魔物合成
「おーおやぶん、まだうぃすぷ、出てくる」
「他モンスターの気配はありません」
「ん、よし、グリューネもシュテルンも、警戒を続けててくれ。……んん?」
ウノが網を振るっていると、動物使いとしての感覚に、引っかかるモノがあった。
不可視の波動を放つ青い灯火の一つに、自然と視線が固定されていた。
使い魔候補だ。
「しめた、契約出来る奴がいるぞ」
「主様、結構な数のモンスターと契約していますが、大丈夫なのでしょうか」
「言われてみれば……どれぐらいの数が、契約出来るんだろ。負担になると分かるって、冒険者ギルドの資料にはあったんだけど」
ただ、説明は漠然としていて、個人差もあるというので、いまだにピンと来ていない。
少なくともその『負担』になった事は、今のところウノにはなかった。
その答えをくれたのは、バステトだった。
――にゃー、今のウノッちならあと五体は堅いにゃ。
「分かるのか、神様」
――大雑把ににゃあ。
ウノっちが目を通した資料がどんなモノかは知らにゃいけど、契約するモンスターには格があるにゃ。
強いモンスターは格が高く、弱いモンスターはその逆にゃ。
んで、この辺りのモンスターの格は、言うまでもなく低いにゃ。
「そりゃそうだ。冒険者としても、初心者向けの土地だし」
――それでも有限だけどにゃ。
これからもっと力をつけたら、さらに契約可能数は増えるにゃ。
もっとも、ほいほいやってたら、すぐにいっぱいになっちゃうからご注意にゃー。
神託による説明が終わると、羽音も静かにシュテルンが近づいてきた。
どこか誇らしげだ。
「いざとなれば、私の契約を切っても構いません。能力の有無などなくとも、私は主様にお仕えしますので」
「いやいや」
「一蓮托生という奴です」
シュテルンは、クワッと高らかに鳴いた。
そのせいかどうかは分からないが、ウノの虫取り網にも動じなかったウィル・オー・ウィスプ達が、わずかに距離を取った。
「……まあ、シュテルンとの契約を切るぐらいなら、他のモンスターと契約するつもりもないけどさ。ま、ならこのウィル・オー・ウィスプとは契約しても問題ないな」
カチリ。
ウノの申請した契約は拒否されず、繋がったウィル・オー・ウィスプは青白い光を強烈に放った。
目も眩むような閃光だった。
「契約、分かり易いな!?」
目を細めながら、ウノは突っ込んだ。
「んー」
いつの間にか、ウノの後ろに立っていたグリューネが、猪骨の面を傾けていた。
「どうしました、グリューネ。あれは食べ物ではありませんよ?」
シュテルンの問いに、グリューネはブルブルブルと首を振る。
「ちがう。いろはあおだけ?」
「ああ、なるほど。確かに色合い的に暖色系統は欲しいですね。主様、どうなのでしょう?」
どうなんだろうね、とウノはウィル・オー・ウィスプに語りかけた。
すると、灯火の色が徐々に白っぽく変化した……が、青色はどうしても残ってしまう。
また、他の色への変化は無理そうだった。
「限りなく白に近くは出来るけど、青以外はないようだな」
「にゅ! にゅうー」
ウノの呟きに応えるように、グリューネにまとわりついていたスライムのマルモチが、大きく波打った。
「ど、どうしたマルモチ、急に騒いだりして」
「にゅうにゅう」
ピクッと反応を示したのは、シュテルンだった。
「主様、複数のモンスターの接近反応がありま……あ、これスライムですね。狩りますか?」
「いや、今の流れって、マルモチが呼んだっぽいよな!? それ狩るのってどうなの!?」
「そうなのですか、マルモチ」
「にゅむっ」
ぶるんっと震えるマルモチにつられ、グリューネが転び掛ける。
そうこうする内に、赤や黄色、様々な色のスライムがウノ達の周囲に集まり始める。
「すみません、鳥である私には分かりかねます。グリューネ、通訳をお願いします」
「とくいそうなのは、わかる」
にゅむにゅむと身体を波打たせるマルモチ。
スライム達は、泉の上に集うウィル・オー・ウィスプに照らされ、幾つもの色で反射していた。
それで、ウノはマルモチの考えに気がついた。
「あ、あー……! そういう事か!」
「どういう事ですか、主様」
「つまり、今のグリューネとマルモチと一緒だよ。合体だ!」
洞窟に戻ったウノは、上層の『第一部屋』でゴブリン達とテーブルを囲んだ。
他、シュテルン、神であるバステトとそのベッド兼ソファとなっている巨大スライム『ブタマン』、仔狼のラファル、マルモチと集まった色とりどりのスライム達、ウノが契約したウィル・オー・ウィスプの『エルモ』とその同胞らと、大所帯だ。
それでもまだまだ、この第一部屋の収容出来る人数は余裕である。
集まった目的は、灯りに関する話し合いだった。
飲み物は自家製の薬草茶、お茶請けは中央に置かれた果物盛り合わせである。
「ひとまず下層に関しては、ウィル・オー・ウィスプの配給は一つ。しばらくは神様のベッド『ブタマン』とのコンビで賄ってもらいたい」
「問題ないにゃあ。しばらくするとこの子達も分裂で増えると思うし、気長に待つにゃ」
バステトがその身を埋める透明な巨大スライム『ブタマン』の周囲では、期待して待ってろとでも言うかのように、カラフルなスライム達が波打っていた。
「上層には六つ。この入り口付近と各部屋。あとは長めの廊下な」
「ごぶ!」
ウィル・オー・ウィスプが六つ、ゼリューンヌィに寄り始める。
「さて、ウィル・オー・ウィスプの色が青ばかりなのが気になる奴もいると思う」
「ごぶ」
ゼリューンヌィがそうなのだろう、深く頷いた。
「じゃあ、まずは灯りを弱めて」
周囲のウィル・オー・ウィスプ達がその光量を落とす。
洞窟でもある部屋は、一気に暗さを増した。
「エルモ」
ウノの促しに、ふよふよとウィル・オー・ウィスプがテーブル上に漂う。
「そしてこのオレンジスライム」
さらにデン、とテーブル上に、オレンジ色のスライムを置く。
「これが合体すると……」
エルモが、オレンジスライムの中に入った。
青い灯火のように見えるが、ウィル・オー・ウィスプは本当の炎ではない。
ジェル状の生物の中に入っても、その光が消える事はなく……温かい光が、部屋を満たした。
「ごぶぅ!?」
「すごいです! 明るいです!」
事前に知っていたグリューネを除くゴブリン達や、ラファル大興奮であった。
スライムの光沢が光を強めているのか、本来のウィル・オー・ウィスプよりもかなりの光量があった。