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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
56/140

冒険者ギルド

 冒険者ギルド・テノエマ支部はすぐに分かった。

 建物のすぐ前に、デフォルメされたモンスターの描かれた木の看板が釣り下がっていたからだ。

 文字が読める人間は、多くない。

 だから、他の店も、武器店は盾を背景に十字に交差された剣、道具屋は袋と、分かりやすい造りとなっている。


「じゃあ、俺は中で話を通してくるから、ユリン達はそこで待機していてくれ。シュテルン、問題が発生したらすぐに報告を頼む」

「承知いたしました」


 ウノがスイングドアを開くと、中は床が板張りの酒場となっていた。

 城下町のギルドも同じで、大体ここが待ち合わせや依頼主との交渉の場も兼ねている。広さは向こうの方が圧倒しているが。

 冒険者の数は五人、こちらをチラリと伺ってきたが、すぐに目を逸らした。

 見た感じ、初心者がほとんど、中級者が一人といったところだ。

 初心者向けの森がすぐ近くにあるとは言え、お宝が眠っている訳でもない田舎ならこんなモノだろう。

 いれば一目瞭然のはずの巨漢、ハイタンはいないようでちょっと残念に思いながら、ウノは奥のカウンターに進んだ。

 カウンターの端がブースで仕切られており、そこには温和そうな三つ編みの村娘が一人行儀よく座っていた。

 彼女の前の席に着くと、彼女は微笑んだ。


「いらっしゃいませ、ウノさん。お久しぶりです」

「あれ、憶えてくれたのか……えーと、レティ」

「はい。ギルドの受付は人の顔を覚えるのも仕事の一環です!」


 受付嬢……レティは、ふんす、と鼻を鳴らして気合いを込めた。


「なるほど。……俺が森の洞窟に住んでいるって話は、したよな?」

「はい、前回。それにマ・ジェフさん達がこちらに戻ってから、現状は伺いました。また、素材の持ち込みの件も、村の皆に広めてあります。ですので、鑑定の準備と覚悟は万端です」

「準備は分かるけど、覚悟?」


 ウノが疑問を抱く。

 するとレティはスッと顔を背け、遠い目をした。


「……マ・ジェフさん達が持って帰ってきた素材がウチで扱うにはあまりに多く……鑑定と分類で、職員が皆、疲労と寝不足でフラフラになりましたから……」

「そ、それは……いや、あー……」


 ウノは、ちょっと不安になった。

 こちらで泊まりの予定はないのだ。

 いや、一応バステトにはそうなる可能性も伝えてはあるが……。

 そこで頼まれていた事を思い出した、

 ここまで、バステトの神託が届くかどうかを試して欲しいと言われていたのだ。

 バステトも人の姿を取れるようになり、力も増したはずだ。


 ――にゃあにゃあ、感度良好だにゃあ。


「そうか、安心した」

「え」


 見るとレティが顔を強ばらせていた。


「え?」

「私達が寝不足になると、安心しちゃうんですか?」

「いや、違う!? そうじゃない!? ちょっと色々あって、そっちを思い出しただけだ! そ、それよりも鑑定って、やっぱり結構時間掛かるのか?」

「こちらの通常営業で、マ・ジェフさんが持ち帰ってきたのと同じ量でしたら、日をまたぐ事になりますが、ご安心下さい! 今回は近隣のギルドからも援軍を呼んであります! ですので、数時間程度で何とか終わると思います」

「ゲンツキホース三台分ぐらい、あるんだけど」


 ちなみに、マ・ジェフらが持ち帰った素材はゲンツキホース+二人がすぐに荷を下ろしてモンスターと戦える程度の量で、大体一・五台分といった所であった。


「…………」


 一瞬、レティは真顔になった。

 だがすぐに、笑顔に切り替えた。


「お、お、お任せ下さい!!」

「おお、言い切った……プロだ」


 若干、笑顔が引きつってはいたが。


「はい、プロですから。それに、大量の素材は村も潤いますし、実際大歓迎なんですよ」

「そう言ってもらえると、来た甲斐があったよ。数時間程度っていう事は……夕方には、終わってくれるのかな?」

「そうですね、あくまで見込みになりますが、それぐらいの時間には完了しているかと思います。がんばります」

「……それで少し申し訳ないけど、ある程度の額を前払いって出来るかな? 素材は大量にあるけど現金が少ないから、村で買い物が、ほら、ちょっと」


 洞窟での生活に金は必要なかったので、森に入る前からウノの現金は減っていない。

 そうは言っても、ウノ達だって食事はするし、道具類もかなり購入するつもりなのだ。特に家具。

 お金はあった方がいい。

 ないならないで、まあ先に店を回って交渉だけしておくという手もあるにはあるのだが。


「少々お待ち下さい」


 レティは席を立つと、奥へと引っ込んだ。

 そしてすぐに戻ってきた。


「オッケーが出ました。マ・ジェフさんに支払った額を参考に、ある程度なら融通が可能です」

「よかった、助かるよ。ウチの一人が、かなり食うんでね。それに、武器に生活必需品、家具も考えると……」


 ウノが金額を提示すると、それはすぐに支払われた。

 ウノ達が来た時のための準備というのは、金銭面も含まれていたらしい。


「ご利用ありがとうございます」

「マ・ジェフから聞いたんだけど、飯を食べられる場所はここか、大衆食堂だけだっけ?」

「そうですね。こちらの方が少しだけ割高ですが、味は保証しますよ」

「じゃあ、こっちかな。外食は数百年ぶりって奴もいるし」

「え?」

「ああ、こっちの話」


 ――にゃー、おみやげ絶対買って帰ってくるのにゃー。忘れたらひどいのにゃ。食べ物の恨みは末代まで祟るのにゃ。


 そんな声も、頭に飛んできた。

 もちろん留守番組へのお土産は必須だろう。

 料理に関しては、弁当を作ってもらおう。


「あとは、村を適当に回らせてもらおうと思う。武器店とかも見たいし」

「分かりました。よろしければ、依頼の方もご確認下さい。その方が、報酬もつきますから」

「だな。ところでここに来るまでに、なんか変なのと遭遇したんだけど、ああいうの、他にもいるの?」


 レティは一瞬怪訝そうな顔をして、思い当たったのか両手を自分の顔のサイドでワシャワシャさせた。


「……それはもしかして、こう髪の毛モジャモジャで垂れ目で、胸元や腕に入れ墨の入った……?」

「そう、そんな感じ。自警団って自称してたけど、だとしたら、この村のセンスはなかなか斬新だと思う」


 はー……っと、レティはため息をついた。

 どうやら、まともな感性の持ち主だったらしい。

 ウノとしては他の村人も同じと思いたい所だった。


「……ですよねえ。問題の方は……」

「いや、絡まれたりはしたけど、実害は特になかった。マ・ジェフが仲裁に入ってくれて……」


 噂をすれば何とやら。

 件の人物達の処分が終わったのか、スイングドアが派手に開いて、マ・ジェフが飛び込んできた。


「やー、レティちゃん、デートしようぜえ!」

「いいですよ? これから素敵な素材鑑定のお仕事がありますから、是非お手伝いお願いしますね♪ みんな、一人ゲットです!!」


 レティが指を鳴らす。

 すると、いつの間に酒場に潜んでいたのか、おそらくギルドの職員が二人、マ・ジェフの両脇を固めた。


「え? お、おい……ちょ……!? オレ、さっきの件でウノっちに報告が……!?」

「失礼しました」


 レティが一礼し、マ・ジェフはあっという間に奥へと運ばれてしまった。

 素晴らしいコンビネーションであった。


「いや、いい……ぶれないなぁ、あいつ」


 さすがにウノも、口を挟む暇がなかった。


「まったく……ああ、あと先ほどの話ですが、マ・ジェフさんが介入したという事は、もし彼らがトラブルを起こした先の処理は完了したと思います。ですので、少なくとも今日の間は、問題ないはずです。絡んだという方々は、村の中でも特殊なケースの人達でして、他にはおりません」

「そうか、安心した。ウチの連中も、ある意味特殊だから」


 人語を理解するゴブリン二匹に癒しの仔狼、可変タイプのフレッシュゴーレムである。

 多分まともなのは、ゲンツキホースぐらいではなかろうか。


「はい。ウノさんの使い魔に関しましては、マ・ジェフさんからの要請で、村の皆に知らせてあります。ただ、どうしても警戒はされてるみたいで……気を悪くされたなら、申し訳ございません」


 レティが頭を下げるが、それは筋が違うとウノは思った。

 冒険者ギルドの問題ではなく、村の意識の話なのだから。

 しかも村を訪れた側のウノ達が、気を遣えと言うのも身勝手な話である。


「いや、まあ、警戒はしょうがないだろ。その辺も込みでここまで来たんだ。予定通りにさせてもらうさ」

「はい。あと最後に、認識票の回収、ありがとうございました。確かに受領いたしました」

「まあ、見つけちゃったモノはしょうがないからな。そのまま放置するのも、寝覚めが悪い」

「ギルドの名簿を照会して、家族がいる者には送るように手配しました。彼らも……喜ぶか悲しむかはそれぞれだと思いますが、一つの節目にはなると思います」

「……まあ、そうだな」


 ウノが回収した認識票は、ほぼ全てが死者からのモノだ。

 大切な人間の形見を、それだけでも戻ってきたと喜ぶ者もいれば、知らない場所で勝手に死んだ事を悲しむ者もいるだろう。

 奥の方からノックの音が響き、ウノとレティはそちらを向いた。


「おい、素材は裏に運び終わったぞ。こっちは作業を開始する。何かあったら、そっちに頼む」


 ノックの主は、ハイタンだった。

 どうやら裏手で、素材の分類を手伝っていたらしい。


「あ、はい」

「ウノ、よく来たな。入った途端、トラブルに見舞われたと聞いたぞ」


 ハイタンは表情も変えないまま、ウノを歓迎した。


「ああ、ま、何事もなく済んでよかったよ」

「そうだな。特に娯楽などはないが、適当に楽しんでいけ」

「そうするよ」


 わずかにハイタンが身体をずらすと、奥からユリンがシュテルンとラファルを伴って入ってきた。

 後ろには、ゴブリン二匹が恐る恐るといった風情でついてくる。


「家主様、ご飯はこちらでよろしいのかな? 私はそろそろ限界のようですぞ」

「……分かった。それじゃレティ、また後で」

「はい」

遅れた分、1.5倍増量で。

前払いと先払いの違いは調べたんですが……うう。

ファンタジーのくせに日本語難しい。

あと、感想の指摘があったので、食堂の下りをちょっとだけ修正しました。

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