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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
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事件の元凶は奥の部屋へと連行される

「そうすると、力業で排除っていうのは厳しいか……?」


 霊であるのに加えて、単純に技量の問題もある。

 ウノも、バステトの加護もあってそれなりに強くなっているとは思うが、公爵領トップクラス相当の相手とやり合えるかとなると、あまり自信がなかった。


「策があるなら、手を打った方がいいだろうな。犠牲覚悟なら、ここにいる全員で袋にしちまうとか」

「そういうのは、あまり気が進まないな」


 こちらの戦力はウノ自身、シュテルン、ゴブリンズに仔狼のラファル。

 バステトとスライムとウィル・オー・ウィスプとスカラベ達は微妙な所だが……誰かが、最悪命を落とす。

 戦いなら、生命の危険は当然ではあるが、誰かが犠牲になる事前提で挑むのは、違うとウノは思う。

 何せ、そのゴーストを脅威に思うのは、この洞窟とそこの住人に危害が及ぶ可能性があるからだ。

 全員生き残る為に一丸となって戦うならいいが、そうでないなら本末転倒だ。

 虫のいい話ではあるが、ウノは誰も死なない戦いを目指したかった。


「一応、霊的存在に対する武器とか、ウチキなら用意出来るにゃあ。ウノっち護身用に持っとくにゃ」


 そしてウノに近づくと、コソッと耳打ちした。


「実はウノっち妖精種だから、素でも半分ぐらいは攻撃効くと思うにゃ。でも、あくまで人間と比較しての話なのにゃ」


 内緒話にしたのは、マ・ジェフとハイタンに配慮したのだろう。

 多分、普通に犬獣人だと思われているだろうし、ここを語るとまた話が脱線する。


「あと、グリューネも巫女(シャーマン)なのですから、そういった相手に対応出来るでしょう。誠に遺憾ですが……少なくとも、私よりはマシのはずです」

「こ、こわいけど……が、が、がんばる!」


 微妙に落ち込むシュテルンと、怯えながらもギュッと拳を握りしめるグリューネ。


「いや、あんまり無理するな。とりあえず偵察してからだな。実害も二つとなると、ちょっと見過ごせないし」

「ただ、ちょっと腑に落ちませんね。そのゴーストはいつから現れるようになったのでしょう。このダンジョンがまだ現役で冒険者が出入りしていた頃にも出現していたなら、とっくに討伐されていたでしょうし。お二方はどうですか? 村の冒険者ギルドでそう言った話が出た事は?」

「いや、オレ達も聞いた事ないなぁ。なあ、ハイタン」

「ああ。そういう話があったなら、俺達も討伐用の準備をしていただろう」


 なるほど、シュテルンの指摘ももっともだ。


「つまり、ゴーストが出現したのは最近って事か」

「そう考えるのが妥当かと思います。ただ、そうなると、何がきっかけか……いえ、単に退治するだけなら、このような考えも無用でしょうが。……で、何故そこで後ずさりをしているのですか、ヴェール」


 おそらく、洞窟前での見張り番の交代時間になったから、中に戻ってきたのだろう。

『第一部屋』にいた全員が、入り口で後ずさりするヴェールに注目していた。


「ご、ごぶ……きのせいでごぶよ……?」


 ヴェールはスッと目を逸らし、どこで憶えてきたのは吹けもしない口笛を吹こうとしていた。

 汗がダラダラと流れているのも、気のせいではない。

 間違いなく、これは何か心当たりがある。


「……ごぶ……なにをかくしてる?」


 スッと、ヴェールの首筋に刃を突きつけたのは、リユセだった。

 ……いつの間に背後に回り込んだのか。




 そんな訳で、マ・ジェフやハイタンも含んだ全員でヴェールを取り囲んだ。

 中央のヴェールは、正座である。


「に、にんげん……おはか、つくるごぶ?」


 弁解するように、ヴェールは早口だった。


「まあ、大体作るな。でもこの辺、墓地なんてないだろ?」

「村の外れにはあるけど、それとは違うよな?」


 マ・ジェフも首を傾げるが、ここから数時間は掛かるし、違うだろう。

 そもそもゴブリン達にはまだ、人里に近づかないようにウノも指示してある。下手に発見されたら、討伐対象にされかねない。


「あれではないですか? 主様が亡くなった冒険者を弔う時に作るような、塚の類では?」

「あー」


 そんな凝ったモノではないが、確かにそれも墓の一種ではある。


「い、いしとか、いた、とか……おいてるごぶ?」


「まあ、土だけじゃちょっとな」


 ヴェールの伺うような上目遣いに、ウノは大体の状況を察した。


「何となく分かってきたぞ。お前、どこの塚を荒らした?」

「あ、あらしてないごぶ! ただ……かわのさかなをとるために、いいかんじのいわがあったからつかっただけごぶ?」


 大きな岩を川の岩に投げぶつけ、その衝撃波で魚を気絶させる漁法は実際に存在する。

 つまり、この場合、ヴェールが使った『いいかんじのいわ』が『大きな岩』に該当する。


「こいつ、誰かの墓、川に投げ込みやがったーーーーー!?」


 そりゃ、幽霊だって怒るだろう。

 ちなみにウノが作ったモノとは、違うはずだ。

 ゴブリン達がゴーストに襲われてから、ウノがこの洞窟を訪れたのだから、ウノが作ったモノならば辻褄が合わない。

 となると、それ以前の塚である。

 まあ、誰の墓であろうと不謹慎である事には変わりは無いし、今回の騒動の元凶である。


「ゼリューンヌィ、アクダル、折檻の時間です」


 氷点下の声で、シュテルンがゴブリン達を促した。


「しょうちごぶ」

「ごぶごぶ」


 力自慢二匹がヴェールの両脇をがっちり押さえ込み、奥の部屋へと向かっていく。


「ごぶーーーーー!?」


 哀れな悲鳴を上げながら、ヴェールは引きずられていった。

 合唱ジーザス。




 ヴェールが連行されるのを見届け、皆、テーブルに戻った。


「さて、原因は分かった所で、対策はボチボチ立てていこう」

「にゃあ、今すぐ倒しに行くとかじゃないにゃ?」


 バステトの問いに、ウノは首を振った。


「いや、夜光草の群生地に出現するんなら、ウチからちょっと離れてるし、そこまで危機感を持つ必要もないかなと思ってさ。それも夜に限るみたいだし」


 要は夜、その付近に近づかなければいい。

 もちろん、早い目に倒した方がいいには決まっているが、出来る限り万全の状況でやり合いたいのは当然だ。


「言われてみれば、それもそうにゃ。ゴブリンを襲ったモノの正体が、分かっただけ収穫にゃ」

「今更ながらまとめると、夜光草を採りに来て、ゴーストに襲われた。で、何とか生きながらえたモノの気を失っていた所を、俺達が発見した……で、いいのかな」

「要約すると、あまりの短さにビックリです」


 ウノとしても同感だった。

 たったこれだけの内容に、ずいぶんと時間が掛かった気がする。


「今日の所は、大事を取って泊まっていくといい。ゴーストの件はさっきも言った通り、急ぐ状況でもないだろう?」

「そりゃ助かるけど、いいのか?」

「いいよ。初めてのお客さんは大切にしないとな」

岩を川に投げ込む魚の捕り方を、ガチンコ漁または石打漁法と言うそうですが、日本では自然保護の観点から、大抵違法とされているそうです。

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