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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
34/140

土魔術

「では、ウサギの足を、そこの岩の上に置くにゃ」


 ウノは、バステトに言われるまま、大きく平たい岩の上にウサギの足を置いた。


「置いたぞ?」

「それに手を当てて、水の渦と同じ要領で魔力を染み込ませるのにゃ。大事なのは、ついでに下にある岩の土属性を巻き込む事にゃ」

「前半はともかく、後半がちょっと分かりにくいな」


 とぼやきながらも、とりあえずウノは言われた通りにやるしかない。

 魔力の放出と浸透は、数時間の深皿での経験で、ほぼ身体が憶えていた。

 ただ、やはり下の岩の属性というのは、いまいちピンとこない。


「ゆっくりやれば、何となく掴めるはずにゃ。魔力と一緒に砂みたいなザラザラはないかにゃ?」

「……これ、か?」


 ウノは目を瞑り、まさしく手探りで、その感触を掴んだ。

 自身の放つ魔力の渦に巻き込まれた無数の粒子のような感覚は、正に砂嵐。

 これが土の属性というのならば構わない、そのままウサギの足に魔力を染み込ませていく。


「それでいいのにゃ。ウサギの足に、丁寧に土属性を馴染ませるのにゃ。ただしやり過ぎると触媒が受け止めきれずに壊れるから、加減には気をつけるにゃ」


 無闇矢鱈に魔力を放てばいいというモノでもないようだ。

 せっかく作ったアミュレットを壊さないように、慎重に作業を続けていく。

 どれぐらい時間が経っただろうか、ウサギの足に魔力が染み込みにくくなった所で、ウノは手を止めた。


「出来た……」


 空を見上げると、太陽はさほど動いていない。

 けれど、岩には顎から滴った汗の染みでびっしょりと濡れていた。

 岩は、土属性をアミュレットに取り込んだせいだろう、すり鉢状に削れるようにへこんでいる。

 疲労はある……が、それよりも達成感が大きかった。

 だるくなった腕で、アミュレットを掲げ持つ。


「にゃあ、これで『ウサギの足のアミュレット』の完成にゃ。おめでとうにゃあ」


 バステトが小さな手で拍手をし、シュテルンはそもそも手がないので大きく鳴く事で、拍手の代わりとした。

 まだ、魔術の触媒は一つ出来上がっただけだ。

 ……が、それでも一仕事終わった解放感が、空気を緩ませる。

 そんなタイミングで、シュテルンが小さく鳴いた。


「神、質問があるのですが」

「にゃあ、何かにゃ?」

「全くの門外漢なので的外れな疑問かもしれませんが、これだと魔術は一種類、属性を放出するだけなのでは?」

「ん、そうにゃ。複雑な術式なんて一切なしの、シンプルな魔術なのにゃ。土属性にゃので、砂、土、石とか出せるにゃ」

「えええええ」


 シュテルンは、納得がいかないようだ。


「シュテルン、いいんだ」

「主様?」

「魔術が使える。まずはそれで、俺には充分過ぎる」


 確かに、材料集めや魔力操作の基礎修行なんて手間も掛かったが……掛かったと言ってもたかが半日も経っていない。

 短期間というのもおこがましいレベルの短い時間で、魔術を使えるようになるのだ。

 獣人で、魔術を使える見込み無し、と言われていたのを考えれば、奇跡的と言ってもいい。


「主様がそういうなら……しかし、土属性だと、砂や土や石を出すだけ……なのですよね? 使い道が、石を投げるぐらいしか思いつきませんが、それが生活の役に立つのですか?」

「そこはあれだにゃあ。使い手次第といった所にゃ。まずは術の完成が先決にゃ。残るは何だったかにゃ?」


 バステトに促され、ウノは何とか思い出す。


「ええと……あとは、起動キーだったか」

「にゃ、さすがにそれは必要なのにゃ。自分で考えるのに時間が掛かるなら、ウチキで用意するけどどうするにゃ」

「自分で決める!」


 ウノは即答した。

 せっかくの初魔術、手助けはしてもらっているにしろ可能な限り、自分の手でやり遂げたかった。


「そういうと思ったにゃあ。なら作った触媒を握って、魔力で言霊を刻むにゃ。その辺りはもう、感覚的に掴めていると思うのにゃ」

「ああ、じゃあ土の魔術は『土塊(イスルギ)』で……」


 ウサギの足のアミュレットを握りしめ、キーとなる言霊を思い浮かべる。

 アミュレットの魔力はほぼ満杯だ。

 イメージは渦を極限まで細めた高速のドリル。

 魔力のこもった言霊を、アミュレットに一撃で刻み込む。

 その瞬間、アミュレットから漂っていた魔力が、消え去った。

 いや、アミュレットから漏れていた魔力が、完全に中に封じ込められたのか。

 例えるなら、ワインの瓶に今、コルクで栓をしたかのようだ。

 それでも、このアミュレットから感じられる魔力の『気配』は、少しでも魔術を囓ったモノならば分かるだろう。


「……これで、完成?」

「したのにゃ。それじゃ早速、土の魔術『土塊(イスルギ)』を使うにゃ」

「作ったばかりでなくすのは、ちょっと勿体ない気がするなあ」

「にゃ、ああ、使い捨てって言ったけど、多分ウノっちが考えているのとちょっと意味が違うのにゃ。そんな一回こっきりで使い切るようなモノでもないにゃ。何百とまではいかなくても、何十回かは大丈夫のはずにゃ。それに魔力が尽きそうならその兆候も出るのにゃ」

「そっか、安心した」


 なら遠慮なく使えるな、とウノはアミュレットをベルトの脇に差した。


「それじゃ初魔術、『土塊(イスルギ)』!!」


 ウノが力ある言葉を唱えると、ウサギの足のアミュレットが魔力を放ち、ウノの右手には重みが加わっていく。

 慌てて手の平を上に向けると、思ったよりも多い量の茶色の軟らかい土が、ウノの手の中には現れていた。

 とても手の中には収まらず、いくらかの土が地面へとこぼれてしまう。


「おおおおお、やったっ!!」

「……でも、地味ですね」

「地味でも、魔術は魔術だ」


 地味なのは、ウノも否定出来ない。

 これで何をするのかと言われると……まあ、植木鉢でも手に入れれば、園芸の役には立つかもしれない。

 だが、それよりも初魔術が成功したという喜びが、何にも勝った。


「そう言ってもらえると、教えた甲斐があるにゃあ」

「あれ、でも土が出るって事は……」


 植木鉢も、元はある意味土だ。

 ただ、土と植木鉢があっても花の種がなければ、意味がない。

 だけど、そこからウノの発想は広がっていく。

 今、普通に植木鉢を作るというイメージがあったが、それは可能か。

 可能。

 他に作れるモノを考える。

 土団子、精巧ではないが手の平サイズの土人形、ブロック、砂の山、粘土、砂利、石ころ、それよりやや大きめの石……それに。

 イメージを固定しながら、再び呪文を唱える。


「『土塊(イスルギ)』」


 ウノの手の中には、頭に描いた通りのモノが出現していた。


「ナイフ!?」


 クワッとシュテルンが驚愕し、大きく翼を広げた。

 ウノはナイフを軽く振るい、使い心地を確かめてみた。


「石作りだけど、切れ味は悪くないみたいだ。料理の助けにはなるだろう。ん、調理器具はこれ、もしかしてかなり充実するんじゃないか?」


 大小の石皿、フォーク、スプーンは作れるだろう。

 石焼きプレートは……出来ない事はないだろうが、魔力の消耗は大きそうだ。


「そうにゃ。それが使()()()()()な部分なのにゃあ。特に土の魔術は応用力が広いから、色々試してみるとよいにゃ。ただ、使いすぎると――」

「――触媒が壊れる」


 ウノは、バステトの言葉を引き継いだ。

 それもまた、感覚で分かるのだ。

 アミュレットの魔力は確かに消耗しているが、この程度なら微々たるモノ。

 同じペースなら、数十回は保ってくれるだろう。


「分かってるのならいいにゃ。まずは、全属性の触媒を完成させる事にゃ」

「そうだな。色々楽しくなってきたぞ」


 他の属性も、早く試してみたいウノだった。

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