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影法師  作者: 紅野京馬
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第3話 データの行方と謎 前編

「最初に俺が全て説明していくから質問はその都度しろ」

「おう」


勝負を決した後、カランとの情報共有が行われた。

場所はアンダーフィールドのままだが、防音や人が立ち入らない事を考慮するとここがいいのかもしれない。


まずは両者による今現在提示できる情報の提供。

カランはヴィワーズ社の思惑やデータの事を中心に、オレはおじさんの事について、そしてエスペランサが作成された時に関する情報を出来る限り思い出せとのこと。


「体感型仮想対戦『シャドウバトル』を発表した事によって多大な利益を出したヴィワーズ社、それは表の顔で裏ではその技術を応用して仮想兵士を量産しようとしている。

これは話したな?」

「うん」


おじさんが戦争兵器を作っていた。

細部の違いはあれど、これは一貫して間違いないだろう。少なくともそれに関係していたのはシャドウの作成に携わっていた事で明白だ。


「その仮想兵士のデータは12に分かれていて、その全てが子供のVRデータを元に作成された。このデータは神話に登場する奈落の神になぞらえ、『タルタロスデータ』と呼ばれている。

これが世界を奈落へ突き落とすデータと知っていながら名付けるとは悪趣味だ」


吐き捨てるように言うカランの顔は無表情ながら嫌悪に満ちていた。


オレやカランが持つデータを総称して呼ばれる『タルタロスデータ』。

聞くところによるとリブラは対人戦闘用、カランが持つアクアリウスは砲撃用と言った感じでそれぞれの分野に分かれているらしい。


「今の段階で消去や確認出来ているのはオレとカランのデータ以外あるの?」

「消去済みは四つ。所在が分かっているのはお前のリブラ、俺のアクアリウス、万が一の備えとして別枠で所持している『サジタリアス』。ヴィワーズ社に保管されている『レオ』。他は行方不明だ」


8個まで確認出来ていて残りは4つか。すでに4つも消去されているのは痛いけど8個もあればあのロックをだいぶ解除できるし、まだいい方かな。

それにカラン曰く、『ラグナロク』は今は放っておいて良いって言ってるし質問しても返って来ないだろうから置いておこう。下手につついてカランの気が変わったら大変だし。


「なんで子供限定?大人の方が素材にしやすいんじゃないか?ほら研究員とか」


規模を考えると研究員も大勢居ただろうし、子供を12人も集めるよりそっちの方が効率が良さそうなものだが。


「素材は確かに多くあるが、それだと後の進化が鈍くなるんだ。

データと言えどもアップデート、人間で言う成長はピークを過ぎた大人だと対応仕切れなくなる。故に頭脳、体力、精神の伸び代が期待される子供が適任だったんだ」


ふむ、なるほど。子供向けとして対外的な理由で選んだ訳じゃないのか。ん?待てよ、それって実験段階で既に仮想兵士のプログラムを子供のデータで作成する案を出ていたってことか?

だとしたら影法師ってまさか……いやそうじゃない、まだ決め付ける段階じゃない。もっと深く話を聞こう。


一度深呼吸で思考を止める。

目の前の可能性に飛び付くのはダメだ。少ない情報で物事を決めつけてしまえば、それは憶測であって真相ではない。

真相を得るためにも、今はカードを引き続けなければ。


「でも普通に遠隔操作のロボットなり人工知能でもいいと思うんだけど?その案は出なかったの?」

「ああ、AIを搭載するって話も合ったがそれはいざというときの制御が難しくなるからと否決されたらしい。ロボットなんかも何故か案にすら上がらなかったな」


ロボットは案にすら上がらなかった…。つまり『人間が考え戦う』というのが重要なのか?


カランは『自身の体に影と呼ばれる質量を持ったデータを纏う事』が元のシャドウバトルだと言った、つまり目の前には端末やバーチャルパネルではなく同じく影を纏った影法師が存在する事になる。それはもう…。


行き着いた思考に背筋が冷える。

これ以上考えるのはよそう。普段使わない頭を使うと気分が悪くなる。

ネガティブな事を振り払うようにため息をつく。


「そもそも戦争うんたらかんたらの時点でいざというときってなんなのって感じなんだけど」


やれやれといった感じで肩をすくめる。

戦争という物騒な単語が出ているのに、これ以上のいざというときはどういう状況だよ。


そんなオレに呆れた視線を寄越すのはカランだ。


「……お前変なやつだな」

「それカランに言われたくないけど」


ストレートに罵倒されて思わず言い返してしまう。いやでもこれはカランが悪いだろう。


「どういう意味だ。

いや、さっきまで大泣きしていたくせに話が早いな、と」

「うーんそれ言われたらそうなんだけど…」


というかあれは痛いから泣いてたんだけど、とは言わない方が良さそうだな。泣いた事実は変わらないし。


「混乱していたのは事実だけど、それ以上にエスペランサが複雑な立場であることが悲しかったんだ。

ずっと一緒に居たのに気付いてあげられなかった。プロテクトのことも、ラグナロクのことも、ずっと知っていたのに理解が出来ないからって見ぬふりをしてた。

だからせめて真実を知りたい。オレの自己満足だとしても、エスペランサの贖罪になるならなんでもやりたい。エスペランサはオレの大切な友達なんだ」


こうやって言葉に出すと照れ臭いけど、これは紛れもなくオレの本心だ。カランにとっては気持ちのいいものではないと思う、だけど嘘でないならはっきりと言った方がいい。


「理解できないな」


案の定一刀両断された。まあ理解されようとは思ってなかったけどさ。


「続きだ。

タルタロスデータはヴィワーズ社によって厳重に管理されていたが、一年前のある日突然データが流出した。理由は未だに分かっていないが、おそらく内部に高槻博士の手の者がいたのではと噂されている」

「おじさんの?でもおじさんは6年も行方不明だよ?」


小学生に上がる前におじさんは姿を消した。

エスペランサをもらった数ヶ月におじさんは行方不明になったのでその辺の記憶はちゃんとある。


「そうか、世間ではそうなっているんだったな」

「え?」


今不穏な単語が聞こえた気がする。

『世間では』?一体どういうこと?


世間じゃないところ、一部では現在の状況が明らかになっているってことか?だとしたらその一部は?そんなの決まってる。カランが知っているとなれば、あそこしかない。


「データはお前みたいな例外を除いて、公式大会の優勝賞品だったり、限定品として発売されてたりと一般人に流れている。

それをさっさと集めて消去が当面の目標だ。もちろんヴィワーズ社も総力を上げて探しているらしいから危険が伴う。すでに1つは回収されているしな」

「そうか」


誤魔化されたかはぐらかされたか分からないけど、カランは言う気は無さそうだ。


…じゃあ言う気がないなら何故口を滑らせた?


狙われているなら警戒を怠らないだろう。それもあんな形で襲撃されたのだ、もしかしたら以前からずっと。なら言葉一つで足がつく可能性をカランが考えないわけない。

多勢に無勢、不利な状況下で初歩的なミスをするか?カランはそんなミスをするほどバカじゃない。そうだったら既にヴィワーズ社に連れ戻されているはずだ。ならミスじゃないとしたら、やっぱりそうだよな。


「消去じゃなくて収集ね。所在が分からないんじゃ動けないんじゃないか?」

「正確に言えば『所有者の所在』だ。

何人かは地方から公式戦に参戦した人間だからな」


オレ、試されているのか。

ヒントを与えてどこまで考えきるのか、どの程度予測できるのか、どれだけ選択肢を用意できるのか見定めている。考えすぎでいても疑いすぎではない。

カランには協力を許してもらえただけだ、認めてもらえたわけではない。それを忘れるな。


「地方の腕の立つプレイヤー、なぁ」


関東じゃないなら難しいな。大会側だって出身地なんて記録しないだろうし。でも公式戦で優勝するぐらい強いなら各地方の大会でも有名になってそうだけど…。

繋がりがありそうな人といったら。


「あっ」

「あ?」


そうだ、あいつがいた。


「オレ心当たりあるかもしれない」

「は?」


端末を起動してある人物に連絡を入れる。用件だけを入力して送信すると間髪入れず了承の返信が来た。

早いのはいいけどあいつ授業サボってないよな?


「カラン、心当たりの子に連絡入れたからこっちに呼んでも大丈夫?」

「それは構わないが…誰に連絡を入れたんだ?」


現在地の位置情報を送信して後は待つだけ。

心当たりどころかあいつがデータ持っていそうだな、過去の経験からして。去年はタイトル総なめってぐらい記録出してたし。


「不知火龍人、去年の関東大会の優勝者だよ」


やはり持つべきものは良き友人だ。


「しらぬい……ああ、現在シャドウバトル最年少記録保持者か。こいつなら持っていても不思議ではないな」


リュウジこと、不知火龍人はシャドウ公式大会で一番大きな大会の前年優勝者である。オレの一つ下で小学生でありながら数多のプレイヤーを撃破して頂点に君臨しており、今年に入ってからの大会も負け無しという実力者だ。


「とりあえず優勝賞品で不思議なデータがあったら持ってきてとは言ってあるけど」


あれだけ大会で優勝を繰り返しているのだ、限定データの1つや2つは持っているだろう。とはいえ、授業が終わったばかりの時間だからたぶんしばらく掛かるだろうな。

それまでまたカランと情報交換でもしようかと思っていた所でショップのベルが鳴る。

扉の方へ顔を向ければ見知った顔がそこにいた。


「アキラさんから連絡くれるなんて嬉しいです!

思わず走って来てしまいました!」


まさか数分も経たずに登場するとは思わなかった。

長い黒髪を振り乱しながら全力疾走しているリュウジの姿を想像して、見かけた人の心中を察する。シンプルに怖い。

横にいたカランはまさか本当だとは思っていなかったらしく目を丸くして驚いていた。


「お前にこんなツテがあったとはな」

「リュウジは学校が一緒だったからね、前から仲良しなんだ。

…ホントなんでオレと仲良しなの?」


理由が一切思い当たらないから不思議だ。別に家が近いわけでもない、学年も違うし性格も友人のタイプも違うから接点もほぼないはずなのに。強いて言うならシャドウぐらいしかない。


「ひ、ひどい!ぼくにシャドウを教えたのはアキラさんじゃないですか!」

「そういう意味じゃなくてですねー。もういいや面倒くさい。

本題なんだけど、リュウジ」


そりゃ何度かバトルして勝ったけどリュウジが優勝連発する前のことだし、今戦えばリュウジの方が強いだろうに。

時間が押してきているしさっさと用件を済ませようと、強引に話を進める。


「うう…はい、以前大会で優勝した時にいただいたデータのことですよね?現物をお持ちしましたので確認してください」


納得していない様子だが目的は理解していたようで、渡されたのは一つのデータカード。

既存のシャドウデータは何種類かの専用データケースで売られており、特にスタイルはこの形で売られている事が多い。なので使い方は説明されるまでもない。


店員に許可を取り、店の隅にある専用の機器に読み込ませてデータの確認をしてみる。

だが、そこにはデータとも言えない文字列が延々と続いているだけだった。


「…なにこれぐっちゃぐちゃ」

「そうなんですよぉ~。

これアーチャースタイルに特化されたデータらしいので、ぼくの『イグニス』には規格が合わないからと確認もせずに放置していたのですが、先ほどアキラさんからご連絡を頂いて中身を確認したらこんな事に…」


『すみませ~ん』と泣くリュウジを宥めつつ文字列を眺める。これに近いものを最近見た、あの不可解な招待状だ。となるとこれもタルタロスデータの一つなのだろう。

しかしこれでは個別スタイルにすらならない。使えるように組み替えようにも、元の形が分からなければ手の出しようがない。


「これ不良品なんじゃ」

「おい、お前のSPCに読み込ませてみろ」


どうすることも出来ないと悩んでいると後ろから見ていたカランから声が掛かる。


「え?でもこれしっちゃかめっちゃかだよ?」

「だからだ」


カランの意図が分からず首を捻りながらもリュウジから承諾を得て、言うとおりに読み込ませてみた。するとウィンドウが表れて支離滅裂だったデータが形を変えて姿を表す。

ほんの一瞬の後にはアーチャースタイルのデータが完成していた。


「データが再構築された?」


ウィンドウを操作して再度中身を確認する。カランが使用する『アクアリウス』と同じくアーチャースタイルではあるが、向こうは火力を最大限まで引き上げ陽動を主力とした形に対し、こちらは威力、射程、弾速をバランスよく整えた機動スナイパーに特化されている。まさに王道の狙撃手だ。


関係ないが火力を底上げしている『アクアリウス』にテクニックを重点に置いているディストピアは相性が悪いはずなのに、あそこまでクリティカルを連発出来るとなるとカランは本当に強い、いや上手いということか。


「おそらく完成していたデータの情報をデタラメに入れ換えて一定の条件を満たした時にだけ元の形に戻るよう設定していたんだろう。ラグナロクはプロテクトでもあり、タルタロスデータのキーでもあるということだ」


カランの腕がウィンドウに伸びて操作を始める。基本情報の名前の欄には『GE-006』と味気ない名前が記されていた。


「見つけたぞ、『ジェミニ』」


『影狩り』の顔を見せたカランから『ジェミニ』を奪いとる。収集に変更するとは言っていたがいつ気が変わるか分からない。

オレの行動にカランは眉を潜めたがすぐに元に戻り、席へ座った。


「カラン、これどうする?」

「今はどうもしない。下手に消去してラグナロクのロックを解除出来なくなると困るからな」


それを聞いてホッと胸を撫で下ろす。よかった。

これはリュウジのデータだ、例え影狩りでも戦いもせずにデータを奪うということはないらしい。…リュウジ?まずい!!


「あのぉ……」


気が付いてももう遅い。知られてしまった。


「先ほどから話されている『タルタロスデータ』や『ラグナロク』とは何のことでしょうか?それにあのデータは何ですか?製品ナンバーもないデータなのに、あの完成度。限定データなんて言うものではないですよね?

もしかして、昨日依頼されたメールの送り主に何か関連することですか?」


首を傾げながら問い掛けるリュウジに目眩がする。

リュウジは聡い。昨日はオレがキツく言っておいたので詮索はしなかったが、この状況で下手に隠してしまえば一人で調べ尽くしてしまうかもしれない。それだけならまだいい。問題はそれが原因でヴィワーズ社に目を付けられないかという点だ。

カランを連れ戻すために見ず知らずのオレが居ても襲撃してきた相手だ。手荒なマネをしてリュウジが連れ去られでもしたら…。


そこまで考えてハッとする。

『タルタロスデータ』も『ラグナロク』も、言葉に出したのはカランだ。


「カラン、もしかして巻き込んだ?」

「お前見た目のわりに頭がいいな。だが油断しすぎだ。

お前と手を組むとなった以上、協力者は何人居ても変わらない。不知火龍人ほどの実力者なら協力者として引き込んでも足手まといにならないだろうしな。せいぜい利用させてもらう」


いい手駒が手に入ったと言わんばかりに機嫌を良くするカラン。

よく考えなくても予想出来ただろうに。あれだけ協力を嫌っていたカランが追い返さなかった時点でどうして思い付かなかった。


知られてしまった以上、何も教えないでいるのは逆に危険だ。それは昨日のことで身に染みた。せめてマリアとリュウジには知られないように隠し通すつもりでいたのに、それが逆効果になってしまった。


「ごめん、リュウジ」


力無く謝るオレにリュウジはなんてことないように笑顔を向ける。


「状況がよく分からないので何とも言えないのですが、きっと大丈夫です!アキラさんがぼくを頼ってくれたのにそれを迷惑だなんて思いません!」

「…そっか」


何も知らない、何の関係もない人間を巻き込んでしまった。その罪悪感で胸が痛む。

リュウジはまだ戦いの痛みを知らないから無邪気に笑っているのだろう。事が進むにつれて状況を把握できるようになったらどうなるかは分からない。最悪の場合も考えうる。

だけど今だけは、その言葉を信じることにした。


「話は終わったか?」


そんなオレ達を気遣う様子もなく席を立ち、奥のアンダーフィールドに向かうカラン。


「申し遅れたが俺の名は影神華藍、ヴィワーズ創始者の孫だ。

不知火龍人、お前にも協力してもらおう」


一礼すらも優雅な動きだが、行動にちぐはぐな表情。無表情に見える微笑もその言葉も、まさに闇への招待状だ。





.

スタイル

RPGで言うところの装備に該当する

主に3つのスタイルがあり、そこから派生したスタイルも存在する

ナイト…凡用性に優れ、初心者から熟練者まで幅広く対応できる

主な武器は剣や槍などの近中距離戦闘もの

アーチャー…攻撃範囲が広く、大体が狙撃手

主な武器は銃といった中遠距離攻撃もの

マジシャン…トリガーを主体として戦う、故にトリガーの条件が低いものが多い

主な武器は杖などのトリガーの補助を行うものが多い


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