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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
87/140

一村人から見た、ダンジョンの連中

 よく晴れたある日の朝、テノエマ村の広場では集会が行われた。


「ふぁ……」


 村の若手農夫であるノマルは、村長の話を聞き流しながら、欠伸を漏らした。

 早朝から作物の世話をしていて眠いのだ。

 別に今日に限った事ではなく、毎朝だが。

 しかも今年は疫病が広まっているという噂があり、実際例年よりも不作の気配がある。

 なのでノマルやその家族――父親と嫁と子供二人。母親は半年前生まれた娘の世話を任せている――も、普段よりも作物の手入れに神経を使っていた。

 こんな集会を開いている暇があれば、手を動かしたいのだ。


「――以上の理由で、森のダンジョンの住人が、不作の我が村に力を貸しに来てくれるそうだ。皆、失礼のないようにな」


 ようやく村長の話が終わり、広場に集まった村人達は少しずつ方々へ散っていく。

 ノマルは戸惑い、その場に立ち尽くしていた。


「……結局、どういう理由なんだよ」


 短い髪をボリボリと掻く。

 もうちょっと真面目に聞いておけばよかったかと思うが、毎回の事だ。


「その……要約すると、困っているようだからって事ですよ」


 ふと隣からそんな声が掛かった。

 振り向くと、そこには大きな荷物を背負った細身の男がいた。

 ノマルは彼を、頭のてっぺんからつま先まで眺めた。


「アンタ、行商人?」

「ええ、ロイです。薬を扱っています。どうぞよろしく」


 男――ロイが伸ばしてきた手を、ノマルは握り返す。

 細い手だが、妙に掌は固い。

 結構、苦労してきたのかもしれない。

 ここ最近、村には行商人の出入りも多い。

 理由は言わずもがな、あそこに行けば食いっぱぐれない、そんな噂が広まって最近人が増えつつあるダンジョンの存在だ。

 ノマルからしてみれば、そりゃあ獣を狩って食うんだから、食いっぱぐれはしないだろうとは思う。

 ただし、リスクは自分達農夫よりも相当に高い。

 下手したら死ぬんだから。

 第一、モンスターと共に暮らすとか、ちょっとゾッとしないではないか。

 なんて事を考え、ふとロイの相手をしている事を思いだした。


「薬かぁ。ここでは、売るより買う方だろうな」

「どういう事です?」

「ダンジョンの連中が質のいい薬を作って、この村にも卸してるんだよ。だから買ってく奴は多いけど、売るには向いてない」


 質がいい理由は単純で、何しろ森で採れた薬草をすぐに加工するので鮮度が高い。

 元々はこの村の外れに住んでいた亜人の『魔女』が移り住んで、向こうで作っているのだという。

『魔女』から薬を卸していた薬局や道具屋は、最初こそ距離が遠くなって余計な手間になったとボヤいていたが、しばらくすると質が良くなったと喜ぶようになった。

 そして、村人や冒険者達の間で、その効能も広まり、遠くから来た行商人もこの村で薬を買っていくようになり始めたのだ。

 もちろん、度胸や腕に自信のある者は、直接取引をとダンジョンのある森まで足を運ぶが。

 そんな説明を、ノマルはロイにしてやった。


「く、詳しいですね」

「別に詳しくないよ。俺みたいな無学の農民でも分かるってだけさ。まあ、何にしても助けてくれるって言うんなら、ありがたく受け取ろうと思う。モンスターだけど、今のところ悪い事にはなってないからな」

「そうなんですか?」

「ああ、ダンジョンの方が大きくなってきてる影響か、余所からも人が来るようになってな。冒険者や、アンタみたいな行商人とかな。そうすると、この村も活気が出てくる。こないだ村長と飲んでたら、そんな話してたよ」

「経済が回るって事ですね」


 ふむふむと、行商人らしい分析をロイがする。


「その辺は知らないし、そんな実感は俺はいまいち湧かないけど、飢えるよりはまあ、いいんじゃないか」

「そうですね、畑で働いてたら、その辺は分かりづらそうです」

「そういう事だ」


 そう、栄えているらしいが、それを強く感じられるのは、村の中で働いている者だ。

 ノマルも村の人間ではあるが、一日の大半を畑で過ごしているので、人の出入りなどには多くなってきたな程度の感覚でしかない。

 それにノマルが余所者に売るようなモノなどないし、彼らと接する機会もほとんどない。

 それは、ダンジョンの住人連中にも同じ事が言える。

 ノマルの中では『よく分からない連中』に分類されている。


「……連中は亜人やモンスターだからな。ホント、失礼な事をしたら何されるか分からないだろうな」

「そ、それはなかなか恐ろしい」


 ロイは村を見て回るというので、ノマルはそこで彼と別れた。

 さて、ノマルも仕事である。




 しばらくすると、森の方から馬車の一団がやってきた。

 思ったよりも人数が多く……ザッと十数人はいるのではないだろうか。

 彼らが農道を進んでいくのを、ノマルは何となく手を休めて、眺めてしまう。

 ゴブリン、コボルト、オーク、悪魔っぽいのもいれば、その悪魔を崇拝でもしているかのような猪の骨の面を被ったのもいる。

 積んでいる荷も多そうだが、明らかに村長が話していたという『薬』とは違うように思える。

 馬車とは別に、馬のモンスターに乗っている奴が、先導をしているようだった。

 肩に鷹を乗せ、冒険者らしい軽装をした犬獣人だ。

 ノマルも以前、村長の息子が『魔女』に暴行を加えた事件で、ちょっと見た事がある。

 名前は確かウノ。

 ノマルよりも五歳ぐらいは下だろうか、十七、八歳……といった所か。

 森のダンジョンに住むという、変わり者だ。

 ウノは一旦馬車を村の手前で止め、自身は馬から下りた。

 そして、ふと近くでそれを眺めていたノマルと目が合った。


「ん、何か?」


 ノマルは緊張した。

 獣人と話すのは、初めてだ。


「い、いや、何か麦に聞く薬をくれに来たんだよな? 村長から聞いたんだが……」

「ああ、まあそうなんだけど、ついでにちょっとアンタ達に頼みたい事があってさ」

「は? 頼み?」

「そ。えーとそうだな、ゼリュ、そっちの準備は任せていいか?」

「ごぶ……任せろ、大親分」


 一際大きなゴブリンが頷き、ノマルの腰ぐらいまである大きさの荷を置いた。

 おそらく、これの中身が村長の話していた『薬』なのだろう。

 そしてゼリュと呼ばれたゴブリンは馬車を引き連れ、村の中へと入っていった。

 残ったのはウノとノマル……それに、周りで様子を伺っている他の家の農夫達だ。

 子供達は、父親が押しとどめてくれているからいいようなものの、お前らは来いよと、ノマルは叫びそうになった。


「ちょっと、待っててくれ。もうじき、来るはずなんだ」


 何が……と問おうとする前に、答えが来た。


「おう、待たせたかの」


 近づいてきたのは、ノマルと同じ農夫のナリー爺さんだ。

 それに、仲のいい老人が二人。

 ウノとナリーは握手を交わした。


「いや、今来たばかりだし、見えてただろ、爺さん」

「そりゃあ、あれだけ目立つ馬車ではの」


 ナリーの爺さんが、ニッと笑った。

 という訳で少しの間ですが、別視点となります。

 よろしくお願いします。

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