邂逅
ピピピー、ピピピー、ピピピー。
目覚まし時計の音が鳴り響く。
「んぅ…ぁあ…」
気だるげな声をあげながら、
一人の青年―剣崎 黒斗 ―は目を覚ました。
そして、ベッドから起き上がらずに顔を横に向け、
デジタル表示の時計を見つめた。
「もう11時かぁ…」
それは、年頃の青年が起きるにしては些か遅すぎる時間だった。
「さてと、飯でも食うか。」
クロトは、それを気にすることなく、少しクセのある黒髪を整えることもせずに、ブランチの用意をした。
トーストを焼いていると、ふと学院支給のカレンダーが目に入った。今日の日付には、“入学・始業式“と書いてあった。
「はぁ…」
ため息をついた。
登校拒否生徒。
所謂"不登校"。
クロトは昨年の入学式以来学校には行ってない。
"行けない"のではなく、"行かない"。
今の彼は学校に行く理由を見出すことができなかった。
チーン
トーストが焼けた。
トーストを食べたクロトは再びベッドに戻り、備え付けの端末を操作してホログラムパソコンを起動した。
勿論、電子の海の波乗りをするために。
端末を動かす。
画面が上から下に流れる。
面白そうな記事を探してクリックし、その内容を見て意外と面白くなくて落胆する。そんなことをだらだらと続けていると、
ピンポーン
なんともマヌケな音が玄関から響いてきた。
「ん?誰だ?」
久しく来客もなかったので、クロトは普段聞くこともない音に驚いた。
ピンポーン ピンポーン
今度は二回鳴る。
「今行きまーす」
気だるげな返事を投げかけ、クロトは玄関に向かった。
ドアを開けるとそこには、
「ネコネコ配達ですけどー、ケンザキ クロトさん いらっしゃいますかー。」
「え?」
配達員の格好をして伝票だけ持った、見知った顔の少女が、帽子を目深に被り、口元を軽く歪ませながら立っていた。