【Ⅱ】
2話です。
Ⅱ
僕と奏は意外とすぐに仲良くなった。
いや、仲良くなったというのも少し御幣があるな。
お互いに似ていて、奏も積極的にクラスメイトに話しかけたりするタイプではなく学校やクラスのコミュニティというものにうんざりしていたもの同士のシンパシーみたいなものかもしれない
趣味も合いすぎていたというくらい合っていたが。
しかし一番の理由は、お互いテストで満点以外とったことがなかったので、初めて出てきた競い甲斐のあるライバルのような存在だからというのもあるのかもしれないな。
足早に季節は巡って、僕らは五年生になった。
なんの偶然か、奏とは5年生になっても席は隣だった。
そんな些細な幸せを感じる春の匂いと優しい暖かさの残るある日、初めてテストで満点以外を取った僕は少し足早に、奏と一緒に下校していた
「ねぇねぇ、今日のテストの結果どうだったの?」僕は少しむっとする。そう、奏はぼくの今日のテストの結果を知っているし、知っているうえで聞いているのだ
「あんなの、減点対象に入れるヤツが悪いんだ、苗字しか書かなかっただけで点を削るなんて馬鹿げてる。大体僕は百点をとったんだ、百点だったら満点と一緒だろう」
そう言うと奏が意地悪そうに笑う「でも私は百五点だったし、それにその理論だったら普通に問題だけ解いたら九十五点だった子が、名前を書いて百点だったらその子
も満点を取ったことになるねぇ」
奏は、僕と思考が似ているだけに、僕が嫌に思うこと
を意地悪な笑みを浮かべ的確に言ってくる。むっとならないわけじゃない。しかし、クラスではあまり喋らず内向的な優等生の奏にも僕にしか見せない笑顔があるのを知っている事をこの上なく嬉しく思った。
もっとも、他の女子に同じことを言われても苛立ちしか覚えないのだろうが。「ほら、約束。守ってよね」奏が嬉しそうに、でも照れくさそうに言う。「え、あの話本気なのか?」僕たちの間ではひとつ約束が交わされていた。
「ねぇ、普通にテストをやってたらつまんないじゃない?だからさ、満点を取れなかった君が満点を取れた私に何かするっていうのはどう?」
五年生にあがってすぐ奏はそういった「待てよ、満点を取れなかった君って、なんで僕が負ける前提なんだ?
僕は満点以外とった事なんかないし当然これからもとる予定はないよ」
僕は本気でそう思っていたし僕だけが約束を守らなければいけないなんて不公平すぎるだろ?しかし奏があの悪戯な笑みを浮かべながら「自信ないんだ」なんて言ったものだから
考えるより先に僕の負けず嫌いがその理不尽な条件を受けていた。
逆に奏が満点を取れなかったらなにかしてくれるのか聞いたらうまくはぐらかされた。おんなってのは本当にずるいとおもう。
異例の事とはいえその約束がこんなにはやい段階で果たされるとは思ってもなかったが、約束は約束なので奏の願いを聞くことにする
どんな怖い罰ゲームが来るのか少し身構えたが、実際に奏から告げられたものが意外すぎて一瞬反応しきれなかった
「ほら、負けたんだから早くしてよ」恥ずかしくなったのか、少し俯きながら奏が言う
「あ、あぁ、分かってるよ」
動揺しながらも、奏からのお願い通り、その柔らかそうな少女の黒髪をぎこちなく撫でる。
「ねぇ、もっと丁寧に撫でてよ、下手だなあ」僕はむっとしかけたが、奏の口元が
笑みをこぼすのを我慢しているように見えたので今度はガラス細工を愛でるように丁寧に、ゆっくりと撫でた。
時間が、とんでもなくゆっくり流れているように思えた。
この瞬間がいつまでも続けばいいと思った――。
かなでたそかわいい。