居候と不労者
「あなたは、私の保護観察人失格ですぅぅぅ!!」
「わかった、わかったから泣き止めよ!!身体中から炎出まくりでこっちが先に死ぬからぁ!!」
「ウグッ ヒグッ…」
「とりあえず、玄関先だからさ、家上がろう?ほら、高等部男子が中等部女子泣かせたなんて言われたら、俺一生家から出られなくなるからさ、幸い、この時間帯は誰もいないからいいけど…」
「おじゃましまーす! あれ、そういえばクロトさん、引っ越しました?」
「いや、確かに引っ越したけど…つーか何おまえナチュラルに人ん家上がってるの!?いや上がれって言ったの俺だけどさ…あれは嘘泣きだった訳!?」
「はい、嘘泣きです。次いでに炎も“偽炎“ってやつです。」
「あれ?でもあれ熱かったぞ?」
「それだけ私の技巧が強くなったってことですよ。前の私なら、炎の形だけしか放出出来なかったはずです。」
「へぇ、おまえも頑張ったんだな。」
「当然です!クロトさんに保護観察対象として認められるために頑張ったんですから!!」
「あ…うん…」
ついさっきまでのゴタゴタが嘘のように、二人は会話を続けた。
「で、なんで俺がおまえのパートナーなんだ?俺はパートナー申請拒否の登録を人事課に出したはずだけど…」
「私が人事課に直談判して取り消した上でパートナー申請しました!」
「おまえ俺に恨みでもあるの?新しい嫌がらせか何かなの!?」
「私がクロトさんを恨む訳ないじゃないですか。私の心はクロトさんへの愛で溢れてますよ!」
ホノカが身体中から炎を放出しながら答える。
「よし、おまえは今すぐ頭を冷やしてこい! 身体的にも精神的にも! それが出来ないなら、俺が今ここで斬り捨てる!!」
クロトが部屋にあった日本刀型演算補助装置『黒龍斬月』を握りしめる。
「とか言っておきながら、クロトさん全然私のこと斬る気ないじゃないですか。柄じゃなくて、わざわざ鞘の下のほう持ってますよね?」
「斬る気はないが、おまえは少々発言に気をつけるべきだ。次はないぞ。」
「はーい。」
「で、おまえは俺のところに契約書を持ってきたわけ?」
「いえ、指令書です。」
「指令書?」
「ほら、これです。ちゃんと学院長の判子も押してありますよ。」
「うわぁ…あいつ…やりやがったな…」
クロトはどこかで見ているであろう誰かを思い浮かべた。
「あいつ?誰のことですか?」
「いや、こっちの話。 しかし、それがあるってことは、俺とおまえはパートナーにならなきゃいけないってことか。」
「はい! あ、クロトさん、私、一回あれやってみたいんですよねー。『ごはんにする?お風呂にする?それとも私?』てやつです。」
「いや待て、ホノカ。それは契約違いだ。」
「ところで、なんでクロトさん今日学校行ってないんですか?始業式ですよ、今日。」
「そっくりそのまま返すぞ、ホノカ。」
「私は、今日は指令書渡してこいって学院長が言ってたので… クロトさんは?」
「正直な話、高等部なんて指導者になるようなやつしか行かねぇよ。だから俺は行かない。」
「じゃあ私も行きません。」
「はぁ!?いやおまえは関係ないだろ。」
「パートナーが行かないなら私も行きません。それだけです。」
「…好きにしろ、だけど、中等部の勉強は重要だ。これだけは覚えておけ。」
「はいはい、分かりましたー。」
「じゃあ、仕事しましょう!」
「やだ。」
「即答ですか…なんでですか?」
「家から出たくない。」
「完全にニート拗らせてるじゃないですか… 貯蓄はないんですか?」
「最近引っ越したから100万も無ぇよ。」
「私、あてがあるのでとりあえず外出ましょう!」
「え、今から?」
「今です。」
「で、あてっていうのは?」
「あれです。」
「えぇ…」
ホノカが指した先を見て、クロトは落胆した。
何故なら、そこには『霜神探偵事務所』と書いてあったからだった。