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テオス プレッジ  作者: KURO
2/7

過去

5年前

聡太が小学5年生の時である。

『ねぇねぇ、お兄ちゃん』

桜が学校の宿題をしている聡太に呼びかける。

『どうした?』

聡太は宿題をしている手を止め振り向く。

桜は聡太と目を合わせ、

『どうしてお父さんとお母さんは帰ってこないの?』

と言った。

聡太は胸が痛くなった。

なぜなら、聡太達の両親は交通事故で他界してしまったからだ。


半年前、

交通事故のその日、高熱を出して寝込んでいた桜を看病していたその日、インターフォンがなった。

誰かと思いドアを開けると近所でよくお世話になっているおばさんが何事かと思うくらいの勢いで飛び出してきた。

『聡太くん‼︎』

おばさんは飛び出してくるやいなや荒い勢いで、

『大変よ、お父さんとお母さんが‼︎』

その後で聡太はおばさんに両親が交通事故にあったと聞かされた。

桜のために買い物に出掛けた両親は走行中のダンプカーと激突してしまったらしい。

聡太は熱がある桜を置いておばさんと急いで両親が搬送された病院に向かった。


病院についてから1時間後、

聡太は受付の近くのベンチに座っていた。

30分前、両親が亡くなったことを医者に聞かされた。

医者は聡太に頭を下げ、『ご両親を救うことができませんでした。』と言った。

聡太はどうしていいかわからなかった。

わからないまま聡太は30分もベンチに座っていた。

おばさんは居た堪れなかったのか桜の面倒を見ると先に帰っていった。

きっと今頃おばさんは桜のために晩ご飯を作ってくれているだろう。

わからないままベンチに座っていると、30代半端の女性が聡太の目の前に座り込み聡太の手を握ってきた。聡太の親戚だ。

次に聞いた話だと聡太たちは親戚のおばさんが面倒を見てくれるそうだ。

後で近所のおばさんにはお礼を言わなければならない。ここまで色々してくれているんだ、さすがにお礼を言わなければ失礼だろう。

あと今後についても色々考えなければならない。

聡太が思考を巡らせていると、

『大丈夫よ・・・』

『⁈』

いきなりおばさんが目一杯に聡太を抱きしめてきた。

なぜ、おばさんは僕を抱きしめてきたのだろうか。

『大丈夫だから・・』

おばさんはなおも僕を抱きしめている。

そう聡太が呆気にとられていると。

『もう泣かなくていいから・・・』

『⁈』

泣いている?この人は今僕が泣いていると言ったのか?

自分の目を確かめてみる。

確かに聡太の両の目からは涙が溢れていた。

多分おばさんがくる前から自分でも気づかないうちに泣いていたのだろう。

『僕・・・』

聡太がどうするか迷っていると、

『本当に大丈夫だから、私がついてるから』

おばさんは僕をより強く抱きしめるとそう言った。

おばさんの目の端には涙が滲んでいた。

『うあ・・・』

聡太はもう泣きそうだった。

しかし、泣くのを必死にこらえている。

おばさんは僕の意思を悟ったのか、

『もう我慢しなくていいから・・・・』

聡太の中で何かが弾けた。

聡太はもう自分の感情を抑えることができなかった。

『うああああぁぁぁぁぁぁぁ』

次の瞬間聡太はおばさんの胸の中でひどく泣きじゃくっていた。

その時、病院の受付スペースでは聡太の声が隅々まで響いた。


聡太は泣き止んだ後、おばさんに二つお願い事をした。

一つ目は、これから桜は自分が面倒を見させてもらいたいこと、

二つ目は、桜には両親が死んだことを知られないようにすること、

一つ目のお願いに関して、おばさんは心配したがやがて認めてくれた。

二つ目のお願いは、桜には自分と同じ思いはさせないためだからだ。

これからはずっと桜のそばにいてやろうと

『あ、お兄ちゃん』

家に帰り桜の様子を見ようと桜の部屋へ入る。

『おかえり』

桜はベッドから体を聡太を出迎えてくれた。

その顔は実におっとりとしていた。

『っ⁈』

聡太は桜の姿を見るとまた涙が溢れてきた。

聡太はすぐに桜に抱きついた。

『ど、ど、どうしたの⁈』

桜はすごく慌てていた。

『ごめん・・・、今はこうさせてくれ・・・』

桜は聡太の気持ちを読み取ったのか、聡太の頭を優しく撫でた。

その手はゆっくりとゆっくりと聡太の頭を撫で続けた。

聡太が泣き止むまで・・・・・



そして現在に至る、

聡太はどう答えるか一瞬迷った。しかし桜に何か悟られないため、すぐに決断した。

『遠くで仕事してるんだよ、出張だよ、出張』

『ふーん・・・』

桜は少し頭の上に疑問符を浮かべていたがやがて納得した。

『遠くに?』

『すごく遠く』

『早く帰ってこないかな』

『きっとすぐに帰ってくるさ』

聡太がそう言ったが桜は少ししゅんとしていた。

『寂しいか?』

桜は聡太の言葉を聞いた瞬間、両手を前に出し首を横に振る。

『お兄ちゃんがいるから、大丈夫』

『そうか』

『うん』

桜が満面の笑みで答える。

そうゆう顔をされるとこちらはすごく安心できる。

『私ね・・・・』

桜は次に胸に手を当て、こちらをまっすぐ見つめる。その頬は少し赤らんでいた。

聡太は何か大事なことだと悟り、桜の方を向く。

『私ね・・・お兄ちゃんのこと大好きだよ、結婚したいと思ってる』

『⁈』

桜の言葉に聡太は度肝を抜かれた。

それもそうだ、いきなり結婚を申し込まれたのだから。

『うーん・・・』

桜は兄弟では結婚できないということを知っているのだろうか、知ってて言ってきたのならこれは兄として正してやるところなのか、それとも受け入れてやるところなのかだろうか。

聡太がそう悩んでいると、

『嫌・・・かな?』

桜が上目遣いでこちらを見つめてくる。

『嫌じゃない』

そんな顔されるとこちらはそう答えるしかない。

『いいよ』

次の瞬間、桜の顔にあった不安の色は消し去り、ぱぁと輝かんばかりの笑顔に変わった。

『本当!本当に!』

『ああ』

『うわぁ、嬉しいな、嬉しいな』

桜は喜びを抑えきれずぴょんぴょん飛び回っている。

やがてこちらに振り向くと、

『約束だよ!』

聡太に小指を差し出してきた。

『うん、約束』

聡太はその小指を自分の小指で握り返す。

法律などまた後で考えればいい、今は桜の幸せだけを望もう。聡太はそう思った。

『ずっと一緒にいようね!』



そう言った桜だったが今では聡太の腕の中で帰らぬ人となっている。

『桜・・・・・』

聡太は桜の亡骸を強く強く抱きしめる。





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