リーリス・オートライズ
そこは、幾人もの血で塗り尽くされていた。
地面には数名の死体が転がっている。
私、リーリス・オートライズは歯ぎしりをしていた。
それは彼女自身が間に合わなかったという悔しさからだろう。
私は倒し損ねた魔物がいると聞き、上層部の指示に従い討伐に向かった。
最初は4体の魔物を発見し、うちの3体を倒したところであと1体を見失ってしまった。
彼女は躍起になって探した。
自分のミスで尊い命が奪われると思うと背中にゾクリとする寒気に感じた。
そしてやっと魔物を発見し来てみればこれだ。
間に合わなかった・・・、
少なくとも10数名は死んでしまった。
しかし、不幸中の幸い、私の後ろにいる彼はなんとか守れた。でも急がなければこの人もいずれは死んでしまうだろう。
早急に手を打たなければいけない。
そして100m先の魔物へと視線を移す。
魔物は何事もなかったかのように瓦礫の下から立ち上がってきた。
見た様子まだピンピンしている。
私は左手を前に出し、右手は指先に集中し自身の武器を頭の中で投影する。
そうすると、どこからともなく淡い光が現れ、彼女の両手へと集まる。
その発光体はある形を形成すると破裂音とともに弾けた。
そして現れたのは黒々しい弓と弓矢だ。
(インドラ・・・)
自身の中に宿っている神に呼びかけると弓と弓矢を構え、的を定める。
そうすると弓矢は周りも痺れさせるような電気を帯びた。
バチバチと音がし、弦をより強く引くごとに電気は大きくなっていく。
的が定まると私は弓矢を放った。
稲妻のような弓矢は魔物へと一直線に向かい直撃した。
その瞬間、落雷のような音が響き渡った。
魔物は蒸発したかのように跡形もなく消え去った。
私は急いで、後ろで倒れている彼の元へと向かう。
彼の前で膝をつくと彼の状況を確認した。
体中から血が溢れており、左腕がない、おそらく彼の命はギリギリ糸一本繋がっている状況だろう。
その前に何とか・・・、
リーリスは彼の手を握ると、
「これからあなたはおそらく、いや確実に死ぬでしょう・・・」
彼はそんなことを聞いても反応を見せない。
自分の状況を理解しているのだろう。
「しかし、あなたに一つだけ助かる道があります。」
そこで、初めて彼は反応を見せた。
こちらを見て、口をパクパクさせ喋ろうとしている。
「喋らなくていいです・・」
彼はリーリスの言葉を聞くと大人しくした。
この道は大変無謀だ、下手をすればリーリスが彼を殺したことにしてしまうかもしれない、しかしリーリスは言わなければならない、それが今の彼女にできる唯一の償いなのだから、
「もしも生きたいのであれば、私の手を強く握ってください。」
そう言うと彼はリーリスの手を強く強く握ってきた。