上層04:上層の問題点
さて。
ウノは歩きながら、この洞窟の問題点を考えてみることにした。
まず、一番ヤバいのはモンスターが侵入してくる、という点だ。
今回のグリューネ達が典型例だが、他にもスライムやコボルトだって入ってくるだろう。
洞窟周辺の森に潜むモンスター達のレベルは、それほど高くない。
初心者向けと呼ばれ、強いモンスターでもオークと言われている。
もっと強いオーガも、森の奥――深層には潜んでいるという情報があるが、この辺りまで来ることは稀だという。
その深層にしたって、中堅レベルのパーティーならすぐに物足りなくなり、他の場所に向かう程度だ。
要するに、モンスターは強くないが、それでも厄介である事に変わりはない。
ゴブリン達を見張りに立たせることが出来たが、オークなどが来たら彼らもやられてしまうだろうし、何らかの対策は必要だろう。
そしてそれに繋がる問題点の二は、入り口の扉がない。
洞窟なのだから当たり前なのだが、これがあればモンスターの侵入をある程度防げる事は間違いない。
警備面で大きな問題は、この二つだろう。
次に環境面として……何だか湿っぽい。
ここの所晴れていたお陰でこれでもまだマシだが、雨になると地面も湿りそうだ。
洗濯物は乾かないだろうし、火の点きも悪い。
という事は、料理も難しいし、食材の保存にも難が出てくる。
総じて、人が住むには適さない。
まあ、下の層次第だけれど、何らかの対策は講じたい。
水場の問題も大きい。
水は生き物には必要なモノであり、今ウノが持っているのは小さな水袋に入っている分だけだ。
とはいえ、これは比較的楽観出来る。
ここがかつて元邪教の神殿であり人が住んでいたという事は、どこかに水源があると言うことだ。
この洞窟中でなくても、少なくともこの周辺にある。
もしなかった場合……洞窟を湿らせている水気を集める方法を考えよう。
季節は春の半ば。
まだ、夏の兆しは見えないものの、夏の暑さと冬の寒さもいずれ、悩みの種となるだろう。
「何というか、今更ながら、問題だらけだな」
「でも、いい点もあります」
「というと?」
「広いです。私が自在に飛ぶには、少々手狭ですが」
「……みんな、よゆうですめる」
「あ!」
そこでふと重要なことを思い出して、ウノは後ろに続いていたグリューネを振り返った。
「まさか、他にもゴブリンの仲間がいるとか、ないよな? ゴブリンの巣にされても困るぞ」
「お任せを。その時には、私が駆除します」
キラリ。
眼鏡に光を反射させ、冷徹極まる猛禽の台詞に、グリューネはぶるりと身体を震わせた。
「い、いない。むれ、あった。ボクたちかりにでた。へんなのにおそわれてちりぢり。ボクらだけ」
元々はもっと多いゴブリンの群れで暮らしていたが、得体の知れない存在に襲われて散り散りになり、残ったのは五匹だけ……という事らしい。
「まあ、そういう事なら、ひとまずは安心か」
あくまでひとまず、だけれど。
逆に『得体の知れない存在』、というのが不安も一つ増やしたが、それはそれ。
問題は、今の時点でも山積みなのだ。
これ以上増えても、困る。