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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
23/140

ささやかな生活向上

 ザクッ!!


 森に、掘削音が響き、土砂が飛ぶ。


 ザクッ!! ザクッ!! ザクッ!!


 立て続けに土を掘る音が続き、やがて出来た大きな穴から、一匹のゴブリンが姿を現した。


「ごぶっ!!」


 スコップを地面に下ろし、グッと拳を作っているのはゴブリンの中でも一際大柄な力持ち、アクダルだ。

 目的は土を掘る事自体ではなく、地面の下にある粘土質の土を得る事だ。

 採れたそれを、アクダルは籠に詰めていく。

 穴の掘削を見守っていたウノも、籠詰めを手伝った。

 その間、シュテルンは空から警戒を行う。

 ウノの今日の仕事は狩猟と野草の採取で、それは自身のリュックに詰められていた。


「精が出るな、アクダル」

「お疲れ様です」

「ごぶぅ……」


 後頭部を掻いて照れるアクダルと一緒に、ウノ達は洞窟に戻った。




「にゃー、これでまた食器が増えるにゃあ」

「水瓶を作るのは、大変だったよなあ」

「ごぶぅ……!」


 ウノが言うと、アクダルは何度も頷いた。

 土器の作り方はバステトが知っていたが、実際に作ったのはウノ達だ。

 特にアクダルは頼りになり、土器を焼く窯を洞窟の傍らに造れたのも、彼の力が大きい。

 今では全員分の食器や水差し、水を溜めるための水瓶も出来ていた。

 なんだかんだで、この洞窟の入り口付近が一番利用率は高く、皆が集まれるように新たにテーブルと岩の椅子が容易されていた。

 三人でそんな話をしていると、ホブゴブリンのゼリューンヌィも大剣と大きな袋を担いで森から戻ってきた。

 今日の彼の目的は、森で命を落とした冒険者の道具類の回収だ。

 錆びているモノ、壊れているモノも多いが、時折まともに使える道具も残っている。

 アクダルが使っていた斧も、その一つだ。

 不吉であるとか、罰当たりだとかいう意見も常識的にはあるかもしれないが、道具が野晒しにされてただ朽ちるのも勿体ない。

 冒険者が身元を示す認識票(ドッグタグ)も回収し、これは村に向かった時に冒険者ギルドの支部に提出する予定だ。

 これが力尽きた冒険者達の供養となるだろう。


「ごぶっ!」


 ゼリューンヌィが袋を地面に下ろすと口が解け、中の道具類がいくつかこぼれ落ちた。


「……こっちはこっちで、また随分な成果だな」

「ごぶごぶ」


 ゼリューンヌィは得意げに、胸を張った。

 ウノは屈み込んで、道具を物色していく。


「後は、どれぐらい使えるかにもよるけど。その持ってる大剣はゼリュ専用か」

「ごぶ!」


 拾った道具を優先的に得られるのは、道具収集係の役得でもある。

 力仕事なので、誰にでも出来る作業ではないからだ。


「ピッケル、ロープ、鋼糸類はヴェールにやろう。槌と斧はまたアクダルだな。リユセには砥石でいいだろ」


 ヴェールは手先が器用なので、小道具類がよく割り当てられる。

 槌、斧、それに棍棒なんかも怪力のアクダル向けだ。

 刃物を好むリユセは、ナイフや小剣、それに今のような砥石を好んでいた。

 ゼリューンヌィは戦士職の装備全般、今回はなかったがグリューネは輝石の類を魔術の触媒にと渡す事がある。

 割り当てが終わるとウノは立ち上がり、テーブルに地図を広げた。

 そして、細い炭で情報を書き込んでいく。

 もう随分と書き込みの量は増えていた。


「今回発見した中で特に成果があったのは、オボロギツネとソルトバタフライの集まった場所だ。両方とも、冒険者ギルドで素材採取の依頼がよく来る」


 オボロギツネは分身を使う狐型のモンスターで、毛皮も肉も高く売れる。

 ソルトバタフライの鱗粉は、調味料として需要があった。

 そしてオボロギツネとソルトバタフライをそれぞれ一頭ずつ、ウノは今回仕留めている。

 他にバステトに捧げる魚数匹に、ケマリウサギもここに住んでいる連中が満足する程度には確保していた。

 重量はもちろんあったが、森での暮らしにも慣れつつあって、持ち帰られる限界の一歩手前ぐらいの量を見極められるぐらいにはなっていた。


「残りはまた、保存庫ですか」

「そうだな。アクダル、荷物運びを頼めるか」

「ごぶ」


 アクダルが頷き、使う予定のない道具類や保存の利く食べ物や野草を洞窟の奥へと運んでいった。

 洞窟の最奥は比較的涼しく、ウノ達はここを保存庫に利用していた。

 壊れている道具類の一部は、まだ利用価値があるので洞窟入り口の傍らにひとまとめにして置いておく。

 これが、翌日には直っている事がよくあるのだ。

 大抵は、ゼリューンヌィが夜の見張り当番が明けた日なので、まず彼の仕業なのだろうとは思うのだが、ウノがそれを追求した事はなかった。

 したいとは思ったが、バステトに止められたのだ。


「ホブゴブリンは、本来そういう習性があるのにゃあ。やったのが自分とバレると、恥ずかしさで逃げちゃうかもしれないにゃ」


 他にも、直せば使えそうな防具類やほつれた衣服も直したりする。

 バステト曰く、


「ゴブリン達のリーダーと言うより、あれは『おかん』だにゃあ」


 という事らしいが、ウノとしても反論出来る余地がなかった。

 そんな訳で、ゼリューンヌィ=おかんが、洞窟内の非ゴブリン組の中では共通の認識となっていた。

 ちなみに、彼もラファルと同じくちゃんと『ついている』、雄である。


「きゃうん!」


 甲高い一鳴きと共に森から戻ってきたのは、仔狼のラファルだ。


「ああ、ラファル。見回りご苦労さんだったな。褒美に骨をやろう。ちなみに何の骨かは不明だ」

「わんっ!」


 ラファルは嬉しそうに尻尾を振りながら、ウノの差し出した骨に齧り付いた。

 そしてラファルが戻ってきたと言う事は……。


「リユセもお疲れ。交代の時間だぞ」

「……ごぶ」


 洞窟入り口に小剣を抱え、無言で座り込んでいたリユセも立ち上がった。 

 この時間の見張り役を終え、リユセはゴブリン達の部屋で一休み……せずに、その場で小剣の振るい方を練習し始めた。

 小剣は短剣よりは長いが、長剣よりも短く、ゴブリンのサイズにはピッタリなのだ。


「いや、休憩しろよ。何で稽古になるんだよ。それ、見張り当番の時とほとんど変わらないじゃん」

「……ごぶっ!」


 ウノが使うのは十手術だが、ただ闇雲に振り回すよりはマシだろうと、リユセにもそれを教えた。

 組み手や素振りに付き合い、リユセ自身も試行錯誤を繰り返して、何だか少しずつ様になりつつあった。

 それに手応えを感じてきたのか、最近では暇さえあれば小剣を振るっていた。

 保存庫に向かうアクダルから聞いたのか、グリューネが水の入ったコップを乗せた木の盆を運んできた。


「みんなおつかれ。これ、おみず」

「グリューネも、ご苦労様です」

「赤ワインいる人手をあげるにゃー!」

「ごぶっ!」


 すかさず、ゼリューンヌィが手を上げた。

 戻ってきたアクダルや、素振りを終えたリユセも交え、しばらく皆で休憩を取った。

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