祝福の女神様は結婚したい
昔々、ある世界に祝福の女神様が居ました。
その世界にはたくさんの神様がいましたが、祝福の女神様は一番凄い女神様でした。
軍を率いる軍神様は戦争が無いと力を貸せません。
恋愛の神様は恋人同士が結婚するまでしか力を貸せません。
太陽の神様は太陽が空にあるときしか、月の神様は月が空にあるときしか人々を見守ることができません。お空が曇っていても駄目なのです。
そうやって制約の多い神様の中で、祝福の女神様はいつでも人々を見守り、人々の為に力を使いました。
100年、200年と。長きにわたって祝福の女神様は頑張りました。
人々は祝福の女神様を崇め、大いに感謝しました。
女神様は人々の信仰を集め、神々の中でも一番の神様になりました。
しかし、良き時代にも終わりの時が来ます。
繁栄した人々の、彼らを治める女王様が、女神様の祝福を独占したのです。
「女神様に頼りすぎてはいけない」と、女王様は言いました。そして国の限られた難事にだけその力を借りる事にしたのです。
女神様は人々を見守れど、祝福を与える事が少なくなりました。
祝福の女神様に、自由な時間が出来たのです。
時間の出来た祝福の女神様は神々の宴に顔を出しました。
これまでは人々に祝福を与えるために行けなかったのですが、時間が出来たので参加することにしたのです。
宴では神々が楽しそうに笑っていました。
男の神様も女の神様も、肩を並べ酒食を楽しみ、大いに笑っていました。
祝福の女神様も、一緒になって笑いました。
宴の時は進みます。
酒が入れば口も軽くなります。
だから、間違いが起きるのです。
「祝福の女神には、お相手がおるのか?」
とある女神が祝福の女神様に問いました。
祝福の女神様と同じぐらい古くからいるその女神には伴侶がいました。同じ時代を生きた戦神です。
他の神々も同様で、ある程度古き神々はみんな伴侶がいます。そう、祝福の女神様以外は。
その後、祝福の女神様は「婚活」をしました。
出来た時間で他の神々と会い、時に紹介を頼み、時に自分を売り込んで。祝福の女神様は頑張ったのです。
ですが、現実は非情です。
祝福の女神様はその全てに失敗しました。
祝福の女神様は最高神とも言える位置にいます。その伴侶には相応の力が求められます。その時点でほとんどの神々が駄目だという事になりました。
残った伴侶のいない男神は、いないなりに理由がありました。性格的に問題があったのです。さすがに祝福の女神様も妥協できませんでした。
そしてある程度有望な物件は、過半数がお手つきで、残りは本人の気が引けて相手になれなかったのです。
結婚できない祝福の女神様は絶望しました。
それでもその絶望を未来への希望で押さえつけ、女神の仕事をします。
そんな時、とある女王様が女神様に祝福を願いました。
「素敵な、良き伴侶を得られるよう、魅力が欲しい」と。
その女王様には兄弟姉妹がおらず、下手な婚姻は国力の低下を招く状況でした。つまり恋愛結婚の出来ない彼女の婚姻も、国にとっての一大事だったのです。
普段であれば笑って女王様を祝福したでしょう。幸せな結婚を願い、祝福の女神としての責務を果たしたはずです。
ですが――タイミングが悪かったのです。
祝福の女神様は、ブチ切れました。
祝福の女神様は、祝福する事しかできません。
ですので、女神様は“祝福”しました。
いい男を捕まえられるよう、美しさや頭の良さ、体の強さなど、多岐にわたって、全力で。
女性を祝福したのです。
それはもう、女王様だけでなく、世界中の女性全てを。
そこから先は、地獄でした。
祝福は産まれてくる新し命にまで影響を及ぼしました。
女性が祝福されるため、女性の出生比率が急激に上昇したのです。その分、世界人口における男性の割合が下がりました。
さらには男女の能力差により、男性は保護対象と呼べるほど女性に弱くなったのです。肉体的にも、精神的にも。
それらの要素が合わさって、男女の結婚はとてもとても難しくなりました。
世に言う、大婚活遭難時代の始まりです。
祝福の女神様は、祝福する事しかできません。一度行った祝福を取り上げる事もできません。
他の神々が頑張って、なんとか男の子が産まれてくるといった有様です。祝福の女神様は最高神なので、他の神様よりかなり大きな力があったのが災いしました。
力を使い果たした祝福の女神様は眠りに就きました。
長い長い眠りです。
次に目覚めるのはいつの日か。
その時、女神様の傍らに、素敵な男神がいますように。