中庭の活用法
前回の続きです。
そして結局いつもと同じ分量という。
「確かに、そういう場所はまだ、ここにはありませんでしたね」
何だかんだで、ここはモンスターの棲息する危険な森の中であり、純粋な意味で寛げる場所というのは存在していなかった。
ここは、無意識的な部分も含めれば、ある意味常に緊張状態なのだ。
中層のウノの寝床には当然リビングを設けるつもりだが、これは本当にプライベートなモノだ。
ウノとシュテルン以外で使用する予定はない。
それとは別に、ゴブリン達や新しく入ってきたオーク、コボルト達にもそういう場所は必要だろうとウノは考えた。
「強いて言えば『第一部屋』だけど、やっぱり動物は太陽の光を浴びてナンボな部分もあると思うんだよ。敵はおらず、昼寝も出来る。それに、ここなら訓練でも、ちょっとした集団戦だって出来るだろ」
「中庭と言うより、公園だにゃあ」
「ま、いいんじゃないの? 放牧スペースも、半分あれば充分だわ」
イシュタルは、奥の方でいいのね? と前脚で絶壁を指した。
「後は水だな。ダウジングの道具って、村に売ってたっけ」
ウノは、乾いた地面をつま先でつついた。
ダンジョンの湿気や、バステトの情報からここに水源があるのは確かなのだ。
水があれば、この土地も潤い、植物も育つだろう。
ダウジングとは、その水脈や鉱脈といった、地に埋まっているモノを探索する術である。
これに答えたのは、ユリンだった。
「確認はしてませんが、あると思いますぞ。畑のある村や町ならば、大体どこでも置いてありますからな。まあ、三〇〇年前と常識が変わっていなければの話ですが」
「にゃあ、Y字型の杖を使うタイプのダウジングかにゃ?」
「む? そうですが、他に何かあるのでしょうかな、バステト様?」
「現代では、振り子式やL字の棒を二本持って調べる方法もあるのにゃ」
「ほほう、それは興味深い」
などと、ユリンはバステトと話し込み始めた。
何にしても、ダウジングについての心配はなさそうだ。
「よし、それじゃ後は緑が欲しいから……」
土が潤っても、肝心の種がなければ植物は育たない。
真っ当な手段としては、その辺りは森から持ってきてここに植えるか、村で購入するかが妥当だろう。
だが、もっと効率的な方法があるなら、それを使うに越した事はない。
「……村の魔女の知恵を借りられないかな?」
「イーリスさんですか」
シュテルンに、ウノは頷く。
「アルラウネといえば、植物系のモンスターであり精霊だろ。植物と土に関してなら、多分ここにいる誰よりも詳しいんじゃないか?」
「ア、アタシだって本気になれば……」
カチンと来たのか、イシュタルが後ろ足で立ちあがる。
「……草の根一つ残さないレベルで、敵を殲滅出来るわ」
そして、四本足に戻った。
イシュタルは、水神ではなく愛の神であり軍神であった。
「植物絶やしてどうするんですか!? っていうか脊髄反射レベルで対抗心燃やすのはやめなさい!!」
「アルテミスこそ、仮にも山野の女神なんだから、もうちょっと力を貸してあげなさいよ!」
「狩猟の神の側面が強いから、出せる力が限られているんです! そもそも森と共存する事と、森を育てる事はまるで別ではないですか」
「はいはい、二柱とも喧嘩やめえ」
相変わらず喧嘩するほど仲のいい幼い雌ライオンと子熊の二柱を、大トカゲが苦笑交じりに取りなした。
そしてカミムスビは、ウノの方を向いた。
「ほなマスター。ここの管理は誰が担当します? もちろん皆もちょくちょく出入りするやろうけど、専任はおった方がええと思うんよ」
その提案に、ウノに迷いはなかった。
「じゃあグリューネとセンテオトルで」
「決断早っ!?」
「ボ、ボク……?」
名指しされた一柱と一匹が驚愕する。
そんなに驚くような事かなと、ウノは思った。
「神様が直に現れたんだから、別に下層の祭壇でお祈りする必要はないだろ? ここで直接拝みながら作業をすればいい。それにセンテオトルは畑を任せたいし、他にこれ以上の適任がいない」
「段々畑は、時間が掛かるよっ?」
「まあ、そうだろうけど、ボチボチやっていこう」
「ご、ごぶっ、おれもかみてつだう!」
「センテオトルを手伝いたいなら、別に俺の許可とかいらないよ、ヴェール。でも、出来れば機織り機は組み上げて欲しいかな」
「ご、ごぶっ!」
これに関しては今、見張り番にいるゼリューンヌィやリユセ、アクダルも同様だ。
人数が多ければ多いほど、作業も進んでくれるだろう。
「……あ、いや、これももうちょっと効率的な方法があるにはあるか」
「また何か、ウノっちが企んでるにゃ」
「人聞きの悪い事、言わないでくれよ!? 手っ取り早く片付く事を、時間掛けるほど無駄な事はないだろ!?」
混ぜっ返すバステトに突っ込み、ウノは思いついた事を検討する。
要はいつもの通りだ。
使い魔と契約し、この荒地を豊かにするのだ。
「問題は、そろそろ契約数が厳しくなってきてるって事だけど……」
さすがに契約数が増えすぎている。
確認すると、鷹のシュテルン、ゴブリンシャーマンのグリューネ、黒猫耳幼女神バステト、スライムのマルモチ、ウィル・オー・ウィスプのエルモ、仔狼のラファル、タマハガネスカラベのカーメン、ゴーストのユリン、トラップスパイダーのハツネ、鎖キャタピラーのタンク。
よくもまあ、これだけ使い魔を増やしたモノだ。
バステトによれば、ウノ自身の力が常在戦場的な環境での生活で高められたのに加え、『オルトロス・システム』が契約を軽減しているのだという。
ただ、それでもさすがにきつくなっている感覚がある。
「ま、それもどうにかなるかな」
要は、契約数を減らせばいいのだ。
そうなると……。
「グリューネ、使い魔契約をそろそろ外そうと思う」
「え?」
「いや、言葉もバステトの力で普通に使えるようになってるし、今更裏切るって事もないだろ?」
「ごぶごぶごぶ、いまがちゃんすだごぶ……」
ウノの後ろで、ヴェールがアホな事を言い出す。
もちろん本気でない事は分かっちゃいるが、それでもちょっとイラッとくるウノであった。
「うん、ヴェールはちょっと黙ってような。それ以上ここで混ぜっ返すと、シュテルンがつつくぞ」
「つつきます」
「ごぶっ!?」
ヴェールがすごい勢いで後ずさった。
「ごぶ……ボクら、うらぎらない。家、なくなると困る。みんな、いっしょ」
「その辺は、私も一緒なのですがね」
「いや、ユリンは俺と同じで、外に出る事が多いだろ。夜番の時も、万が一って事がある。だから契約を外す順位は低いんだよ。契約される側のメリットは、体力や知能の向上だけど、グリューネは充分力もついてきている。俺の魔力の供給無しでも、普通に飯を食えるようになってきているから、これも問題ない。何よりダンジョン内にいる事が殆どだから、念話がなくなってもバステト経由で俺に連絡を飛ばせるんだよ」
「ふむ、納得しましたぞ」
ほぼ同じ理由で、マルモチとエルモの契約も外す事にする。
他は継続だ。
ハツネとタンクも契約したばかりだし、その辺りは若干不安が残るので、解除はしない事にした。
「まあ、そんな訳で新しく森でモンスターと契約しようと思う。ドヴェルクモグラとロープワームだな」
「なるほど、土を耕すのですね。さすが主様です」
「まあ、これが俺の取り柄だからな」
ウノは肩を竦める。
ともあれ……この中庭が見つかった事で、さらにこのダンジョンは快適になるだろう。
それは手間も時間も掛かるが、何しろ自分の家の事である。
やるだけの価値はあるとウノは考えるのだった。
ゲンツキホースのカーブは確か、使い魔契約していなかったはず。
使い魔に関して漏れがあったらすみません。
管理はしているんですが、時々プロットから外れて書いている部分もありますので(それは管理出来ていないと言うのではないだろうか)。
でまあ、使い魔はあと一体とかどこかで書いたような気がしますが、書いていなかったかもしれません(何だそれは)。
とりあえず決まっているそれは、もうちょっと後になります。