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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
37/140

マ・ジェフという男

「んあ……うわあああああああああああ!?」


 洞窟の『第一部屋』に悲鳴が響き渡り、中層の利用方法を相談していたウノ達は一斉に振り返った。

 見ると毛皮で作った毛布をはね除け、マ・ジェフとかいう野伏は恐慌状態に陥っていた。

 側では、間近で様子を見ていたグリューネが、尻餅をついている。

 ウノはグリューネを、マ・ジェフから引き離すと、自分が相対した。


「落ち着いてくれないか?」

「ひいいいいいいいい!!」

「なあ」

「やめ、やめてくれえええええ!!」

「ちょっと」

「来るな来るな来るなああああああああ!!!!」

「…………」


 色々と諦めたウノは、ゼリューンヌィに目配せした。

 一瞬で通じてくれたようで、ゼリューンヌィは自分の棍棒をウノに渡した。

 軽く振るい、使い心地を確かめたウノは、それをマ・ジェフの後頭部に叩き込んだ。


「落ち着けって、言ってる」

「OUCHっ!?」


 マ・ジェフは前のめりに倒れ込み、自分の膝で額を打った。

 結果、目を回してしまったようだ。


「……いかんな、思わずヴェールへの対応と同じ真似をしてしまった」

「ごぶ、ふつう。もんだいない」


 グッと、ゼリューンヌィは親指を立てた。

 ちなみにヴェールは表で見張りの番になっているので、抗議は出なかった。


「騒々しかったのですから、しょうがありません。……それで、落ち着いてくれたのでしょうか」

「うう……一体、何が……」


 ふらつく頭を押さえ、正気に戻ったらしいマ・ジェフの視線が、ウノと隣にいるゼリューンヌィと合った。


「ゴブリンッ!?」


 半分は正解だ。

 マ・ジェフは瞬間的に飛び退き、後ろ手で何か――おそらく武器だろう――を探そうとしていたが、残念ながらそれは、取り上げている。


「目の前の俺が、ゴブリンに見えますか」


 ウノの穏やかな抗議に、マ・ジェフはマジマジとウノを眺めた。


「緑色じゃないけど、顔は似たようなもんじゃね……?」

「よーしいい度胸だ。ゼリュ、そっちの大剣も、研ぎ終わってるよな」

「ごぶ、いつでもいいごぶ」


 ゼリューンヌィは、壁に立てかけてある大剣を取りに向かった。

 それが本気と気付いたのか、マ・ジェフは慌ててウノ達に懇願した。


「待った待った! 軽いジョークじゃん!? 場を和ませるためのジョーク! お分かり!?」

「笑えないジョークは、ジョークじゃないんだけどな」

「ごぶ」


 そこで、マ・ジェフは自分が異常な状況にある事に、改めて気付いたようだった。


「いや待て何でオレ、ゴブリンと普通に喋ってたの!? これは悪い夢か!?」

「残念ながら現実だ。ちなみに狼も喋るぞ」

「しゃべれます!!」


 わうっ! と仔狼であるラファルも主張した。


「何てこった……」

「説明すると長くなるから、ここはそういう所だと割り切って欲しい」


 額を打つマ・ジェフに、そろそろいいかな、とウノは交渉を始める事にした。

 ようやくといった感じだ。

 警戒心を解くためにも、ゴブリン達には少し下がってもらう。


「でまあ、ここにいるのはモンスター達だが、今のところアンタ達と敵対するつもりはない。というかこっちがやるつもりなら、アンタ達、とっくに死んでるだろう? ああ、ちなみに武器は解除させてもらったぞ。単純に介抱のためっていうのもあったけど、万が一もありえるから」

「オーケーオーケー、問題ないノープロブレム。当然の対処だろうし、俺も落ち着いた。ここは……洞窟だな!」

「いくら何でも、そりゃ見りゃ分かるだろ」


 ……本当に落ち着いているのだろうか、この男は。

 ちょっと疑問に思う、ウノだった。


「この辺りの洞窟と言えば、『邪教神殿の洞窟』か? それにしちゃあ、雰囲気が以前に聞いた情報とは、何だか……」


 洞窟内は、スライムと合わさったウィル・オー・ウィスプが、柔らかい光を放っていた。

 ちゃんとした家具こそ無いが、岩のテーブルや壁の隅には食器類も布を敷いた上に並んでいる。

 武器類も、それぞれのゴブリン別に分類され、飾ってあった。

 瓦礫や埃の類はウノやゴブリン達によって取り除かれ、湿気もほぼなくなっている。

 人の住む、住める環境だ。

 正直、ウノがかつていた貧民街のあばら屋よりも、ずっと立派な造りだろう。

 マ・ジェフが困惑するのも、無理もないだろう。


「いや、『邪教神殿の洞窟』で合ってるよ。ただ、ダンジョンは冒険者ギルドから買い取って、俺のモノになってる。つまり、ここは俺のネグラだよ」

「そんな事が出来るのか!? え……俺もどこかのダンジョン、買おうかな。自分だけの城って男の夢だよな」

「素人なりの忠告だけど、やめといた方がいいと思うぞ。ここは、色んな意味で特殊なケースだろうから。あと、周りのゴブリンは同居人で、基本的には害はないから安心して欲しい」


 気がつけば、ウノの相手に対するしゃべり方も、随分と適当になっていた。

 が、改めるのも変だし、このまま続ける事にした。


「さてまあ、ここの話は置いとこう。アンタと、もう一人の話だ」

「そうだなー。この森に住んでるって言うなら、アンタにも無関係じゃないかもしれないし。あ、そうそう名乗り遅れたけど、オレはマ・ジェフ。冒険者ギルド所属のナイスガイ、職業は盗賊と魔術師だ」


 マ・ジェフは胡座を掻いて、自己紹介した。


「魔術師!?」

「主様」


 やはり発見した時に感じた魔力はそうだったのかと、思わず身を乗り出すウノを、シュテルンが穏やかに制した。


「っと、分かってる。でも、その格好は……」


 どう見ても、野伏っぽい。

 いや、冒険者の場合の盗賊は、一般に言われる『賊』ではなく密偵的な役割を指し、野外ならば草原や森に溶け込む格好をしていても、不自然ではないのか。


「見えない、見せないのも技術の一つさ。魔術師ってのを明かしたのは、助けてもらった事への、こちらなりの誠意って奴だな! でまあ、あっちでまだ寝てるゴリラは、ハイタン。アレは見ての通りの戦士だよ」

「おう、起きてるぞ。……誰がゴリラだと?」


 マ・ジェフが親指で指した先で、前触れ無しにのっそりと、巨漢が身を起こした。


「ひゃうっ!?」


 その視線に射すくめられ、マ・ジェフが変な声を上げた。

すまない、自分で言うのも何ですが、まったく話が進んでいない……!

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