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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
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物々交換してみよう

「あと、話が前後したけど、物々交換とか色々やってもらいたい事もあるし」

「物々交換ったって、何か値打ちモノとかあるのか? あ、夜光草は充分レアか。他に、手持ちで交換出来るモノがあればするけど、そっちは何持ってるんだ?」

「ええとそうだな、じゃあまずはそこらの植物で作った紙」

「紙!? しかも羊皮紙じゃなくて、植物製!?」


 マ・ジェフが驚愕し、ハイタンもわずかながら目を見開いていた。

 紙は作るのに手間が掛かり、その分高価となっている。

 しかも製法は工業ギルドの重要機密となっており、植物製のモノにしても羊皮紙にしても、一般には広められていない。

 市販されているそれにしても、あまり質がよくない。高い品質の紙は、貴族や大きな商人といった金銭に余裕のあるモノが先に入手しているからだ。

 冒険者であるマ・ジェフには、羊皮紙の方が馴染みがあるだろうが、手に取る機会があるとすれば魔導書か巻物(スクロール)の類だろう。

 こんな場所で、取引される商品ではない。


「ウチでも大量生産は出来ないから、今回限りの特別放出になる。全部は駄目だけどな。他、石けんは固形と液体。歯ブラシ。ブラシ。香水。殺虫剤。孫の手。食器類」

「皮鎧と金属鎧、大盾、バックラー、武器も剣、槍、斧、槌取り揃えております」


 シュテルンが、ウノの言葉を継いだ。

 大半は、この森で朽ちた冒険者達の遺したモノを、ウノ達なりに修理したモノだ。

 それらを、気を利かせたスライム達が運んで、テーブルに載せた。

 使えなくなっているモノの含めれば、さらに提供出来るが、基本的にはガラクタだ。

 ウノ達が提供出来るモノは、まだ他にもあった。


「リユセ、ヴェールのトラップツールは予備のストックが少しあったよな」

「……ごぶ。だいじょうぶ……まだ、ある」

「すいとう、リュックもある」


 グリューネが、いくつかの袋を抱えてきた。

 トラップツールは動物を捕らえるための鋼糸をメインとしたコンパクトな道具で、フックや作業用短剣、植物から抽出した麻痺薬もついている。


「あと、霊的存在にも効果のある魔除け付きナイフにゃ。神の保証付きなのにゃ」

「牙、骨、鉱石類で作ったアクセサリーもあるです!!」


 これでもまだ一部に過ぎない。

 村に行って、売却しようと思っている品は、他にもあるのだ。

 ……どんどんと、マ・ジェフらの前に道具類が積まれていく。

 そろそろ顔が見えなくなりそうな辺りで、マ・ジェフが悲鳴を上げた。


「待って、ちょっと待って! 物々交換だとオレ達丸裸にされちゃう!?」

「……これは、下着まで売ってもまだ足りなさそうだな」


 ハイタンは淡々としているが、わずかに表情が引きつっていた。


「そもそも何でそんなに充実してるの!? 何なのここ、ダンジョンだろ!? ほとんどモンスターばかりのはずでしょうに!?」

「それに……いくら俺達でも持ちきれないと思うぞ、おう」


 ハイタンがいくら力がありそうに見えても、限界がある。

 森にはモンスターが徘徊しているし、帰りにも襲われる可能性はあるのだから、持ち運びはリュックに詰める分に絞り、出来るだけ手は空けておきたいといった所だろう。

 勿論、その点もウノ達は万全だった。


「あ、ウチにはゲンツキホースもいるから、運搬用にあれも貸すよ? 名前はカーブだ。村からの道を憶えれば、ちゃんとウチまで戻ってくると思う」

「ギャーーーーッス!? 逃げ場なし!?」


 マ・ジェフが二度目の悲鳴を上げた。

 いよいよもって、身ぐるみ剥がされるとでも、思っているのかもしれない。

 まあ、ウノ達も押しつける気はないし、今回無理な分は後日、村に持って行けばいいのだ。

 ただ、先に持って行って欲しいモノもあった。


「ただ、コイツは優先で持ち帰ってもらえるかな」


 ウノはまとめておいたそれを、マ・ジェフに突きつけた。

 いくつもの細い鎖に、その数の分だけ吊されている小さな金属片。


「そりゃ……冒険者の認識票(ドッグタグ)か」

「この森で亡くなった、な。さすがにこれは売り物じゃない。せっかくの機会だし、先に冒険者ギルドに持って行ってくれると助かる。どちらにしても、近い内に村に行くつもりでさ。村長さんとかギルドに話を通しておいてもらえると助かるんだ。ほら、ウチの連中は独特だから……」


 ウノ達は、揃って洞窟の住人を見た。

 ゴブリン達、ムニュムニュと揺れるスライム、空中を漂うウィル・オー・ウィスプ、部屋の隅に待機しているスカラベ達。

 よく分かっていない風に首を傾げる仔狼と、猫耳褐色の幼女神はまあ、ギリギリセーフだろうか。


「……根回ししとかないと、村人達が鍬持って取り囲んできそうだし?」

「確かになあ……」


 もちろん、総出で出向くつもりはない。

 誰が行くかは、選ぶ予定だ。


「あと、何か巷で真新しい情報とかあるか? 大きな事件とか。この辺りは、完全に下界とは隔絶されてるから、そういう内容が耳に入ってこなくてさ」

「今普通に下界とか言っちゃったにゃあ……」


 何かバステトのツッコミが聞こえた気がしたが、ウノはスルーした。

 今は、マ・ジェフと話すのが先決だ。

 思い出すように、マ・ジェフが切り出した。


「そうだなあ……やっぱり話題と言えば、城下町の治安悪化だろうな」

「あ、それなら知ってる」

「そうか? 貧民街から散った宿無し達が窃盗や強盗を繰り返したり……」

「うん」

「その被害がまったく保障されないもんだから、貧民街を取りつぶした議会に対して市民がデモを起こしたり……」

「え」


 それは、知らない。


「デモに火を使ったもんだから、一区画丸々炎上する大火事になったり、さらにそれを利用した火事場泥棒が出現して城下町全体がピリピリしてるってのもやっぱり知ってるのか」

「い、いや、そこまではさすがに……っていうか、そんな事になってんの、あそこ」

「その火事場泥棒が貧民街出身者で、やっぱり奴らはヤバいって話も広がってる」


 さらに、ハイタンも口を開いた。


「……そのデモの時の話だが。騎士団の若いのが抜剣しちまって、民衆、騎士団、どちらにも多数の被害が出た。議会への不信も相当だが、騎士団への風当たりもかなり厳しい事になっているそうだ。街中で鎧姿を見たら、人が避ける程にな」


 加えて、貧民街出身の無法者達も、まだ収まるべき場所を見つけていない。

 城下町オーシンは、ずいぶんと厄介な状況になっているようだ。


「逃げ出して、正解でしたね、主様」

「グランドさんやピエタちゃん、無事だといいけどなあ……」


 ウノは、世話になった不動産屋や冒険者ギルドの受付嬢を思う。

 彼らが住んでいた場所は比較的治安のマシな場所だったし、大丈夫だと信じたい。

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