0×2つめ
早速、死者が出てしまった。
守れなかった。
お人形さんを止めることができなかった。
学校では噂が急激に広まっていった。
あんなに早く見つかるとは、思わなかった。
隠した場所もほぼ見つからないだろうという場所だったのだ。
私は前々から思っていた。
誰か、黒幕がいるのではないだろうか、と。
でもそれが誰だかわからないし、そもそもいないのかもしれない。
他クラスだったことから、余計注意がいかなかった。
「怖いね…」
前の席の桜田さんが、話しかけてくる。
「うん。」
私は、静かに言った。
早く お人形さんの止める方法を見つけなくては。
* * *
1.
お人形さん。
朝から話題になっていた。
この学校から死者が出たこと。
喋れなくなった子が出たこと。
そして、それはお人形さんのせいだということ。
みんな、どこか他人事でワクワクしている人や悲しんでいる人がいた。
お人形さん。
家に帰ったら、調べてみようかな。
実行する気などない。
でも、あの子はやるだろうな。
いや、やらされるだろうな。
そう思いながら、真ん中の前にいる席を見た。
もう他の男子達に取り囲まれていた。
みんなは知らん顔で噂話に花を咲かせている。
私も友達のそんな話を耳で聞き流していた。
白神 雅良
いじめられっ子だ。
パシられたり、殴られたり…
私はそれくらいしか見たことないが、もっとされているだろう。
今、友達と話しているところと白神達がいる距離が近いせいか、会話が聞こえてくる。
「よぉ。白神ー! お人形さんっつーの、やってみろよ!」
「やれよー! 俺も気になるー」
白神は、相変わらず下を向いている。
「いいよ」
白神は下を向きながら答えた。
本当にやるんだ…
「マジかよ笑笑 俺たちの名前でやんじゃねぇよ笑 」
「結果、待ってまーす笑笑」
「ギャハハ」
「またやってるよ。男子達…」
「嫌だね〜」
「うん、そうだね」
私は愛想笑いで答える。
そんなこと言って、助けてあげないくせに。
なんて、そういう自分もなのだが。
また、白神の方を見ると 白神はまだ下を向いていた。
もう男子達はいなかった。
2.
白神とは、小学生くらいの頃までは そこそこ仲は良かった。
それでも、少しだけ苦手だった。
何を考えているのか、わからない。
嫌われてはいたが、いじめられたりはなかった。
中学になってから、いじめられるようになったのだ。
きっかけは、ほんの些細な事だった。
いじめっ子のリーダーにぶつかってしまったのだった。
白神はよく下を向いている。
そのせいで廊下でぶつかってしまったのだ。
白神は謝っていた。
「ごめんなさい。 ごめんなさい。」
と、何度も。
白神は、今日 本当にやるのだろうか。
でも、きっと私には止められない。
* * *
3.
また今日もいじめられた。
その中の男子のリーダー、 三俣 俊徳は許せない。
でも、1番許せないのは真島 冬華だ。
小学生くらいの頃。 僕がまだいじめられていなかった時だ。
真島とは、仲が良かった。
でも、僕がいじめられ出した時には 声をかけても無視をされた。
助けてもくれなかった。
また今日も僕の方を見ていた。
きっと、心の底で僕のことを笑っているんだろ?
許せない。許せない。許せない。許せない。
裏切り者!殺してやる!殺してやる!
真島のことが好きだった。
好きから嫌いに。
愛情から怒りに。
お人形さんのやり方は三俣から教わった。
照明を消した、自分の部屋で深夜の0時に
正座しながら扉に背を向ける。
そして、目を瞑りながら
「お人形さん、お人形さん どうか(嫌いな人の名前)を殺してください」
と、1回唱える。
ただ、それだけだ。
それだけで人が死ぬ。
殺すことができる。
僕は下を向きながら、ニヤリと笑った。
4.
夜。
深夜0時が待ち遠しい。
早くこないだろうか。
僕はウズウズしていた。
何度か練習をして、待った。
スマホのSNSで書き込みをしながら、甘いコーヒーを飲んだりもして やっと深夜0時。
電気を消して、ドアを背に正座になる。
目を閉じて、ゆっくりと言う。
最初で最後の興奮だった。
「お人形さん、お人形さん どうか真島 冬華を殺してください」
これで、真島は死ぬ。
ざまぁみろ!
ピロリン
「ちっ。なんだよ」
メールだった。
送り主不明だし。
僕はスマホを開いて、メールを見た。
真島からだった。
きっと、誰かに聞いたのだろう。
白神へ
助けてあげられなくて、ごめんね。
でも1つだけ。
お人形さんはやっちゃダメだよ!
確かに恨んでる人を殺すことはできるけど、代償があるし…
とにかく、絶対にダメだからね!
真島より
やってしまった。
何がざまぁみろだ。
こんなに心配してくれていたのに。
真島はそんなに表に出るような子じゃなかった。
「う、うぅ」
僕は泣いた。
メールで、ごめん と打つ。
全部、僕のせいだ。
代償くらい、いい。
いや、なんなら殺してほしい。
生きていけるはずがない。
いじめられながら生きていく。
好きな人を殺したくせに生きていく。
そんなの耐えられない。
トタン
僕は後ろを振り向く。
「お人形さん。 僕を殺して。」
床には、お人形さんが落ちていた。
「お願い。僕を殺して」
僕は泣きながら訴える。
お人形さんは、ニヤリと笑って言った。
「足、ちょーだい。」
お人形さんは、瞬足で僕の足にナイフを突き立てた。
「ぐぁっ!」
グリグリと、皮を肉を骨を切っていく。
「ひぐぅ。 ぐぁっ! ぐごっ!」
ガリガリと足だけを切っていく。
血がドバァッと出てきては、痛みが全身を麻痺させる。
頭の中は赤黒くなっていく。
ごめん と打ったメールは、真島には届かなかった。
いじめられながら生きていく。
好きな人を殺したくせに生きていく。
足がないまま…生きていく。
自分で書いてて、足が痛くなりました。