【Ⅳ-2】
夏が近づいてる事を知らせているのか、最近めっきり減ってしまっていたが、今日は久しぶりの雨だった
雨が僕達の再会を泣いて喜んでいるようにも思えたし、高まり続けるぼくの心臓の熱を冷ましてくれているのだろうとも思えた。しかし理由などどうだっていいんだ
「奏に会えること」僕にとってはそれが1番の幸福なのだから
僕達は、久しぶりにひとつの傘で帰り道を歩いていた。
僕らの帰り道にはいつも寄り道をする公園がある、普通の小学生のような事を言うと、二人の秘密基地のようなものだ
僕達は砂場の横にある滑り台やトンネルのついた遊具(タコの山というらしい)の中で二人、冷えた体を温めあうように寄り添っていた。
「この前はごめん」二人きりになれないと言えないところがいかにも僕らしく、卑怯だなと思う。少し驚いたような表情をしてから奏が優しく微笑む
「ん、よろしい。君からちゃんと謝れたことは評価してあげます、なので今回、それを含めた点数は32点です。
赤点ギリギリです」
奏が小悪魔的な笑みを浮かべる
「小学生に赤点なんてないだろう、それに採点厳しくないか?」
以前のように冗談を言い合えるこのちょっとした時間があるだけで、朝顔が咲く早朝のように、サナギが羽化する瞬間のように、僕の人生はまばゆく光を放つのだ。
「でりかしーのない男の子は嫌いです。」
この前の事を言っているのだろう、奏が拗ねたふりをする。
「そうか、ごめん。じゃあ満点を取れなかったけどでりかしーとやらを考慮して不躾に君に触れたりするのはやめよう」と言い切る前に
「女の子の気持ちがわからない人はもっと嫌いです」
奏が髪を左耳に掛けながら言う。
その仕草があまりにも美しく僕の瞳に飛び込んできた為ドクンと心臓が高鳴る。その音や、よぎった色々な考えを無視して奏の右手に自分の手を重ね、向かい合った。
手を重ねてから、とてつもなく時間が経っている気がした。
実際、目を合わせてお互いの考えを読み取ろうとしていたのは3分もなかっただろう、もう思い出せないけどその間に僕は本当に色々な事を考えていたと思う、だから僕にはその数分が30分や1時間くらいに思えた。
奏の目が潤んだような気がした
僕は、人生で初めて人と口づけをした
次の日から、奏は学校に来なくなった。