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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
78/140

ウノの居住区

 すごく今更ですが、ある意味この物語の中核的な部分の話題です。

「さて、久々に部屋の整理をするか」


 なんて言うウノの声が響くのは、自分の居住区だ。

 ここはほぼ正方形に近いので正確とは言い難いが、広さは城下町にいた頃、冒険者の仕事として一度だけ入ったことがある高級ホテルの大ホールぐらいだろうか。

 普通に訓練場レベルだ。

 高さもそれなりで、シュテルンが全力で飛ぶには少々物足りないモノの、周遊する分には不自由はない。

 左右には小部屋――それでも相当に広い――があり、片方はトイレにしようと考えている。

 何にしろ、そんなだだっ広い空間に、ウノとシュテルンはいた。

 他に、ウィル・オー・ウィスプと合体して明るい光を放つスライムが数体、壁や天井に張り付いており、部屋の明るさは通路よりもずっとある。

 部屋の中央には、村の廃屋で手に入れて修理したソファやテーブルがポツンと置かれている。

 ただ、周囲に何もないので、かなり寂しい印象を受ける。

 この辺りもどうにかしたいなと思う、ウノであった。


「ううっ、私に手があればお手伝い出来るのですが」


 ウノの肩の上で、鷹のシュテルンが項垂れる。


「まあいいって。シュテルンは狩りや見張りで充分役に立ってるだろ」

「恐縮です」

「ま、整理といっても家具のちゃんとした配置や、道具の置いてくだけだし。いつも通りいつも通り」


 というか、他にすることが思いつかないのだ。

 家具も増やしたいのだが、こればかりはウノ個人の力ではなかなか難しい。

 テノエマ村には家具職人はいないらしいし、入手するには外貨が必要、さらにここまで運搬しなければならない。


「それにしても随分と、この部屋も良くなってきましたね」


 そう、悩みは多いが、住む分にはずいぶんと楽になってきている。

 あとはこの、どんよりと澱んだ空気を何とか出来さえすればといった具合だ。

 それさえ解決すれば、すぐにでもここを寝床にするウノであった。

 今はまだ……ここに来てから結構経つにも関わらず、ゴブリン達との雑魚寝暮らしを過ごしているのだ。


「少なくとも、貧民街の頃に比べれば広さは間違いなく改善されてる。アレはアレで、機能的ではあったんだけどな」

「……お言葉ですが、あらゆるモノが手の届く範囲にある寝床というのは、世間一般では『恐ろしく狭い』に該当すると思うのです、主様」

「まあ、逆にここはちょっと広すぎるぐらいだよな」

「かえって戸惑ってしまいますね」


 それもまた、悩みの種だ。

 ただ、住むのに不適格かどうかという問題になると、「狭いよりは広いに越したことはない」というシンプルな答えが既に頭の中にあるので、これは贅沢な悩みと言うべきだろう。


「にゃあ、今から別の部屋に変えるかにゃ? 空き部屋なら中層には有り余ってるのにゃ」


 比喩抜きで瞬間移動でもしてきたのだろう。

 唐突に、バステトが出現し、会話に参戦してきた……が、この(バステト)にはよくある事なので、ウノもシュテルンも特に驚く事なく、話を続けた。


「いや、ここでいいよ。上層へも、楽に行けるし」


 そうは言っても、『参道』を通ってグルッと回り込む必要はあるのだが。

 個人的には『南』の壁の一部をぶち抜けば、すぐ目の前が上層に向かう階段なのだが、それには抵抗がある。

 壁を壊すのが嫌なのではなく、地下なので迂闊に穴を空けると強度に不安があるからだ。

 土木や鍛冶に強い種族、山妖精(ドワーフ)でもいれば話は違うのだろうが、いないモノはしょうがない。

 そうした些細な不満はあるが、それでも近いことは近い。


「余所の世界風に言えば、駅チカなのにゃ。コンビニまで歩いて三〇秒とも言うのにゃ」

「ごめん、意味が分からん」

「むしろ分かられたら大変だにゃあ……んー、でもお店が近いと、生活は楽にゃ?」


 つまり、エキチカとかコンビニというのは店なのか?

 そんな事を考え、ウノは首を傾げる。


「そりゃそうだけど、こんなダンジョンに店構える物好きなんていないだろ」

「それは……」

「どうかにゃあ?」


 ウノとしてはごく当たり前の事を言ったつもりなのに、何故かシュテルンとバステト、二人が小さく唸った。


「え、何でこの二人が同じ反応すんの?」

「部屋は有り余っています。おまけにここは一本筋から外れている形になりますが、いわゆる下層の神殿への『参道』も目の前です。……主様の許可次第で、お店が並びますよ? 通路幅が一〇メルトほどありますから、露店や屋台なら余裕で可能です。大部屋なら資材さえあれば、それなりの建物だって可能です」

「土産物屋にゃあ。神様が直接祝福したお守りとか、超売れるのにゃ」

「神の赤ワインも、一日五本限定程度ならいけるでしょう。黒山羊の串焼きや、トウモロコシも出来上がれば売り物になるのではないでしょうか。もちろん場所代は頂きます」

「待って君達、このダンジョンはどういう方向に進んでいるんだ」


 やけに具体的な商品名やらが出てきて、ウノは冷や汗を流しながら二人を制止した。


「もちろん、主様が快適に暮らすための生活空間です。その為のダンジョン(ここ)の購入だったはずです」

「シュテルンは、忘れていないで何よりだ」


 その割には妙に乗り気に見えたが。


「当然です。ただ、空間を持て余しているのもまた事実。有効活用出来るに越した事はないと、私は思います」


 キラリン☆ と眼鏡を光らせる、やり手秘書風のシュテルンである。


「まあ、そりゃそうなんだけど、とりあえずまずはこの部屋の事を考えようぜ」


 ダンジョン全体の構想なんて話は、上層ですればいい。

 今は、ここに部屋の間取りと家財道具の整理を考えに来ているのだ。


「ここはリビングにゃー。パーティーでも開けそうな広さだけどにゃ」

「若干広いとは、俺も思う……いや、かなり、だな」


 この空間のど真ん中で寛げるかというと、それはちょっとないなとウノも否定してしまう。


「いきなり持て余しているのにゃ。しょうがないにゃあ、ウチキがアドバイスをしてあげるのにゃ。仕切りを作ればいいのにゃよ」

「仕切り?」

「パーティーションにゃ。まあ、薄くて持ち上げられるレベルの壁とでも言えばいいのかにゃあ」

「つまり、この大きな部屋をさらに細かく分割するという訳ですか」

「細かく分割しても、貴族のお部屋クラスなのにゃ。中央にリビングを据えるとして、九つぐらいには楽に分けられるのにゃ。マルバツゲーム的区切りにゃ。ブース形式にするのも悪くないのにゃあ」

「言われてみれば、それでも確かに広いな」


 試しに頭の中で、床に線を引いてみた。

 リビング一つ取っても、大きめの酒場ほどのスペースがある。

 充分贅沢な使い方だ。


「後は目的別に、部屋を分ければいいにゃ。奥に寝室は確定だと思うにゃ?」

 シュテルンとバステトが乗りに乗っています。

 部屋の広さとか伝わりづらかったらすみません、テレビに出てくる高級ホテルのパーティー会場とかイメージして下さい。大体あれぐらい。

 この内容のまま、続きます。

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