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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
35/140

全属性使いはすごいのか?

 ヴェールが道具を完成させるたびに、ウノは洞窟と各所を行き来した。


 火成岩の指輪は、たき火にかざし。

 羽根のペンダントは、木の高い場所まで登って、強めの風に当て。

 貝殻のブレスレットは、川の水に浸し。

 石英のベルトホルダーは、陽光の下に置いて。

 蝙蝠の牙の根付けは、ウィル・オー・ウィスプのいないダンジョン中層の一室で、闇を取り込んだ。


 そして今は、起動キーを刻んだ道具達で、各種属性の魔術の練習を行っていた。


 火の魔術『灯火(チャッカ)』は小、中、大の火力を調節出来るが、小で指先、大でも編み物用の毛玉程度。

 風の魔術『空調(エアコン)』はそよ風から強目の風まで放てるが、当然ながら人を傷つけるような力はない。

 水の魔術『細流(ジャグチ)』は指先から流す事も出来れば、桶を一気に満たすぐらいまで出現させる事も出来る。ただし、魔力の消費はそれ相応といった具合だ。

 光の魔術『発光(アカルク)』はほのかなそれから、目も眩むような光量も可能だ。それも複数個。もっとも、ダンジョンの中にはエルモ達ウィル・オー・ウィスプが常駐しているので、どういう用途に使うべきかが課題になりそうだ。

 闇の魔術『消灯(クラク)』は、『闇の光』だ。黒い光球は周囲を暗くする。日差しの下よりも、木陰の方が魔力の消耗は少ない事が分かる。


 そんな風に魔術を使いまくっているウノを、シュテルンとバステトは見守っていた。

 土を取り込んだ岩のテーブルの、まだ平たさが残っている場所に、二つ小さな杯が置かれている。

 赤ワインの方がバステト用、ただの水がシュテルン用だ。

 冷水をついばんでいたシュテルンが、顔を上げる。


「……ところで神。何気に全属性使いこなせるのって、すごい事なのでは?」

「正確には、そこはちょっと違うのにゃ。ウノっちが込めたのは無属性の魔力にゃ。属性自体は触媒や実際の元素にゃ。つまり、現在主流の……んー、ウチキが知ってる時代の魔術師のいう所の、『属性の相性』とはちょっと違うのにゃ。いわゆる『火属性の魔術師』は己の中で、火属性魔力を生成するのにゃ」

「ああ、なるほど。確かに主様が教わった魔術は、本人の属性とは確かに全然関係ありませんね」


 ウノが触媒の精製に用いたのは、無属性の魔力だ。

 属性そのモノは、自然物のそれを取り込んだ。


「そういう事にゃ。ウチキの教えた魔術は、触媒と元素を揃えて然るべき儀式を行えば、魔力を操れるモノならば誰だって使えるのにゃ。ただ、いわゆる『冒険者としての魔術師』という立場で効率を考えると、呪文を憶えた方が楽にゃ。属性は自分で生むし、攻撃力も全然違うしにゃあ」

「なるほど、この土地で優先されるべきは攻撃力よりも生活力ですからね」


 触媒式の魔術は、つまり手順さえ理解すれば誰にでも使う事が出来る。

 もちろん、今回の深皿を用いた修行のように、魔力の練り方を習う必要はあるが。

 また、触媒を作る際には、実際に火を起こしたり、水に浸したりと、手間が掛かる。風や光は天候も左右するだろう。

 出力も微々たるモノだ。

 人を傷つけられる魔術は、基本的にはない。ウノが土の魔術で作ったナイフや火の魔術で軽い火傷を負わせる事は可能だろうが、そんなのはどんな道具だって変わらない。料理に使う包丁だって、人は傷つけられるのだ。

 使い道はやはり、日常生活が主となるだろう。


「おいシュテルン、すごいぞ。この魔術、火と水を同時に発動したら、温水が出る!!」

「お湯を沸かす手間が省けますね」

「ああ、魔術を身につけてよかった。ありがとうな、神様」


 ウノが親指を立てると、バステトははにかみながら頭を掻いた。


「にゃあ、そんな素直に礼を言われると、照れるにゃあにゃあ」

「それにしても……疑問ばかりで、我ながらどうかと思いますが、あの魔力の渦の訓練ですか。あのようなやり方があるなら、もっと魔術を使える者が増えてもおかしくないと思うのですが」


 小さく喉を唸らせるシュテルンに、ウノは軽く手を振った。


「いや、それはちょっと違うぞ、シュテルン。一般に言う魔術師の資質っていうのは、身体から漏れる魔力の量で判断されるんだ。そもそも技術を仕込む以前に、その力がないんじゃ習得しても意味がない。仮に習得しても、実際に使えない」

「にゃー……となると、例えは悪いけど、この時代の魔術師は、水をいっぱい吸い込んだ雑巾なのにゃ。その滴る水を魔力として、魔術を行使するのにゃ。そして魔術師の資質のない人間は、水の出ない雑巾にゃ」

「……! あの、魔力を放つ深皿での訓練は、正確には絞り出す方法を教えていたのですね」


 つまり、現代の魔術師には魔力を絞り出す、というやり方自体が存在しない。

 溢れるほどの魔力を持つ者が、魔術師の前提条件なのだ。

 そして今のウノには、既存の魔術師にはない大きなアドバンテージが出来た。

 多くの魔術師達が、いわゆる『滴る水』が尽きれば魔術を使えないのに対し、ウノは体内から魔力を絞り出す術を習得した。ついでに、逆に周囲から魔力を取り込む方法もだ。

 ……もっとも、別に魔術師と戦うつもりはないから、あくまで手札が増えたという程度の話ではあるが。


「にゃあ、ウノっちは元々魔力が豊富で楽だったにゃ。ただ、資質がないって言われる人間も、絞れば水の出る人は多くいるはずなのにゃ。勿体ないにゃあ」

「かといって、やり方を広めるのも、なかなかきつい」

「にゃ」


 ウノとバステトは、頷き合う。

 ただ、シュテルンには理由が分からなかったようだ。


「どうしてです?」

「そりゃ、今いる魔術師に恨まれるからだよ」

「魔術師は、選ばれた人間にゃ? 事実かどうかはともかく、一般的な認識も、そう信じている魔術師も多いと思うのにゃ。その特権が奪われそうになれば、その原因に対してどういう行動を起こすかは、てるんも想像がつくと思うにゃ。リスクが大きすぎるのにゃ」


 シュテルンも納得したのか、洞窟の方角を振り返った。


「……せっかく造っている家が潰されるのは、望む所ではありませんね」

「俺みたいに、魔術を使いたいって思ってる人達に広めたい所だけど、そういうのはせめて、自分と周辺の身を守れるようになってからだな」


 それからも、しばらくウノは魔術の応用方法をいくらか考え、無駄遣いも出来ないという事で、夕方には魔術修行は終了した。

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