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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
66/140

神々は居候(下)

「それにしてもバステト。アンタだけ人の身とかいい身分ね」


 イシュタルがふんぞり返りながら言う。

 といっても、殆どぬいぐるみのような仔ライオンの姿である。

 威厳もへったくれもあったモノではなく、だからこそイシュタルは不満なのだろう。


「にゃー、羨ましいかにゃ? でもウチキも最初顕現した時は、猫だったにゃ。このダンジョンで貢献すれば、ヒトの身にもなれるにゃ」

「本当に?」

「疑い深いにゃあ。それに、最初は殆ど廃墟みたいな洞窟だったのにゃ。それに比べれば、ヒトも増えてるし、想像以上に早くヒトの姿を取れるようになるにゃ」

「そこちょっと気になったんだけど、いいかな?」

「発言を許可するわ」


 本当に、えらっそうだよなーと、ウノは苦笑しながらも、疑問に思った事を聞く事にした。


「ヒトの姿って言うけど、イシュタルってオークが崇めている神なんだよな。じゃあ、オークの姿になるんじゃないのか?」

「そうかもしれないわね」


 意外な事に、イシュタルはあっさりそれを肯定した。


「そう見える下僕(オーク)もいるでしょう。大多数の下僕にとってのアタシは、『子供を作りたい理想の女』の姿を取るようになるでしょうけど」

「相手によって見え方が違うのか」

「そういう事。それはセンテオトルやアルテミスも同じでしょうね。特にゴブリンは、美醜の価値観が人間と違いすぎるでしょ。声は少女、ただし姿はそこの大きいホブゴブリンって言うのは、アンタの精神に結構なダメージが来ると思うんだけど?」

「どういう原理か分からないけど、俺が助かるという事はよく分かった」


 とりあえず、受け入れる事にしたウノだった。

 イシュタルは、グリューネの揃えた両手に乗っている、リス姿のセンテオトルに視線を移していた。


「センテオトルは確か、トウモロコシ出せるんだっけ」

「うん。食の神だしね。でもこの姿だと出せるのは、ほんの数本だし、育てる方向でいきたいなあ」


 そんな希望を願うセンテオトルを、グリューネは持ち上げた。


「か、神さま手伝う!」

「ごぶ……とうぜん。おれたち、かみさましたがう」

「ん、それじゃよろしくね」


 ゴブリン達が再び跪くのを、センテオトルは太い尻尾を振る事で応えた。

 一方でイシュタルは、牙の生えた口からため息を吐いた。


「アタシの本領発揮はあんまりなさそうなのよね、今のところ」

「……愛の神だっけ?」

「そ。別にアンタ……えーと」

「ウノだ」

「ウノはラブコメ展開なんて求めてないでしょ。ハーレム欲しいなら叶えてやってもいいけどさ」

「結構です!!」


 シュテルンがキッパリと断りながら飛来し、ウノの肩に留まった。

 イシュタルはシュテルンを見、次にウノを見た。


「……人と鷹の恋愛とはまた、レベルが高いわね」

「どっかで聞いたような台詞だにゃあ」


 まったくだ、とウノも同感であった。


「ま、いいわ。そっち方面は後回し。もう一つの権能も微妙なのよね。アンタ達ってどっかとでっかい戦争とかやる気ある?」

「物騒だなこの神様!?」

「イシュタル、軍神だからにゃあ。あ、でもほらあれにゃ。家畜とか増やせるにゃ」


 イシュタルは、愛の神である。

 生めよ増やせよは、得意中の得意なのだった。


「そうね、その辺から御利益を与えようかしら。よく食べる子達もいるみたいだし。そういう事だからアンタ達、森の中で牛、豚、猪。その辺りから生け捕りになさい。頑張れば、綺麗な女の子も手に入れられるようになるわよ」

「ぶひぃ!」


 信仰する神に命じられ、歓喜の声を上げるオーク達。

 そしてオーク達の興奮を見て、ふむ、と可愛らしく首を傾げたのが子熊の姿を取っている、アルテミスだった。


「私は狩猟の神ですから、コボルト達には弓を教えて、肉を取ってきてもらいましょうか」

「ちょっとそれ、アタシと被ってるじゃない!? こっちは生け捕りにしようとしてるのに、狩ってどうするのよ!?」


(比喩的な意味で)噛み付いてきたイシュタルを、アルテミスはしれっと躱す。


「育てるのも大事ですが、食べるのも大事でしょう? 強き獣に力と技で立ち向かい、その肉を食らって己の力とする。それはとても尊き行いです」


 仔ライオン(イシュタル)子熊(アルテミス)はどちらも引く様子がなく、オークもコボルトもどうしようと困惑していた。

 こんな所で宗教戦争を勃発されてもたまらないので、ウノは二柱の間に割って入った。

 形式上バステトの信者だが、特定の宗教に傾倒していないウノだからこそ、出来る事だった。


「はいはい、喧嘩しない。ひとまずオークは大型の獣の捕獲。コボルトはネズミやウサギ、それに果物とか食べられる草、キノコを集めてもらうって方向にしとこう。もちろん今後の状況次第で、狩るモノは変わるけど。そういう事で両者オーケー?」

「ま、家主がそういうなら異論は無いわ。こっちは元々そのつもりだったし」

「そうですね、コボルト達の腕を磨くためにも最初は小動物から、という方向でいきましょうか。ああ、あと卵が生で食べられるようになりますよ?」

「……何で、卵?」


 疑問を抱くウノの隣で、バステトが吹いた。


「ちょっ、『月』の女神ひどい解釈にゃ。ああでも、卵かけご飯と月見うどんは久しぶりに食べたいにゃあ」

「……バステト貴方、向こうでは違う国の神ですよね?」

「にゃあ。あの宗教ちゃんぽん国家は神が八百万(やおよろず)いるんにゃから、ウチキもよくお世話になるにゃ。お世話もしてるけどにゃー」


 八百万も神がいるとかどんな国だ、とウノは突っ込みそうになった。


「……よく分からないけど、ま、新しく来た連中をまとめてくれるなら、それだけでも助かるよ」


 オーク達はイシュタルを、コボルト達はアルテミスを慕い、その命令に忠実だ。

 ゼリューンヌィ達も、同様にセンテオトルを敬っている。

 頂点に立つ三柱の中でも、イシュタルとアルテミスは仲が悪そうだが、悪友といったレベルだろう。

 本格的な喧嘩にならないようこまめに見ていれば、種族間の問題も大きくなる前に処理出来そうだとウノは考える。


「やってる事が、動物園の飼育員さんだにゃあ」

「動物園?」

「この辺りにはまだないかにゃあ。珍しい動物を一カ所に集めてお客を集める施設なのにゃ」

「なるほど、珍獣か」

「そこでウチキをジッと見るのはやめるのにゃ!?」


 ただなるほど、動物園とは言い得て妙だ。

 そして彼女達が人化出来るようになったら……今度は、城下町にあった孤児院みたいになるのだろうか。

 食糧や、種族間の問題は何とかなりそうとして……。


「しかし、やはりユリンが言っていた、人口が増える事の問題ですね」

「加えて、教会が敵に回る可能性もあるのが厄介ですな」


 いつの間にか、ユリンも近くに来ていた。

 まあ、他に話し相手もいないだろうし、自然な流れとも言える。


「異種族の神なぞ認めん、という聖職者はきっといますぞ。それも複数。厄介な事にそういう輩に限って、権力も強かったりするのです」

「さすが前の戦に関わった騎士は、言葉の重みが違うにゃあ」

「まあ、それに関しては体裁を整える手は、あるにはあるけどな。教会が納得するかどうかは別として」


 ただ、それを行うには今日は色々と出来事が多すぎて、さすがのウノももう限界だった。




 そして翌日。

 ……日が完全に昇りきる前ぐらいの時間。

 マ・ジェフとハイタンは、『邪教神殿の洞窟』の下層を訪れていた。

 祭壇上部、跪く彼らの前には一匹の赤い大トカゲがいた。


「ありがとうな。君らの祈りが、わたしをここに届けてくれたんよ。顔、上げてくれてええよ」


 人語を使う大トカゲに、マ・ジェフ達の震えは止まらない。

 朝一でゲンツキホースをぶっ飛ばして村に来たというウノに、問答無用でここに連れてこられたのがついさっきの事。

 宿のサイドテーブルに飾っていた創造神カムフィスの神像を祭壇に捧げて祈ると、光の柱と共にこの大トカゲが現れたのだ。

 創造神カムフィスである。


「マジか……おい、これマジかハイタン」

「現実だ。神が、ここに降臨している……困った事に、本物だ」


 大トカゲの姿を取っているが、創造神カムフィスの神の威は、間違いなく本物だ。

 少なくとも信者であれば、疑う余地がない。

 決して逆らえない、絶対的な存在だ。

 ……が、そんな事を歯牙にも掛けない、このダンジョンの主・ウノが、神と自分達の間に割って入ってきた。


「でも、何で大トカゲなんだ?」


 お、おま、何て恐れ多いとマ・ジェフは叫びたくなったが、神を前にそんな声を荒げる訳にもいかない。

 不敬である。

 しかし、当の神であるカムフィスは、気にする様子もなくウノの疑問に答えた。


「ああ、この神殿のマスター? まあ、ダジャレみたいなもんやねえ。多分分からへんと思うよ。それよりバステト、わたしもちゃんと人型になれるんよね?」

「ウチキの姿を見るにゃ。本当にゃあ。他に、センテオトルとかもこっちに顕現してるのにゃ」

「そうなんや。何や賑やかで楽しそうやなあ。ああ、マスター、せっかくこちらに顕現させてもらったんやし、お役に立たせてもらいます。今のところはさいですね……元気が出るお水でも作らせてもらいます。もちろん、無害ですよ」


 生命の水。

 マ・ジェフも話には聞いた事がある。

 酒をそう呼ぶ事もあるが、この場合は比喩表現抜きのそれだ。

 魂を奮わせる水である。

 秘境の奥にある泉に沸いていると言われたり、カムフィス教の総本山で代々の教皇が継承の儀式に使用するなど、様々な逸話がある伝説の水だ。

 ……ここで、飲めちゃうの、それ?


「あと、森からでた先にある村? でしたっけ? そっちへの連絡も神託使えば、密になれると思います。せやから、ええと、マ・ジェフさんとハイタンさんでしたっけ」

「ひゃ、ひゃいっ!」

「はい」


 マ・ジェフは舌を噛んだ。

 その隣でハイタンは静かに、神の声に応えた。


「時々頭に声が響くと思うけど、あんまりビックリせんといてな?」

「は、ははーっ! どうぞ、犬とお呼び下さい」


 跪くどころか土下座する勢いの、マ・ジェフであった。

 こんな事なら、寝癖ぐらい直しておくんだったと後悔するが、もはや後の祭りである。


「……さすがに卑下しすぎだ、マ・ジェフ」

「でも、神だよ!? モノホンだよ!? 雑に扱ったら神罰食らっちゃうんだぜ!?」


 ハイタンの囁きに、マ・ジェフは小声で絶叫するという器用な事をやってのけた。

 そんな芸当に、大トカゲ・カムフィスは小さく喉を鳴らして笑っていた。


「いや、犬は俺なんだけどな……さすがにもう、増えないよな?」

「今のところはにゃ」

「今のところ!?」


 そんな事を話す獣人と猫耳幼女に、色んな意味で大丈夫かヤバくないかこのダンジョンと心配になるマ・ジェフだった。

掲載予約8分前に完成……危ねー。

大体、出揃った感じです。

ダンジョン陣営ではあと神が二柱か三柱出るかもしれませんが、多分そこで打ち止め。

あと名前のある登場人物は、公爵サイドの人間ぐらいでしょうか。

あくまで予定ですが(実は、村の人達の名前は最初なかった)。

あと創造神の言うダジャレですが、カムフィス=カミムスビの神社が大阪の立売堀(いたちぼり)にありまして、これが元は伊達堀(だてぼり)、すなわち伊達家関わりでして、伊達なら独眼”竜”だよなあ、ならトカゲかというすごい分かりにくいダジャレなのです。ウノ達が分かる訳がないです。

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