適合試験
起きたらそこは真っ白な空間だった。
聡太はそこの真ん中のベッドの上で寝かされていた。
体を起こし辺りを見回すと縦横10m先に壁がある人一人の部屋にしては少し広すぎる空間だった。
「⁈」
聡太は自分の姿を見ると絶句した。
体の傷や失ったはずの左腕は元に戻っていて理由はどうあれ大変喜ばしいことだか絶句した理由はそこではない。
「なん・・だこれ」
聡太は再度自分の体を見回す。
体は血がなくなってしまったかのように白くなっており、髪の毛も黒だったはずがこちらも白くなっている。
「どうなってるんだ・・俺確か殺されたはずじゃ・・・」
そう、先程自分はわけのわからない化物に殺されたはずだ・・・・ということは・・・・
「俺・・・死んだのか?」
それなら聡太の傷のことや失ったはずの左腕のこと、肌の色と髪の毛の色のことは説明がつく。
聡太がそう納得していると・・・
「いや、残念だが君はまだ死んではいない」
そんな端整な声が聡太の頭上から聞こえてきた。
そいつは聡太の約30m上のガラス越しにこちらを見下ろしていた。
「・・・・・・」
聡太はただただそいつを無言で睨みつけた。
そうするとそいつは両手を前に出し、
「おいおい、そんなに睨まないでくれ、これでも君を助けたのは私なんだぞ」
聡太は一度睨むのを止め、そいつにある疑問を投げかけた。
「俺が死んでないってどういうことだ」
そいつは二度咳払いをし、
「そうだな、正確に言うと君はこれから死ぬ予定だ。その状態は一種の仮死状態のようなものでね、1時間と保てない。」
「じゃあ俺は死ぬのか・・・」
そいつは俺を見て口元をにやりとさせ、
「あぁ、このままだとね、しかし君にはまだ生き返るチャンスがある。」
そいつは強くそう言うと、口元の笑みをより強くし、両手を大きく広げた。
「君はさっきイブリースという魔物に襲われた、我々はそいつらを倒す機関だと考えてくれていい。」
「イブリース・・・」
聡太がどこか上の空に呟くが彼は語調を止めず、
「そして君には今からそいつらを倒す力を与えよう。元々君が襲われたのも我々の責任だからね」
「・・・・・」
聡太は正直彼が話していることは微塵も理解できない。
しかし自分のたった一人の家族であった妹を殺した奴らを倒せる力を与えるとこいつは言ったのだ。
聡太はそこに強く反応した。
「奴らを・・・殺せるのか?」
「あぁ、だから君にはある試験を受けてもらう。適合試験だ。今から君の体にある薬を流し込む、我々はこれを神薬と呼んでいる。」
「そいつを体の中に入れればいいのか?」
「そうだ、しかしこれにはあるリスクが付いてくる。」
「リスク?」
「これはな20%の確率で成功することができるが、残りの80%は君を襲った奴らと同じ魔物になってしまう。」
「・・・・・・」
「それでも君はやるのか?」
彼は聡太に問うてきた。
その言葉は「覚悟はできているか?」と言っているようにも聞こえた。
しかし聡太は・・・
「あぁ、やるさ」
即答だった、何もせずに死ぬくらいなら少しの可能性に賭けた方がいいと思ったからだ。
そいつは聡太の言葉を聞くと鼻で笑い聡太の位置からは見えない後ろを振り向き、
「これから適合試験を開始する。総員準備にあたれ!」
彼がそう言うと聡太の部屋に数名の研修員が入ってきた、彼らは聡太の両手、両足をベッドに縛り付け、左腕の袖だけ捲り上げた。
「そういえば、私は君の名前を聞いていなかったな」
「影峰聡太だ」
「聡太君、今からやることは痛みが生じるどうか我慢してくれ」
そうすると聡太の頭上、天井から機械仕掛けの巨大な注射器のような物が現れた。
それは聡太の左腕に近づくと聡太の左腕にプスリと刺さり、中にある薬が聡太の体内に注ぎ込まれる。
その瞬間、聡太の体に弾けたような衝撃が生じた。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁ」
(こんなの痛いってレベルじゃない、少しでも気を緩めれば死にそうだ)
次の瞬間、聡太の体から深い闇色の霧が溢れ出した。
空間が振動し、地ひびきを起こしている。
「生体反応、魔力ともに急上昇しています。」
「おい、誰か警備員を呼べ、魔人化するぞ」
その研修員声が聞こえた時聡太は自分の状態を悟った。
(失敗したのか?)
おそらくこのままでは聡太は奴らと同じ魔物になってしまい、殺されるだろう。
(ちくしょう・・・)
「扉の前に警備員を控えさせろ!すぐに殺せ!」
「待て・・・」
先程まで聡太と話していた彼が研修員を手で制する。
その目は聡太をまっすぐと見つめていた。
「ぐが・・・ちくしょう・・」
(こんな所で死んでたまるか)
「ちくしょう・・・ちくしょおおおおおぉぉぉぉ」
次の瞬間、闇色の霧は一瞬で凝縮され、すべて聡太の体内へと戻った。
その場にいたすべての人が唖然としていた。皆信じられないとばかりに口をあんぐりと開けている。
しかし、一人だけ落ち着いた口調で第一声を発した。
「おめでとう聡太君、実験は成功だ。」
彼は聡太に賞賛の声を上げたが今の聡太にそんなことを聞く余裕はなかった。
「この後のことは改めて説明する。後で私の部屋にきたまえ」
彼はそう言うとその場を去ってしまった、それと同時に聡太のいる部屋の扉が開き、一人の女性が聡太に近づく、その人は黄金色の髪をなびかせ、
リーリス・オートライズは聡太を見下ろした。