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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
65/140

神々は居候(上)

 下層の神殿、台形の巨大祭壇の上部には、ウノ、バステト、グリューネ、そしてコボルトとオークの神官職が集まっていた。

 地上を見下ろすと、他のコボルトやオークは皆、跪いてそれぞれの崇める神――アルティ・メスタとエスタル――に祈りを捧げていた。

 もちろんゼリューンヌィ率いる、ゴブリン達も同席している。

 なお、洞窟前の見張りには仔狼のラファルがついており、「がんばるです!!」とやる気満々であった。大体暇な事がほとんどなのだが、こっそり親狼達も様子を見てくれているので大丈夫だろうと、ウノは踏んでいる。

 そして丸テーブル型をした本祭壇に、コボルトとオークはそれぞれの神像を置き、やはり祈りを捧げていた。

 もちろん、既にセントートルの神像を据えているグリューネも同様だ。

 ウノには唸り声にしか聞こえない祝詞が高まりを増し、それと共に下層全体に不可視の『圧』が強まってきたのをウノは感じていた。

 やがてそれが最高潮に達すると、祭壇から三つの光の柱が迸った。

 地上からは、どよめきが巻き起こり、ウノも光で眩んでいた目を細く開いた。

 そこには、三匹の獣がいた。

 リス、仔ライオン、黒い子熊であった。


「にゃあ、顕現したにゃ。みんな久しぶりだにゃあ!!」


 同族が増えて嬉しいのか、バステトは何やら奇妙な踊りを舞っていた。

 まずは三匹の中でも一番小さなリスが、ウノの前に歩み出た。


「センテオトルですっ。お世話になりますっ。うん、バステトちゃんひさしぶりっ」


 明るい声で挨拶するセンテオトル。

 ゴブリン達が、セントートルと呼ぶ神なのだろう。

 確か食の神だ。

 一方、仔ライオンはその場を動かず、不機嫌そうに周囲を見渡していた。


「まあ、最低限アタシが住めるレベルには、なっているわね。滞在してあげてもいいわよ」


 声音から、どうやら雌ライオンらしい。

 そしてそれを子熊がたしなめた。


「……ちょっとイシュタル。ここの主人に、失礼でしょう? センテオトルのように、礼儀というモノを弁えなさい。すみません、非常識な子で。悪気はないんですが、だからなおさら問題というか……あ、アルテミスと申します。こちら、ウチの領地で採れた蜂蜜です。どうぞお納め下さい」

「こ、これはどうもご丁寧に」


 ウノは、アルテミスと名乗る子熊から小さな壺を受け取った。

 下ではざわめきが続いており、放っておくと騒ぎになりそうだったので、ひとまずウノ達も地上に降りる事にした。

 仔ライオン、黒い子熊の姿に、コボルトとオークから歓声が巻き起こる。

 神の威とでもいうモノが伝わるのか、獣の姿を取っている事には、何ら疑問を持たないらしい。

 グリューネはリスの姿を取っているセンテオトルを絶対に落としてはならぬと、緊張しながら階段を一歩一歩、下りていた。


 ザッ……。


 ウノ達が階段を下りきると、地上にいた者達は再び、跪いた。


「か……」


 神官職を代表して、ガチガチに強ばったグリューネが声を上げる。


「神が、こうりんした。み、皆、ひかえているように……!!」


 グリューネの言葉に、誰も微動だにしない。

 神を前に、迂闊な行動など出来ようはずがなかった。

 なので、ウノはバステトに、小声で囁いた。


「……で、この三匹というか三柱も、ウチに住むの? まあ、あっちの連中と違って、ポコポコ増える心配はなさそうだけど」


 あっちの連中とは、オーク達の事だ。

 オークは力自慢であると共に、精力も底なしの絶倫で知られている。

 雄しか生まれず、余所から女をさらっては孕ませるのも有名だ。

 その種は強靱で、人間だろうと他種族だろうと子を宿らせ、生まれてくる子は例外なくオークである。

 またゴブリンやコボルトはそこまでとは行かないが、種族として弱い生物の特性か、一度の出産で複数の子を産む。

 つまり、彼らもまた増えやすい。

 ……が、神がそんなやたらめったら増えるという事はないだろう。

 それにしたって、居候が一気に三柱である。養うのは大変だ。


「にゃあ。まあせっかく来てくれたし、みんな有能なのにゃ。居てくれて損はないのにゃ」


 それは、今も跪いたまま微動だにしない、ゴブリン、コボルト、オークを見れば分かる。

 神というのは精神的な支柱であり、倫理であり、秩序である。

 神が現実に現れた事で、彼らがこの周辺で悪さをする事は決して無いだろう。

 誰だって天罰を食らったり、死んでから地獄に行くのは嫌だろうから。


「もちろん、顕現したからには力を振るいます。ボク、お掃除は得意ですよ?」

「リスなのに?」


 はて、とウノは首を捻る。

 センテオトルは、食の神ではなかったのか。

 何故、掃除なのだろう。


「ふふふ、とある世界においては消臭剤の神とも言われているのです。除霊も出来ますよ」

「神の中には複数の権能(ちから)……まあ、御利益にゃ。これを持っているモノもいるのにゃ」


 それにしても除霊か。

 何となく、モンスター達の群れから少し離れて、シュテルンを肩に乗せているユリンに視線を向ける。

 聞こえていたのか、何だか後ずさりをしていた。


「えへへ、早速ボクが役に立ちそうですね」


 リスの姿をしたセンテオトルが、大喜びで霊を払おうとグリューネの手から飛び出そうとする。

 それをウノは慌てて制した。


「ちょっ、ウチの住人! 勝手に除霊しちゃ駄目だ!」

「え、そうですか。失礼しましたっ」

「いやいや、まあ力の方は大体分かった。……で、そろそろ、ゼリューンヌィ達に、顔を上げるように言ってあげてはくれないかな。微妙にやりづらい」


 何せ、ここは声がよく響くのだ。

 大きな演劇ホールのど真ん中で、自分達だけが喋っているような錯覚に陥りそうだ。


「そうですね、皆面を上げてよいですよ。そして楽にしていてください」

「ごぶ……っ、みな、きょかでたごぶ!」

「ごぶっ」


 ゼリューンヌィ達は、神の言葉通り、胡座をかいたり尻餅をついたりし始めた。

 やはり慣れない姿勢で、疲れていたようだ。


「えーと……イシュタルとアルテミスだっけ? 二人もあっちに命令してくれるかな? ああ、言葉遣いは勘弁してもらいたい。バステトにこういう口の利き方をしている手前、他の神を敬語で話すと絶対ツッコミ入れてくるんで」


 大体「にゃあにゃあ、断固抗議するのにゃ。慰謝料としてウチキの晩のおかずだけ一品多く所望するのにゃ」とか言い出すのである。


「……ま、しょうがないわね。たかが獣人とはいえ、家主だもの。許してあげるわ」

「だーかーらー」


 仔ライオンの姿を取っているイシュタルに、またしても子熊アルテミスが口の利き方を注意しようとする。

 それより先に、イシュタルがアルテミスに猫パンチならぬライオンパンチを放った。


「ああもううっさいわねえ、優等生ぶってんじゃないわよ。はい、そっちの鷹も『たかが獣人』って言ったぐらいでいちいち反応しない。たかが獣人とたかが人間はアタシの中ではイコールなの。等しくアタシの下って事を理解しなさい」


 イシュタルは、神>>>>>>>>>>人間・獣人という価値観らしかった。

 が、あまりにも上から目線すぎて、ウノは怒る気すら沸かなかった。


「平等に差別されてるって事か、これ」

「にゃー、アルチーの言ってた通り、根は悪い子じゃないのにゃ。いちいち絡むと疲れるにゃ」

「……あと、何か向こうの連中の視線が、すげえ熱いんですけど一体何事?」


 イシュタル、アルテミスもモンスター達に命令し、彼らは神の前という事で緊張しながらも、楽な体勢を取った。

 大体、座り込んでいるのだが、彼らの視線は主にウノに注がれていた。

 神に対して対等な口を利いている自分に、怒りを覚えているのかと思えばそうでもない。

 どちらかといえば、尊敬の眼差しに近い。


「普通、怒る所じゃないかなあ」

「神様が怒ってないのに、自分達が口出しするなんて不敬と思ってるのにゃ。まあ大体、宗教ってのはそんなモノにゃ」


 でもこれで、このダンジョンで誰がいちばん偉いか、皆分かったと思うにゃと、バステトは付け加えた。

センテオトルが何故、除霊が得意なのかは『センテオトル 除霊』でググってみると分かります。

あとさすがに登場人物増えてきており、読者の頭もパンクしそうかもしれませんが、もうちょっとご辛抱下さい。

……リストがいるかもです。

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