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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
89/140

森の連中の食生活

 ノマルの隣で、ロイがゴクリと喉を鳴らした。


「これはまた……彼らは何度、僕達を驚かせる気なのでしょうか」


 広場には様々な屋台が並んでいた。

 そのどれもが、食べ物を販売している。

 馬車の中にあっただろう資材では足りないだろうから、おそらく事前からいくらか運搬されていたのではないだろうか。

 漂う煙からはいい匂いが流れ、ノマルの食欲をそそっていた。

 メニューはといえば、コーンブレッド、黒山羊の串焼き肉(バーベキュー)、魚の塩焼き、ミックスサンド、野草のサラダ、焼きトウモロコシ、コーンポタージュ、果実水、サイダー、葡萄酒……他多数。

 大柄なゴブリンが肉を焼き、猪の骨の仮面を被った小柄なゴブリンはスープを給仕している。

 広場は一カ所が入り口、もう一カ所が出口となっており、その入り口でウノがカードを配っていた。


「値段はそれぞれ三カッド。ただし食ったモノの感想を書けば、各食一カッドになる。このスタンプカードを使ってくれ」


 屋台では精算せず、スタンプを押す形になっていた。

 ただ、ウノの説明には一つ問題があった。

 ノマルは顔をしかめた。


「俺達、文字なんて書けねえよ」


 そう、農家に生まれ、そこで育ったノマル達は、読み書きが出来ない。

 村全体で見ても、出来る人間の方が少ないだろう。


「分かっている。だから代筆はちゃんとこっちで用意してある。ほら、あっちに並んでいるだろう?」


 ウノが指差した先では、おそらく先に食事を取り終えた連中が、列を作っていた。

 その先には長テーブルがあり、数匹のゴブリンやコボルトが彼らの食事への感想を記録していた。


「モンスターが!?」

「勉強させた。計算も出来る。精算も、あの出口になっているんだ。スタンプの数を数えるだけだから、楽なもんだ。ちなみにカードを紛失した際は三〇カッドなんで、要注意だ」

「高ぇ!?」


 ノマルの抗議に、ウノは苦笑しながら肩を竦めた。


「なくさなきゃいいだけの話だよ。広場とは言えあんな限られた空間で、そうそう無くしたりしないだろ? わざと盗ませるとかそんなアコギな真似はしないから、心配しなさんな」

「なるほど、そういう手もありますね。参考になります」

「おいおい!?」


 やけに真剣な目をするロイに、思わずノマルは突っ込んでいた。




 広場には、村人以外にも、コボルトにゴブリン、猪似のオーク、スライムや熊耳の幼女が給仕を行っていた。

 ある種の水やジュースは無料らしい。

 また、満杯になったゴミ箱を運んだり、老人の車椅子を押したりと、様々な仕事を行っている。

 そんな中、ノマルとロイは葡萄酒を片手に、串焼き肉を噛んでいた。


「信じられないな。森の連中はいつも、こんないいモノを食ってるのか」

「いやいや、それは違いますぞ」


 ノマルが振り返ると、そこには牛の角と槍のような角を持つ、背筋のスッとした平服姿の女性が立っていた。


「魔族っ!?」


 ロイが顔を強ばらせ、後ずさった。

 え、お前魔族と会った事あるのかよと、ノマルは思わずそっちの方が気になった。


「驚かせてしまいましたかな。ユリンと申す。何、獲って食べたりはしませぬよ。あと魔族でもないですよ」


 ノマル達が警戒しないようにだろう、距離を保ったまま、ユリンは軽く両手を上げた。


「それで先ほどの疑問ですが、我々の普段の食生活はもっと質素です。これは調査も兼ねていましてな」

「調査?」


 首を傾げるノマルに、ユリンは小さく頷いた。


「左様。最近、森のダンジョンにも多くの者が訪れるようになりまして、そう言った方々に土産やら名物になるモノを何か売れたりはしないかと考えましてな。今日、ここで出されている料理は、その候補なのです。もちろん、我々の方でも試食は行いましたが、より多くの、特に人間の意見が欲しいと思い、この機に出したという訳なのです。そう、ウチのさる高貴な方の言葉を借りるならば、『マーケティング』と言うそうですな」


 高貴な方って貴族でもいるのかとノマルは思ったが、同じ疑問はロイも持ったようだ。


「ダンジョンにも、階級があるのですか」

「階級と言うよりも役割でしょうかな。私は警備ですし、最上位にはダンジョンの家主様がおります。何にしてもここの料理は一種の投資、故にある程度の採算は度外視しているのですよ」


 ん? とノマルは思った。

 その疑問を先に口にしたのは、ロイだった。


「その割には有料なんですね」

「タダほど高いモノはございませんよ。むしろその方が皆、警戒してしまうでしょう?」

「ああ、それはありますね」


 そうだろうか……とノマルは少し悩み、タダだった場合、なるほどやはり「何企んでんだ?」って思うかもしれないと考え直した。

 それを思えば、一食三カッド、感想を出せば一カッドというのは破格ではあるが、タダよりは警戒も緩むだろう。


「後はこっちにも目的があってさ」

「うおっ!?」


 不意に後ろから声が掛かり、思わずノマルは飛び上がった。

 振り返ると獣人――ウノが立っていた。

 入り口には交代なのだろう、止まり木に留まった鷹がカード配りを行っていた


「よろしく、さっきは挨拶し損ねた。ウノだ。森に住んでる」


 手をさしのべてきたウノの手を、ノマルは握り返した。


「ノマルだ」

「ロイです」



「とりあえずウチが、この村の脅威になる事はないって事を知ってもらいたくてね。飯だって食うし、睡眠だって取る。こうやって会話も成立する」


 ロイとも握手をし、ウノは話を切り出した。


「別に俺達は、アンタ達を脅威とは思っていないぞ」


 この場合、複数形なのはロイが対象ではなく、ノマルの仲間である農夫達を指す。

 基本的にノマル達の生活と、今のところウノ達との接点は薄い。

 なので、言い方は悪いが「どうでもいい」というのがこの場合は適当だろう。


「うん、だけど得体の知れない連中、だろう? そこん所がこっちは怖い」

「怖い? 俺達の方がじゃなくて?」


 どちらかといえば、怖がるのはこちらだと思うが。

 何故、モンスター側が人間を怖がるのか。


「獣人やモンスターが集まって何かやらかしてる……ってのは間違いじゃあないんだが、いくらでも悪いように取れるじゃないか。そして、そういう風に取られると困るから、こっちは先手を打って先に情報を広めに来たんだよ」


 ノマルとしては、今一つピンと来ない。

 俺達が森の連中を怖がり、悪いように取ったら、どう困るのかが分からないのだ。

 ただそれは、ウノ達側でないと分からない事情なのかもしれない。


「まあ、要するにこの村には敵に回られたくないし、仲良くしときたいんだよ。お隣さんだからな」

「ああ、それなら分かる。『薬』の件も、その一環か」

「そういう事だ」

 もうちょっと第三者視点は続きます。

 多分あと一話か二話。

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