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異世界迷宮のトライアル  作者: もり
第一章
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7.もえてきた

 

「ここは……どこだ?」


 裏通りを抜けると、『ザ・工事現場』とでも言う場所に出てきた。

 壁で囲まれているせいか少し薄暗い。

 確かにここなら目立たないから犯行現場にはもってこいの場所だ。


 そして奥には一人の金髪の女子が両脇に女子を抱きかかえ、鉄骨の上に座っていた。

 周りにも女子がたくさんいる。

 彩葉を探せば、その金髪女子の前に倒れていた。


「……あ? お前、誰だ?」

「彩葉!」

「悪いな。この子はもう私のも――」

「そんな寝心地の悪そうな場所で寝るなよ。さあ、帰るぞ」

「話を聞け!」


 金髪女子が声を荒げ、そこでそういや何かごちゃごちゃ言ってたなと気付いた。

 だけど、こんな所でのんびりしている暇はない。

 さっさと買い出しを終えて帰らないと、また日が暮れる。


「ああ、なんかわりーな。こいつ、気に触ることしただろ。性格悪いからさ~」

「性格悪いの? なんか萌えてきた」

「はあ? お前、バカなの?」


 わけのわからないことを言い出す金髪女子に、つい口がすべって本音が出てしまった。

 すると周囲の女子が立ち上がってきんきん怒鳴る。


「お前って失礼よ!」

「この方は学園二十七位、“エクセリア”の神崎ゆり様ですのよ!」

「まぁまぁ、子猫ちゃんたち、落ち着きな」


 神崎と言うらしい金髪女子の寒い言葉に、他の女子たちはすぐに黙った。

 いや、怖えよ。


「お前、そのネクタイはトライアルだろ? 学園の底辺が私のことを知ってるわけが――」

「学園二十七位って、なんか中途半端な順位だな」


 自分でもわかっている。

 口は災いの元だって。俺の唯一の欠点だな。

 そして、神崎はあきらかに苛立ちを顔に表したが、それよりも周囲の女子のほうが激しく反応した。


「この人……ゆりちゃんに向かって、なんて失礼なことを!」

「ゆりお姉さま! やっちゃってください!」

「たかがトライアル風情がゆり様に口をきくだけでも許せないのに、もう我慢できない!」


 色んな女子がいて選り取り見取りだな!

 どんどん加熱していく俺への敵意を感じて、さっさと逃げることにした。

 こんなところに長居は無用だ。

 彩葉を抱きかかえようと屈みこんだその時、静電気がぴりりと走った。


(いてえな。こんな季節に静電気とは……)


 少し痺れるが、これくらいはどうってことないので、よいしょと彩葉を背負い、踵を返す。

 ところが、手下だか取り巻きだかの女子がさっと俺の前に立ちはだかり、退路を阻まれてしまった。


「トライアルか……。そういえば、教室を返せってしつこく言ってたやつがいたな。確か、黒木とかいう……」

「白井だと思うぞ、たぶん」

「たぶんかよ!」


 なるほどな。こいつが教室を奪った犯人だったのか。

 白井先輩から女子を常に連れていることや、氷室先輩からやばいやつって聞いていたから、てっきり男だと思っていたが、まさかの女子かよ。


「お前、教室を返してほしくないか?」

「いや、別に」

「少しはやる気を出せよ!」


 なんだ、この暑苦しいセリフは。

 勉強なんて教室がなくてもできるし、そもそも教師があれだからな……。

 とにかく、早く買い出しに行きたい。


「おっと、ただでは帰さないぜ? 怪我をしたくなかったら、その子を置いていきな」


 どこかの三文芝居のようなセリフをまじめに吐いて、一番やる気を漲らせている女子が鉄パイプを振り上げた。

 鉄パイプって……。

 他の女子も魔法を繰り出すようにかまえ、戦闘態勢に入る。


「悪いが、彩葉は大切な仲間なんだ。だから置いていけないな。帰りの荷物も一人じゃ持てそうにないし」

「お前、最低だな!」

「女子に荷物を持たせるとか!」

「やっぱり許せない! 覚悟しなさい!」


 やばい。めんどくさい。

 襲いかかってくる女子を、彩葉を背負ったまま避けながら、考える。

 女子相手に攻撃するのも気が引ける。そこはほら、俺ってジェントルマンだから。


「はい、スト~ップ」


 ジェントルマンとして振る舞うべきか、正当防衛を行使するべきか悩んでいる間に、気の抜けた声が響いた。

 気がつけば、俺と女子たちの間に一人の男子生徒が立っている。

 その男子が現れた瞬間、女子たちは動きを止めた。――いや、動けなかったんだ。


「……誰だ?」

「うげっ!」


 女子としてどうよと言いたくなる奇妙な声を上げ、神崎ゆりが一歩引いた。

 どうやらこいつを知っているらしい。


「おい、馬鹿兄貴! 邪魔すんじゃねー!」

「兄……てことは兄弟なのか?」


 なるほど。そういや顔も似ているな。

 なんて問いかけながらも一人納得する。


「そう、俺の名前は神崎修かんざき しゅう……。そして彼女が可愛い妹の神崎ゆり。僕たちはラブラブのきょう……」

「うるせーんだよ! この変態!」

「ぐっ!」


 神崎兄は神崎妹に蹴られて吹っ飛んだ。

 なるほど。兄妹仲はいいらしい。


「うーん! さすがゆり、いい蹴りだったよ」

「いや、お前はいったい何しに来たんだ?」


 蹴られたお腹をさすりながら、感嘆する神崎兄は確かに変態みたいだ。

 あれか、シスコンってやつか。

 そんな兄を睨みつけながら、神崎妹が問いかける。

 すると、神崎兄がぱっと顔を輝かせた。


「そうそう! 今の話を聞いていたんだけどさ、一つ決闘をしないか?」

「決闘?」

「そう、ゆりと君が戦って、君が勝てば、ゆりが保有している教室を返してあげよう。しかし君が負ければ彩葉ちゃんはゆりのものだ」

「はあ? それ、俺に何の得もないっすよね?」


 別に教室はいらないって言ってるんだから。

 それにしたって、どこで話を聞いてたんだ、この変態は。ストーカーか。


「“花いちもんめ”みたいなものだと考えてくれればいいよ」


 盗み聞きはするが、俺の話は聞かないらしい。

 思わず呆れてため息を吐いた時、ようやく彩葉が俺の背中で目を覚ました。




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