黄金色の髪の美少女
聡太の腕の中にひんやりとした感触が伝わる。
『桜・・・桜・・』
聡太は彼女の名を何度も呟くが反応がない。
彼女の腹部からは今も止まることなく流血が続いている。
『桜、起きてくれよ・・頼むよ・・・』
聡太は桜の体を揺する。しかし、やはり反応がない。
聡太自身ももうわかっている、桜がもうすでに死んでいるということは、しかし認められない、認めたくないのだ。だから桜の亡骸を揺すり続けている。
『さく
次の瞬間、聡太の体が車にはねられたかのような勢いで真横に吹き飛ばされた。
そしてまた壁へと激突する。
しかし今度は何かが違った。不思議と痛みを感じなかったのだ。
何か異常があったのではと自身の体を見下ろす。
左腕は消し飛び、胸には三本の傷ができていた。
聡太は自分の重傷に気づいた瞬間とんでもない痛みに襲われた。
『ああああぁぁぁぁぁぁぁ』
聡太は叫んだ。そうしないととてもこの痛みに耐えられなかったからだ。
聡太の体からは血がダラダラと流れている。
次に先程まで自分がいた場所を睨む。
そこにはまたしても灰色の化物がいた。
桜の命を奪った灰色の化物だ。
化物はこちらへと歩調を進めてくる。
(俺は死ぬのか・・・)
聡太は自分の死際を悟った。
このままではおそらく、いや必ず聡太は殺されるだろう。
聡太は諦め瞼を閉じようとした。
しかし瞼を閉じる直前桜の顔が脳裏に浮かんだ。
聡太は歯をくいしばった。
(そうだ、桜を殺したのはこいつだ!)
聡太はよろけながらも懸命に立ち上がる。
(こいつだけは、こいつだけは!)
聡太は大地が震えんばかりに叫んだ。
『刺し違えてでも殺してやる‼︎』
聡太は今出せる力をすべて出し切り、化物へと駆ける。
『うおおおお・・・』
化物は聡太がこちらに近づいてくることに気づき、歩調を止める。
聡太が化物に手の届く距離に達した時、聡太は化物に殴りかかった。
当然ただの拳による打撃でこの化物を殺せるわけがない。
しかし聡太は止まることはなかった。
聡太はただ化物へと駆ける。
次の瞬間、コンマ数秒の間、聡太の視界は一変した。
化物へと駆けていたはずの視界がいきなり化物の真上へと変わっていたのだ。
(なんだ、何が起こった・・)
聡太が状況を理解するため思考を迷わせていると、
『かはっ・・』
聡太の口から鮮血が飛び散った。
自分の胸へと視線を移す。
聡太は自分が鮮血を吐き出した理由を理解した。
それは化物の腕が聡太の胸を貫いていたからだ。
化物は聡太を投げ捨てる。
聡太は投げ捨てられたが、もう体を動かすことすらできず、神経での体の感覚もない。
朦朧とする意識の中、なんとか目だけを動かし、化物を睨む。
化物は聡太に最後のとどめを刺そうと聡太に近づいてくる。
(ちくしょう・・・ちくしょう・・・)
聡太は立ち上がろうとする。しかし体はピクリとも動かない。
地面には聡太の血が滴り始めた。
聡太は今度こそ諦めて瞼を閉じる。
瞼を閉じると桜の顔が浮かんできた、他にも桜との思い出や桜との色々な出来事が頭に浮かんでくる。
走馬灯というやつだろう。
最後に浮かんでくるのが憎しみや怒りではなく、桜との思い出であることに安心しながら、聡太は最後、全身から力を抜いた。
徐々に化物の足音が近づいてきて、聡太の前で止まる。
そして次の瞬間、
バチバチッ!
聡太は閉じていた瞼を開けた。
その音は聡太がとどめを刺された音でもなく、聡太が起こした音でもない。
ならば、いったい?
聡太が化物へと視線を向ける。
さっきまで聡太の目の前に立っていた化物はいつの間にか遥か後方のコンクリートの壁に吹き飛ばされていた。コンクリートの壁も壊れ、化物はその中にいる。
そして聡太の目の前には黄金色の髪をなびかせた美少女が立っていた。