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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
36/140

行き倒れた冒険者

 森のモンスターは多岐に渡り、中には夜にしか現れないモンスターも存在する。

 ダンジョン内の灯りとして活躍してくれているウィル・オー・ウィスプもその一つだし、他にも人骨や動物の骨に取り憑いたスケルトン、牙が『闇』魔術の触媒に使われているアサシンバット、幽体そのモノであるゴースト、シノビムササビ、催眠オウル……等々。

 そうした動物のデータも集めるため、ウノは時折、夜の探索も行っていた。


「ふぃ……今日は、こんなもんか」


 倒したアサシンバットをリュックに詰め、ウノは帰途につく事にした。

 シュテルンには空の哨戒に当たってもらっているが、いくら月と星が瞬いているとは言っても、当然夜の視界は悪い。

 この時間帯の探索は、大体昼よりもずっと短い時間で済ませる事にしていた。


「それにしても、大分少なくなってきたよなあ」


 ウノは、腰の袋に手をやった。

 この森を探索した冒険者達が落としたり残した道具類の回収も、昼夜問わず行っている。

 ただ、今日の収穫はないし、ここ最近は見つける方が稀になってきていた。


 ――周辺のは粗方回収したようだにゃあ。

 それ狙いの探索はそろそろ打ち切って、採取や狩猟に重点を置いた方がよいかもしれないにゃ。


 洞窟にいる女神バステトから届く念話も、似たような認識だ。


「だな。……さて、『発光(アカルク)』」


 ベルトホルダーに手を当て発動させた光の魔術が、柔らかい光量の球体を出現させる。

 最早通い慣れた道の上、ウノの本来の種族、黒妖犬(ブラックドッグ)は夜に属する妖精種だ。

 木の根や大きめの石を苦にもせず、軽い足取りで洞窟へと向かう。

 モンスターを狩り終わり、灯りを点けたら探索は終了と、シュテルンには伝えてある。

 彼女もそろそろ上空に……と夜空を見上げた矢先だった。


(主様、緊急です)

「どうした、シュテルン」


 ウノの身体に緊張が走った。

 何やらトラブルがあったようだ。


 ――にゃあ、こっちも非常事態っぽいにゃ。


「おいおい、何だよ。何があった!?」


 洞窟に向かうべきか、シュテルンの報告を待つか。

 どうするか迷い、どちらにでも行けるようにウノは足を止めた。


(冒険者らしき人物が二人、倒れているのを発見。見た感じ、戦士と盗賊のようで、意識はないようです。場所は洞窟と……そちらの光が、主様ですね。ならば、ちょうど中間地点辺りです)


 ――にゃあ、それかにゃ。

 ヴェールが仕掛けてた鳴子が、音を立てたのにゃ。

 ゴブリン達も、いつでも戦える体制で、警戒してるのにゃ。


 つまり、シュテルンの緊急とバステトの言う非情事態は、繋がっているらしい。

 少し離れた場所で、シュテルンの鳴き声が聞こえた。

 場所も分かり、ウノは駆け出した。

 地面を踏みしめようと、地面に散らばる木の葉が砕ける音一つ立てず、風のような勢いで疾走する。

 妖精種・黒妖犬の本領発揮であった。

 以前は、ここまで速くはなかった。

 バステト曰く、


「自分の素性を知ったからにゃあ。妖精は精神体に近いから、物質世界で受肉しても、その影響で潜在能力(ポテンシャル)が引き上げられたのにゃ。というか正確には本来の力が、引き出されたのにゃ」


 という事らしい。

 途中から走る事すら面倒になって跳躍、木の幹を蹴って次の木の幹へと飛び移る高速機動へと、移動手段を変えた。


「今向かってる。まあ、三〇秒も掛からないだろう」

(はい、お待ちしてます)




 そしてきっちり二一秒で、ウノはシュテルンの下へたどり着いた。

 見るとなるほど、男が二人倒れている。どちらも二〇代半ばといった所だろう。

 一人は、長い金髪を後ろで束ねた、軽そうな男。細身だが引き締まった身体をしており、茶色の軽装に皮鎧、深草色のコート姿。装備は弓に投げナイフと野伏(レンジャー)のようだ。

 ただ、ウノの皮膚には、彼から滲み出る魔力を感じてもいた。

 そちらの男も決して背が低い訳ではないのだが、もう一人の男が二メルト近くある巨漢なので、どうしても小柄に見えてしまう。

 こちらは、短く刈り上げた黒髪の男で、重装鎧に大剣大盾とどう見ても戦士職だ。

 首から提げている認識票(ドッグタグ)の名前を確かめると、野伏っぽい男の方がマ・ジェフ、巨漢の戦士がハイタンというらしい。

 装備の質から見た感じ、冒険者としては中堅といったところだろう。


「息はあるな。外傷もない……衰弱か?」


 そう言えばバステトが言っていた事を思い出し、足下付近を光の魔術で照らしながら確かめてみると、細いロープがピンと地面に張られていた。

 これはヴェールが用意した侵入者対策の一環で、踏むと木の枝で作った警報が、洞窟内でカラコロカラコロと音を鳴らすのだ。

 ただ、警報である事を相手に気付かれては困るので、地面に密着するように設置され、足に引っかかるようにはなっていない。

 ……例えば空腹など別の原因で、行き倒れたと考えるのが妥当だろう。


「主様、如何いたしましょう?」

「そうだな、ウチに運ぼう」

「よろしいので?」

「放っておいて、この人らを探しに別の冒険者が来るかもしれない。そして、ウチを発見したら、またややこしい事になるだろう。なら、主導権(イニシアチブ)が握れそうな今の状況で助けた方がいい」

「なるほど、さすが主様。しかしこの二人、なかなかの重量級のようですが……?」


 シュテルンの言う通り、ハイタンという戦士の方は言うまでもなく、マ・ジェフという野伏風の男も装備を含めるとそれなりの重さがありそうだ。

 鷹であるシュテルンは元から運搬係の数には入っていないし、さすがにウノ一人ではきつい。


「そんなの、どうするかなんて決まってる。……神様、今聞いた通りだ。ゼリューンヌィ達には、臨戦態勢は解くように言っておいてくれ」


 ――にゃあ、ラジャッたのにゃ。

 ん、ゴブリンズもウノの指示に従うって言ってるにゃ。

 グリューネには、寝床の用意をさせとくのにゃ。


「助かる。じゃあ、ゼリュ……は、そっちに詰めといてもらいたいな。運搬用のゲンツキホースと一緒に、アクダルをここに連れてきてくれ。俺達の今いる場所も、分かるんだろ?」


 ――大体はにゃあ。じゃあ、任せろにゃ。


「便利ですね、神」

「だろう」


 ――まったく、心の狭い神だったらとっくに天罰食らわしてるにゃあ。




 それから少し待っていると、光球で夜道を照らしながらバステトがやってきた。

 そのすぐ後ろには、深緑色をした毛を持つ馬のモンスター、ゲンツキホースを綱で引いたアクダルもついてきている。

 アクダルは、ゴブリンの中では一番の力持ちだ。

 ゲンツキホースと一緒なら、倒れている二人ぐらい何とかなるだろう。


「アクダル、悪いな」

「ごぶ……きにするなごぶ。……いえのもんだい、ごぶ」

「カーブも、こんな時間に働かせる事になって、すまないな」

「ブルル……」


 ゲンツキホースのカーブが、ウノの手に頭を擦り付ける。

 使い魔契約は、行っていない。

 数日前に昼間の探索を行っていた時、森の奥で一頭で草を食んでいたのを発見したのだ。

 人懐っこく、ウノだけでなくバステトやゴブリンズにも愛想がいい。


「じゃあ、この人達を運ぶのを手伝ってもらえるか?」

「ごぶ、わかった」

「ぶるん……!」

原付といえばカブ。

他にも色々ありますが、ウチの愛車がそれの110なのです。

上位互換にチューガタホースやナナハンホースが存在します。

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