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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
50/140

身体集め

「用意してもらいたいのは、まずは人骨。これはまあ、森の中でまだ時々見つかるから、何とかなるだろう」


 この周辺の死体はほぼ塚を作って埋葬をしたが、少し離れた場所ではたまに点在している。

 少々苦労するだろうが、深層まで潜るほどでもない。


「問題は肉の方か……」


 こればかりは、どうにもならない。

 新鮮な肉なんて望める訳がないし、かといって腐りかけの死体を持って帰ってこられても、困る。

 と、そこまで考えながら何となく顔を上げると、皆がやや戸惑っていた。


「ああ、そう言えば、説明していなかったか」


 グリューネが、代表して手を挙げた。


「おーおやぶん、ゆーれいに捧げモノ?」

「まあ、大体そんな感じだ。アイツを倒す時に、直接触れる機会があった。その時、感じたんだ。あのゴーストは肉体を欲しているって」


 魔力掌(マジック・フィンガー)で吹き飛ばす瞬間。

 肉の暖かさ、身体を支える土台である骨、熱や光を存分に感じられる肌……ゴーストの、そう言った様々なモノに焦がれる感情が、ウノの手を通じて感じられたのだ。


「……それは、アンデッドと呼ばれる種族の、性質では?」

「そうかもしれないが、違うような気がする。あくまで俺の勘だけど」


 シュテルンの言う事も、間違っていない。

 が、あの幽霊には、負の感情が殆ど無かった。

 普通、現世に霊が留まっているのは、この世に何かしらの未練があるのが原因だ。

 そして肉体を、生きている人間から奪おうとする。もしくは羨み、恨む。

 怒り、悲しみ、寂しさ、恨み、破壊衝動……。

 ウノは、戦ったゴーストから、それらを感じ取る事はなかったのだ。

 肉体は欲しい。が、人を殺して奪おうとは思わない……のだろう。

 代わりに感じられたのは、達成感、殉教、信念といったモノだった。

 ただ、ウノがあのゴーストを邪悪なモノではないだろうと判断したところで、皆がそうとは限らない。


「そうだな……でも、確かに早まっている感がある。下手をすれば、より厄介なアンデッドを生む事になるかもしれないしな」

「にゃあ、正しく動く死体(リビングデッド)が出来上がるのにゃあ。ただし、正当な手順を踏めば生者になるかもしれないにゃ」

「死者を甦らせるというのですか?」


 シュテルンの声からは、何の感情も読み取れない。

 そもそもシュテルンは鳥類なので、人間の倫理観とはやや異なった部分がある。


「ウノっちの言葉通りなら、魂はおそらく塚にあるのにゃ。足りないのは、肉体だけ。屁理屈を言えば、死者を甦らせるというのは誤りなのにゃ。魂を肉体という器に入れるだけなのにゃ」

「詭弁ですと言いたい所ですが、主様が望まれていますのならば、反対はしません」

「おれ、ぼすのかん、しんじる。こいつらも、はんたいはない、ごぶ」


 シュテルンはウノ次第、ゴブリンズも特に異論は無いようだ。


「わふ?」


 そして仔狼のラファルは、よく分かっていなかった。

 まとめると、ウノの要望通り、ゴーストの肉体となる素材集めに反対する者はいない、という事だった。


「そうか、それじゃよろしく頼む。素材を運ぶのと、塚の確認を一緒にやれば手間も省けるだろ。それと、神様」

「にゃ?」

「ちょっと話がある」

「にゃあ、何か校長室に呼ばれるような気分になるのにゃ」

「……校長室って何だ」


 ゴブリン達は、ラファルを伴って洞窟を出ていった。

 残ったのはウノとバステト、それとシュテルンだ。


「ああ、別にシュテルンは聞いててもいいぞ。大した話じゃない」

「にゃあにゃあ、何の話かにゃあ?」

「例のゴーストと戦った後に、臭いが気になったんで地面を掘ってみたら、こんなモノを見つけたんだ」


 ウノはポケットから、小さな塊をいくつか取り出し、毛布の上に置いた。

 透き通った鉱石だ。


「これは……!? 何ですか、主様?」

「いや、分からないなら、無理に驚かなくていいから。……魔術に使う触媒だよ。ちなみに俺のじゃない。機能はそうだな……保冷用というか、まあ俺は起動出来ないから、ちゃんとした事は言えないんだけどな」


 その鉱石は、氷水晶と呼ばれる種類のモノだ。

 物質を冷やす魔術の触媒としては、なかなか悪くない。


「話が、よく見えないんですが……?」

()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 シュテルンが、沈黙した。

 感情のない目が、バステトに向けられる。


「にゃあー、ウチキのじゃないにゃあ。でも、霧を発生させたのはこれにゃ。空気の一部は凍らせると塊になるのにゃ。これは冷たいモノを保存するのにも使えるのにゃけど、水をぶっかけたりすると、白いモクモクが出現するのにゃ。つまり、ウノっち達の言ってた霧の正体はこれで違いないのにゃ」


 要するにドライアイスなのにゃ、とバステトは言うが、ウノにはそのドライアイスって何なんだよとしか言い様がない。

 まあ、今説明された効果のある、塊は実在すると言う事なのだろう。

 ただそうなると、また別の疑問が浮かんでくるのだ。


「そっか……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ないにゃ。となると、不思議な事になるにゃあ」

「そうだな……どうして、霧が発生したと同時に神託も交信も出来なくなったのか」

「どうしてかにゃあ?」

「どうしてだろうなあ」

「にゃはははは」

「ははははは」


 パン、とバステトが両手を打ち鳴らした。


「まあ、真面目な話、ウチキは最初にも言った通り、ウノっち達の敵に回るつもりもなければ、全ての糸を引いているラスボスでもないにゃ。そこは信じてもらいたいにゃあ。ただ、今言える事と言えない事ぐらいの秘密は持ってるのにゃ」

「分かった」

「納得早いにゃ!? 言ったウチキがビックリだにゃ」

「納得はしてないけど、理解はしてるだけだよ。神様なりの事情があるって事ぐらいは、それなりの付き合いで分かってるつもりだ。追求すれば教えてくれそうな気もするけど……なーんか、俺の勘が、それはヤバいって言ってる」


 つまり、あの戦いの最中、神託もこちらの念話も届かなかったのには、何らかの事情がある。

 それはおそらく、あのゴーストとも繋がっている。

 氷水晶についてだが、ウノは鉱物に関してはど素人だが、年代物である事ぐらいは分かる。

 バステトの臭いが、本当にほんのわずかながら残っていたが……少なくとも、ウノと会ってからついた臭いではない。

 それが何を意味するかというと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

 ……やっぱり、触れない方がいいよなあ、とウノは思う。

 どう考えても、自分の手に負える案件とは思えない。

 今言えないという事は、いずれ話すという事なのだろう。

 それまでは流れに任せることにした。


「にゃあ、それ大正解にゃ。疑問の方は、自ずと分かるようになるのにゃあ」

「それじゃ、俺はしばらく休む。皆の準備が終わったら、シュテルン起こしてくれ」

「かしこまりました、主様」

 次回、『夜の訪問者』。

 展開としてはホラーなのに、まったくそんな空気じゃないのが、ウチの作品クオリティ。

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