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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
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村での買い物

 酒場で食事を終え、ウノ達は冒険者ギルドを出た。


「ふぅ……堪能しましたな」


 ユリンは腹を撫でているモノの、見た感じではまるで普段通りだ。

 つまり頭には牛の角、耳は尖り、尻尾の生えた、普段通りという意味である。


「本当に、相当食ったよな……」


 一方、ウノの財布の中身は、かなり減った。

 買い物する分には支障はないが、計画的に食事をとらないと、手元の金が全部ユリンの胃袋に納まりそうで、少し怖い。


「ですが、まだ、入りますぞ?」

「まだ食えるのかよ!?」

「単に入るだけで、今は充分ですぞ。ただ、帰った後、また食べる必要はありますが」


 ユリンがとても有能なのは、ウノも認めるところだ。

 同時に恐ろしく燃費が悪いのだが。


「……そこは、適当に森で狩る方がいいと思う」

「うむ、タダですからな。それに猪や雄牛を一人で丸々食べるというのも乙というモノ」

「それは、分かります」


 ウノの肩に留まったシュテルンも、力強く首を縦に振った。


「ほう、分かってもらえますか、シュテルン」

「ええ、皆で食べるのも悪くはありませんが、それとは別に独り占めは心躍ります。よろしければ森に戻った後、共に狩りをしませんか」

「もちろん、獲物は一人一頭、ですな」

「そこは、言うに及ばずです」


 何だか、意気投合している二人であった。

 それを見て、ウノに並んで歩いているアクダルが、顔を引きつらせていた。


「……おーおやぶん、じょしふたりがこわいごぶ」

「憶えとけアクダル。あれが肉食系女子って奴だ」

「に、にくしょくけいじょし、こわいごぶ……」




 村の中央にある広場で、ウノは立ち止まった。

 ここからは、この村を訪れた大きな目的の一つ、買い物の時間だ。

 手分けをして……と言いたい所だが、現在の面子でそれは少々厳しい。

 なので、どうしても全員で行動する事になった。

 まあ、効率は悪いが、時間はあるのだ。

 のんびり行こうと、ウノは思う。


「さて、優先しときたいのは衣類かな」

「雑貨はよろしいのですか、主様」

「うん、筆記具関係はインクのレベルで自作中だし、小物も容器も作れるだろ。一応雑貨屋は覗くけど優先順位は低い」


 要するに、不便と感じた生活周りの雑貨類は、ほぼ洞窟の方で作れてしまっているのだ。

 もちろん自作と商品として販売されているモノでは、完成度が違うモノもあるだろう。

 それでも、森で調達出来ないモノの方が、やはり優先順位は高くなってしまう。

 だから、衣料なのだ。


「これはまだ、ウチではどうにもならないからなー」

「そもそも、糸も織機もありませんからなあ」


 動物の皮ならそれなりの数が揃えられるが、布となると話が大きく異なる。

 それ自体が加工品であり、まだ製作の目処は立っていない。


「実を言えば、織機は欲しい……が、さすがに高いし、運ぶのに難儀しそうだ。でまあこれに関しては、俺なりに腹案もあるんだが……」


 問題は『それ』を手に入れるのには、ウノだけでは厳しい。

 いや、厳しかったと言うべきか。

 ウノの意を汲んだように、ユリンが口元を笑みに変えた。


「深層のトラップスパイダーですな?」


 クルル……とシュテルンも小さく鳴く。


「それに、鎖キャタピラーもですね」

「分かるか」

「無論」

「分かりますとも」


 少なくとも『糸』調達の目処は立ちそうなのだ。

 だが、それもまだ先に話。

 今は、衣類がないので、それを手に入れたいというのに変わりはない。

 そして、横でアクダルがブルブル震えていた。


「……りゆせ、おーおやぶんがにくしょくけいじょしになった」

「アクダル違うから! それ、そういう意味で使うんじゃないから!!」




 衣類の調達は、思ったよりあっさりと完了した。

 最初、店の主はウノ達に緊張した様子を見せたが、話をすれば普通の客と通じたのか、その後はスムーズに進んだのだ。

 ウノとユリンは直接試着して何着かを購入、ゴブリン達はほぼゆったりした子供服サイズで問題はなく、ゼリューンヌィだけはやや大きめのモノを用意してもらった。

 衣料店は寝具なども取り扱っていたので、他に毛布や枕も購入する。

 さらにタオル、バステトの要望で下層の垂れ旗用の布なども何種類か注文した。

 ただ、量が量なので、買い物を続けるのは困難だ。

 そう店主に話すと、買った物はゲンツキホースのカーブが休んでいる、冒険者ギルドの裏手に配達してくれるという話になった。


 残念な事に、この村には家具店はなかった。

 衣料店の店主曰く、近くにある別の村に家具職人がいるので、そちらに発注するしかないのだという。

 ただ、そうなると完成品をそこから運ぶだけでも手間になるし、今回は見送る事になった。


「じゃあ、次は食糧だな。肉類は大抵手に入るけど、野菜と穀物はちょっとどうにもならない」


 ウノ達は、食料品店に入った。

 パンや肉、野菜、果物、保存食、葡萄酒などが店の中に並べられている。

 鮮度の関係上、肉より厳しい魚はないようだ。干物やオイル漬けなどはあるが。

 陳列されている野草や何種類かの果物は、森でも入手出来るモノだ。

 しかし、それでもやはり、栄養には偏りが出来てしまうし、足りなさそうなモノは買っておいた。

 また、パン類はバステトの神託による要望もあり、多めに注文しておく。

 野菜や果物も、自給自足したいと、ウノは考えだけはしたのだが……。


「畑を作るにしても、森の中では場所に困りますな」


 ユリンの指摘通り、住んでいる環境的に厳しい。

 ウノもそれは分かってはいるのだ。


「そうなんだよなあ。開墾するには、もうちょっと人手が欲しいし、そもそも農作物をモンスターに荒らされる可能性は極めて高い」

「毎日毎晩、それに掛かりっきりになりそうですね。さすがに、手が回りそうにありません」


 ようやく、洞窟の前の警備に、まともな迎撃担当であるユリンが配置されたばかりなのだ。

 手を広げるには、ウノ達の力が不足していた。

 結論としては、畑の類は現状無理である。


「でもま、小さい鉢植えで育てられるタイプのは買っとくか。アクダル、世話を頼めるか。やり方は教えるから」

「ごぶ……おれ、がんばる」

「よし、決まりだ。種と苗も購入しよう」


 さらに、調味料やオイルも一通り揃っていたので、これも入手しておく。

 これで、料理の幅がさらに増えるだろう。

 衣料店の主人と同じく、最初はウノ達の来店に緊張していた店主だったが、最後には大口の客となったウノと、握手をするようにまでなっていた。

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