表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
42/140

中層下層へのご案内(上)

「他に何か、例えばして欲しい事とかないか? ぶっちゃけこっち、そんなに金もモノもないから、代金代わりに提供出来るモノなんて、そんなにないんだが」

「そうだな……」


 マ・ジェフに提案に、ウノは少し考えて思いついた事があった。

 リユセの方を見る。


「ああ、そうだ。ゴブリン達に戦い方を教えてやってくれないか」

「ごぶ?」

「模擬戦の相手が、俺や仲間内だけってのもマンネリだし。ゼリュ、アクダル、リユセには前衛の戦い方を。ヴェールには罠の作り方や斥候のコツとか授けてもらえると、ありがたい。まあ、グリューネに魔術とかはちょっと厳しいからパスだけど」


 本当は自分が教えてもらいたいところだが、何とか自制した。

 さすがに、獣人が魔術を使えるなんて話まで伝える訳にはいかなかった。

 黒妖犬という妖精種である事も、明らかには出来ない。

 しかし、それ以外の連中にマ・ジェフ達の技術を伝えられるのなら、それはやってもらった方がいいだろう。


「あー、そんな事ならお安いご用だぜ。いいだろ、ハイタン?」

「ああ、文句はない」




「ところで、中層と下層は見ていくかにゃ?」


 やっと話がまとまった……と思った所で、バステトが無邪気な笑みを浮かべて、新たな提案を起こした。

 ハイタン、マ・ジェフもわずかに驚いている。


「いいのか?」

「あ、そういう事なら、遠慮なく。せっかくだし、見物させてもらおうかね」


 動揺しているのは、ウノも同じだ。

 シュテルンに目配せすると、やはり「何を考えているのでしょう?」といった思考が伝わってくる。

 なので、スッとマ・ジェフらに背を向けて屈み込み、バステトに耳打ちした。


「な、なあ、いいのか神様。いや、特に後ろ暗い事はないけどさ」

「にゃあ、むしろこれは必要な事なのにゃ。彼らが村の冒険者ギルドに戻って、ここの話をするにゃ。ウチキの話はまあ内緒にしてもらうとしても、それでもここは『モンスターの巣窟』だったのにゃ。ウチキがギルドの職員なら、絶対聞くのにゃ。『あのダンジョンは、下はどうなっていたのにゃ?』ってにゃ」


 こちらは別に隠している事はない。

 だが、ギルド側は『そこに何があるのか分からない』のだ。ウノ達が無害かどうかの判断は、マ・ジェフらの話でしか分からないが、見えない部分でウノ達が何か企んでいる可能性がある。

 つまり、痛くもない腹を探られる、という事だ。

 それはそれで面倒くさい。


「にゃはつかないだろうけど、確かにそれは充分ありえる、か……ならちゃんと、説明しといた方が正解か。調査の『依頼』ならともかく、『指令』だと二度手間だろうしなあ」

「そういう事にゃ。まあ現状を話すだけにゃから、何にも問題ないにゃあ」

「そうだな、俺にとっても現状確認になるしな」


 ウノも中層下層を行き来はしているが、それでもまだ主な生活の場は上層だ。

 寝るのもゴブリン達との雑魚寝である。

 ここらで改めて、確かめるのも悪くないだろう。




 そして一行は、中層へと降り立った。

 ウノ、シュテルン、バステト、マルモチ、マ・ジェフ、ハイタンという面子だ。

 そして、通路を眺めて何故か、マ・ジェフとハイタンは絶句していた。


「これはまた……」

「これは、俺の知っているダンジョンと違うな」


 そうだろうかとウノは思う。

 まあ、ちょっと明るいから、遠くまでよく見える。

 所々で徘徊してくれている、ウィル・オー・ウィスプと合体した、柔らかく光るスライム達のお陰だ。


「まだリフォーム中なんだけど、もっと率直な感想を聞かせてもらえると助かるかな」

「想像以上に明るい。この手の洞窟系ダンジョンはもっと暗いし、ジメッとしているもんだ」


 そう言えば、とウノは思い出す。

 ここを初めて訪れた時は、正にハイタンの表現した通りの場所だった。

 ランタンがなければほぼ真っ暗闇だったし、空気ももっと湿っていた。


「だが、湿度がない訳じゃないな。表現は悪いと思うが、雨の最中の安普請に近い空気だ。もっと湿気を取り除けば、住みやすくなるだろう」


 やはり、ここの住人以外から見ても、そうか。

 スライム達も頑張ってくれてはいるが、こればかりはどうにもならない。

 もちろん彼らにばかり、頼ってはいない。


「ああ、そのための炭なのかねえ」

「そういう事。少しでも、ここにある湿気を解消したくてね」


 マ・ジェフが気付いた通り、通路のあちこちに炭を置いている。

 炭には湿気を取る効果があるという……まあ、中層が広すぎて、本当に微々たる効果しか無いのだが、ないよりはマシだろう。

 ふーむ、とマ・ジェフが唸る。


「空気をどうにか出来ればなあ。風系の魔術が使えれば……ああいや、この広さじゃ無理か」

「そうだな、広すぎるのは仇になっているようだ」


 マ・ジェフとハイタンが話し合ってくれている。

 まあ、ウノとバステトは風系魔術を使えるが、それにしたって常時通路に空調を効かせるのは、さすがに厳しい。


「ただ、ゴミがないのは好印象だ」

「そこは、マルモチ達が頑張ってくれているからな」

「むにゅ」


 心なし胸を張った風に、マルモチが強く震える。


「せめて風の精霊がいてくれれば、楽なんだろうけどなあ。全自動式、空調巡回方式なんつって」

「にゃあ、精霊が居着くには、そもそも風が足りないのにゃ。ドカンと一発大きな変化でもない限り、それは難しいのにゃ」


 マ・ジェフの無い物ねだりに、バステトが反論した。

 触媒式の魔術を教えてもらっている最中に、ウノもバステトから教わったのだが、精霊が元素を呼ぶのではなく、元素があるからそこに精霊が生じるのだとか。

 すなわち、風が吹く場所に精霊が生じるのであり、精霊が風を起こしてくれるのではない。


「ドカンと一発……壁に穴を空けてみればどうだ? 外に通じている部分もあるんだろう?」


 ハイタンの提案は大胆だ。

 だが、過去にウノ達がそれを論じた事もゼロではない。


「洞窟の耐久性がガクンと落ちるかもしれないのにゃ。破壊と同時に補強も考える必要があるのにゃ。専門家が欲しいのにゃ」

「建築士でも、洞窟(ここ)のそれを調べるのはちょっと厳しそうだしなあ……ん?」


 洞窟の家を専門に扱う業者など、まずいないだろう。

 ふとマ・ジェフが視線を向けたのは、無色で気体状の不定形生物だった。

 よく見れば、あちこちに漂っている。

……か、下層は次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ