表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
47/140

幽霊事件(上)

 マ・ジェフ達が洞窟を去り、その日の午後。

 ウノは緩やかに飛ぶシュテルンの先導で、森の中を歩いていた。

 木々の間から漏れる日差しはほどほどにあり、気温も暖かい。

 実に散歩日和と言えるが、ここは弱いとは言えモンスターが出現する森なので、そこまで暢気なシチュエーションではないだろう。


「……それで、何で昼間に夜光草の群生地を目指してるんだ、シュテルン」

「ゴーストならば、夜に出ます。ならば今ならば、偵察し放題です」


 シュテルンは少し得意げだ。

 本人的には、ナイスなアイデアだったのだろう。


「シュテルン……」

「は、何でしょうか主様」


 ウノの呼びかけに、シュテルンは手近な枝に留まり、振り返った。


「ダンジョンだと、昼夜問わず出るよな、ゴースト」

「はっ!?」


 ウノ達が住むダンジョンには別に棲んではいないが、ゴースト系のモンスターは実際、昼も夜も構わず出現する。

 昼間にゴーストは出ない。

 それも、誤りではない。

 が、ゴブリン達やマ・ジェフを襲ったゴーストが今出る可能性は、『皆無』ではないのだ。一応は『ある』のだ。

 何より、シュテルンの目論見には、大きな穴がある。


「……しかも、対象が不在の状況で偵察に出て、どうするんだ」


 出たら出たで大問題だし、いなければただの夜光草の群生地である。

 要するに、そういう目的ならば、一回戻ってしっかり準備するべきだろうという話であった。


「これは不覚!!」

「うーん、意気込みは認めるけど、変な方向に空回りしてるなあ」

「も、申し訳ございませんでした、主様。かくなる上は、腹を切って……」

「切腹!? どこで覚えたの、そんな台詞!?」

「え、城下町で主様の上司だった衛兵からですが」


 ウノに、武器の十手を授けた男である。


「あのおっさんーーーーーっ!!」


 ウノの絶叫が森に木霊し、小動物系のモンスターが慌てて逃げ去った。




 ウノは首を振り、気を取り直す事にした。

 ここでの生活は自給自足である以上、森の探索はウノの日課になっている。


「まあ、ゴースト関連以外にも、やる事は沢山あるからな。まずは今日の飯を調達しようか」

「そうですね、主様……あの、主様? 少々視界が白く……」


 なるほど、言われてみれば、確かにわずかながら視界が曇っている。

 煙、ではない。

 微かな水気もあり、どうやらこれは霧のようだ。


「でも、こんな急に……」


 別に昼間に霧が出る事はおかしな事ではないが、さっきまで空は晴れていた。

 山は近いが、ここはそれほど高地ではないし、そもそもこの辺りで霧なんて出た事なんてない。

 ウノ達が戸惑っている内にも、どんどん白い霧は厚みを増し、数メルト先の視界すら危うくなってきていた。

 おまけにこの湿気のせいで、ウノの武器の一つである鼻も利きにくくなっている。


「シュテルン!!」

「はい!!」


 阿吽の呼吸で、シュテルンが飛び立った。

 一気に高度を取ったシュテルンと、ウノは視界を共有する……が、その映像も時折、砂嵐のようになり、普段の鮮明さがない。

 それでも、この以上は理解出来た。


「主様、周囲一帯に霧が立ちこめています!! この周辺……だけです!!」


 そう、白い霧はウノ達を中心に数十メルトのみ。

 シュテルンの頭上には、普段通りに太陽が照っており、森の他の部分はいつも通りなのだ。


「おいおいおい、こりゃどう考えても異常事態だ――ぞっと!!」


 シュテルンと視界を共有したまま、ウノは身を翻した。

 一瞬前までウノがいた場所を、風が薙ぐ。

 否、それはブロードソードの一撃だ。ただし、見えない、が付く。

 そして改めて相対した相手は、さながら水か何かで出来た人形(ヒトガタ)だ。

 向こう側――と言ってもやはり霧だが――が、透けて見える。


「主様……!!」


 シュテルンは、ウノを助けるべきか、バステトを呼ぶべきか迷っているようだ。

 普段なら迷いなくシュテルンは、ウノを助けようとするだろう。

 しかし、シュテルンに霊的存在へ攻撃する術はない。

 バステトは――本来ならこういう時真っ先に干渉するはずなのに、それもない。


「おい、神様。聞こえて……ないな、こりゃ」


 こちらから呼びかけても、反応は返ってこない。


「どうやら、神託も届かないようだ。――行け、シュテルン。それが最善だ」

「分かりました。どうかご無事で」


 決断すると、シュテルンは早い。

 あっという間に、洞窟の方へと飛び去っていった。

 そして、透明なヒトガタ……ゴーストは、ウノに様子見する時間すら与えてはくれなかった。

 風を切る音を轟かせながら、リーチのある攻撃を続けざまに放ってくる。

 ウノは何とか回避出来ているが、そのたびに木の幹や地面を大きく抉っていた。

 その間合いと威力、やはり幅広の剣を武器にしていると見て間違いない。


「なるほどなるほど、実に厄介だ。よくまあ、ゴブリン達も逃げ出せたもんだよ……!!」


 何故今、ここに現れたのかは、ウノには分からない。

 まあ、取り逃がしたマ・ジェフ達を待ち伏せていたとか、そんなところかもしれない。

 が、今はそんな事はどうでもいい。

 第一なのは、そんな疑問よりも、自分の命である。

 相手は一旦止まったかと思うと、ズッとすり足で一気に距離を詰めてくる。

 そして無拍子(ノーモーション)での斬撃がウノの眼前に迫る。

 ウノは身を沈めて足払いを仕掛けようとするが、直後にギロチンのように透明な刃が頭上から降ってきたので、慌てて地面に転がった。

 しかし相手の攻撃は終わらず、地面を掘るように二度、三度とウノが直前までいた場所を抉っていった。

 ウノは必死になって、何とか距離を取るのが精一杯だ。

 反撃どころではない。

 離れた所で、透明なヒトガタは再び『剣』を構え直す。


「はぁ……はぁ……ちょ、コイツ、ヤバい」


 相手の攻めは、朝方にハイタンがリユセに話していた『無駄のない動き』そのモノだ。

 そしてマ・ジェフも言っていた。


「いやいや、種族の話じゃないんだよ。正規の訓練を受けた動きというか、アレはオレ達冒険者みたいな野良の身のこなしじゃなかったね。それも相当使える。この公爵領でいえば、騎士隊長のオーネスト級だね」


「相当どころじゃねえよメチャクチャ強いよ、これ……つーかヴェールに奴は、後で個人的に折檻だな」

ノーモーションでの攻撃は、格ゲーでいう所の随時キャンセルみたいなもんと思って下さい。

つまり、人間技じゃないです。

あと作中語られるおっさんが出る予定は、特に要望でも出ない限りありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ