プロローグ:全能の逆説
“全能者のパラドックス“という言葉を知っているだろうか?
『全能なる存在は、≪自身が持ち上げられないほど重い石≫を作り、それを持ち上げることができるだろうか?』という問いだ。
古来より、数多の哲学者の頭を悩ませていた問題である。
この問題は一種の矛盾として扱われ、また、その扱い方は『全能者』を否定し、封建的な宗教社会を技術と情報による科学社会に変えたとされている。
しかし、それは事実ではない。
哲学者たちは『全能の存在』に気付いていた。
気付いた上で秘匿した。
なぜなら、人々に『真実』が露呈するのを恐れたからだ。
明かされれば、混乱を招く。
そう思った彼らは、その存在を隠した。
つまり『全能者』は、未だその全能性を保ったまま、この世界に存在するということだ。
なぜ、彼らが『全能者』の存在に気付いたか。
それは、世の中に≪理不尽≫、≪異常者≫、≪理論では説明できないもの≫があるということを見つけてしまったから。
それ則ち、『全能者』の存在を認めたということになる。
『全能者は、≪自身が持ち上げられないほど重い石≫を作ることができ、またそれを持ち上げることができる。』
つまり『全能者』とは、『不可能を可能にする』ことができる者である。
この証明は、他ならぬ『全能者』を否定しようとした哲学者自身が説いた、一つの逆説である。