっっ!」
(あってはならんことだ!今!始末してやる!!)
折れた剣で切り掛かってくる。
遅い。
これなら、[神の通り道]にいた魔物の方が強かったぞ?
手を払って剣を飛ばし、貫手で心臓の位置を狙う。
「ぐはっ……きさ、まなぜそんなにつ、よい」
「もう、何も失わない為に強くなったのさ」
「フフフ……そうか。では、俺は敬意を払い、真実を教えてやろう」
「このクーデターを扇動したのは、勇者だ。あいつの本性は中々クズ野郎でな?笑えたぞ」
「やっぱり、勇者の野郎か。魔族と繋がっているらしいのは知ってたが、クーデターまでするかよ」
「んんんん!」
(そ、んな……セカイ様が、そんなことをするはずが……)
あ、そう言えば王女様ーー確かネルという名前だったかーーは真偽がわかるスキルを持っていたんだっけか。
心底惚れているっぽかったからなぁ……
噂の話だけど。
「あの勇者は、四天王ぜん、いんとつなが、りをもって、い、る。はや、く、しま、つし、た、ほ、う、が、いい。」
その言葉を最後にして、四天王の男は事切れた。
玉座の間には、頭がついていってない王族3人と俺がいるのみとなった。
あれから1週間が経過した。
クーデターの後処理が終わるまで俺は色々聞かれたりする為、城で生活をしていたが……どうも王女様の心があまりよろしくないらしかった。
それで励ましに行ったのはいいんだが……
気が付いたら俺は王女様に惚れていた。
なんて単純な男なんだ俺は。
コロコロ惚れすぎだろうに。
最近では、少しづつ心を許してきているのか、だんだんと笑顔が増えていっている。
可愛くてとても癒される。
じゃなくて、王女様の話は置いておいて、なんか知らないが、アルさんが俺の功績を認め王女の護衛騎士に任命しよう とか何とか言って、俺は護衛騎士とやらになってしまった。
今日も、部屋に引きこもっている王女様に会いに行くところだ。
寝取りしようとしたら本気になるとか笑える。
「王女様、リーフです。入ってもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
(リーフ様が来てくれた。今度はどんな話をしてくれるんでしょう)
「お邪魔しまーー」
おぅふ……
か、可愛い。
「?どうかされましたか」
その首をこてん、とするのやめてくれないか!?
つい抱き着きたくなるんだが!
「いえ、王女様がとても美しかったので、つい見惚れてしまいました」
キザだって?
うるさい。
まさか準備を整えていたとは……不覚。
「そ、そうですか」
(面と向かって言われると結構恥ずかしいです……)
心の声を聞く限りでは、何となく落とせそうな気はするんだがなぁ……
更に一ヶ月。
どうやら勇者パーティは四天王を2人倒したらしい。
後は魔王だけか。
そして、王女様の方も進展があった。
少しづつだが、王女様が外に出たいと、そう思うようになってきた。
このまま無事に治ってくれるといいんだが……
「王女様、リーフです」
……返事がない。
もう1度呼びかけてみるも、やはり返事は返ってこない。
「失礼します!」
扉を開け、部屋に入る。
だがーー王女様は何処にもいなかった。
まさか……誘拐?
王城にまでわざわざ忍び入って、王女様を誘拐した……なんてありえるのか?
だとしたら……そいつらは一回死ぬ程度じゃ、すまさねぇぞ?
《心眼》フル稼動!
範囲は……王都全体!
集中しろ……
王女様は、何処にいる!
………。
見つけた!
恐らく周囲に数人の人間もいる。
そいつらが誘拐犯か!
ただで済むと思うなよ!
全速力で走る。
時々風圧で物を吹き飛ばしたりしているが、知ったことか。
俺からしたら、王女様の方がよっぽど大事だ。
ほんの1、2分もしない内に到着した。
見た目は普通の民家だが、どうやら中は普通じゃないらしい。
俺は、自分の心の声に従って、壁を破壊する。
家の中にいたのはーー服を脱がされ押し倒された王女様と、下半身裸の男達。
それを見た瞬間。
俺はーー自分の血管が切れる音を聞いた。
〜〜〜〜〜
気が付けば、周囲には肉塊が3つあった。
俺は、こんなにも王女様に惚れ込んでいたのか。
惚れやすいのかな……
「王女様……すみません。俺が、しっかり見ていなかったから、こんな恐ろしい目に合わせてしまって。命でも何でも、望むならば払う所存です」
「い、いえ……わ、私が、いけないんです。注意していなか、ったから……」
(私のせいでリーフに迷惑を掛けてしまった。私が、城を抜け出しなんてしたから……)
「王女様は悪くないです。攫った方が悪いのですから」
「ねぇ……リーフ。私の願いを聞いてください」
「はい」
「嘘偽りなく、自身について語って下さい。そして、誓って下さい。私のそばにいる、と」
「それが王女様の望みとあらば」
俺は、王女様に全てを話した。
恋人を勇者に寝取られた事や、勇者が実は魔族と繋がっていたと知ったこと。そして森に篭って死のうとしたが、結局死ねなく、強くなる事に決めたこと。
「そう、だったんですか……」
(私は今まで知ろうとしなかった。こんなにも良くしてくれているリーフの事を。今からでも……遅くは無いでしょうか……)
「遅くは無いですよ?いつまで経っても、俺は王女様が聞くなら答えます」
「っ?リーフ……もしかして」
(心が……)
「読めますよ。声が、聞こえるんです。心の声が」
「それは、私に言うのが始めてですか?」
「えぇ。王女様以外、このスキルのことは知りませんよ」
「それ程、私を信じて下さっているのですね……」