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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
20/140

深層へ……?

また妙な力が付与されます。

「さて、予定はちょっと狂ったか。まあ、キノコの方は次回だな」

「はい、主様」


 バササ……と羽ばたきし、シュテルンはウノの肩に着陸した。


「それじゃここから再び手分けだ。俺はリユセを迎えに行くから、シュテルンはヴェールと合流してくれ。そしたら、俺達も洞窟に戻ろう」

「了解しました。では――」


 シュテルンが羽ばたき、青空へ駆け上がっていくのを見送り、ウノも憶えているリユセの臭いを探った。

 それほど遠くない場所に、血の臭いと共にそれはあった。

 その一方で、


「ごぶ……!」


 リユセのかけ声と斬撃の音も届いているので、無事ではあるようだ。

 やや駆け足で現場に向かうと、既に戦いは終わっていた。


「ぜー……ふー……」


 息を切らせて大の字に倒れるゴブリン、リユセの周囲には剣と盾に兜、血抜きされた数匹の森ネズミと、血を流し続けるケマリウサギの死体が転がっていた。

 リユセ自身は、浅いかすり傷程度だ。

 ただ、その数も決して少なくない。

 ついさっきまで、ケマリウサギと激戦を繰り広げていたのだろう。


「ご……ぶぅ」


 ウノの到着に気付き、リユセは億劫そうに身体を起こす。


「お疲れ、リユセ。傷はちゃんとグリューネに癒やしてもらうんだぞ」

「……ごぶっ」


 分かった、と返事をしてリユセが立ち上がる。

 それから二人で、ケマリウサギの血抜きをし、荷物の分担を考えた。

 今日の食事と今後の保存食なので、全部持って帰る事は決まっている。

 ただ、リユセは洞窟のゴブリンの中で一番剣の扱いに長ける一方、力は並だ。

 という訳で、森ネズミを二匹持ってもらうことにして、残りはウノが担当する事にした。


「ごぶっ、ごぶぅ!」


 休憩して回復したリユセは、自分で獲物を仕留めて誇らしげだ。

 さて、ヴェールの方はどうかなと思っていると、ちょうどシュテルンから連絡が入った。


(主様、ヴェールがバロンディアを追っています)

「へえ、やるな」


 バロンディアは鹿のモンスターだ。

 当然、ネズミや兎よりも大きく、食い出がある。

 リユセにもヴェールの現状を伝えてやると、少し悔しそうに唸った。


「ごぶぅ……」

「対抗意識を燃やすなよ。お前がよくやってるのは、知ってるからな。さあ、ヴェールと合流して、鹿を追おう」

「ごぶっ」


 荷物は増えたが、動きの妨げにはほとんどならないレベルだ。

 契約をしているシュテルンの居場所は分かっているので、それを追えばいい。


(主様、まずいです)

「何がだ」


 リユセの速度に合わせて走っていると、再びシュテルンの念話が入ってきた。

 その声の響きには、どこか焦りがあった。


(バロンディアとヴェールが北、つまり深層に向かっています)

「止めろシュテルン!?」


 ウノは思わず叫んだ。

 深層は、洞窟周辺よりもモンスターが強い。

 中級冒険者のパーティーなら問題ないだろうが、ゴブリン一匹、それもさほど強くもないヴェールなんて、ひとたまりもない場所だ。


(もう既に向かっています……が、あっちの方がわずかに早い! 駄目です、間に合いません!)

「シュテルンは空中で待機! 俺達と合流するまで、ヴェールを補足し続けろ!」

(了解しました!)




 シュテルンと合流したウノは、深層への入り口に立った。

 今いる場所と深層に明確な境界がある訳ではないが、ここから先は空気が自然に剣呑になってくるのだ。

 ウノ達は、周囲を警戒しながらヴェールの跡を追った。


「なるほど、確かにここはヤバい。少なくとも、初心者向けじゃあないな」

「……ご、ごぶ」


 リユセは、ウノから少し遅れ気味だ。

 単純に歩幅の問題もあれば、無意識に腰が引けているから、というのもある。

 が、ついてこれているだけでも大した物だと、ウノとしては評価していた。


「リユセ、逃げたいなら逃げていいぞ。別に笑わないから」

「……ごぶっ!」


 リユセは駆け足で、ウノを追い抜いた。


「気概は認めましょう」

「そうだな。……だが、戦闘は最小限に抑える。ヴェールを確保したらすぐに戻るぞ。全員無事で戻るのが、俺達の勝利条件だ」

「はい」

「……ごぶ」


 ――あーあー、てすてすてす。聞こえるかにゃー。


「聞こえてるよ。何かアドバイスでももらえるのか?」


 ――にゃー、ちょっと遠いから、どうかと思って通信を試してみたにゃ。ゼリューンヌィ達も心配してるから、実況するのにゃ。


「なるほど。じゃあまあ、よろしく頼む」


 ――にゃ、もう深層に踏み込んでるみたいだから、ウチキも一つ力を貸したにゃ。

 ちゃんと伝わってるかにゃあ。


「んん? いや、ちょっとよく分からないぞ?」


 バステトの言葉に、ウノは自分の両手を確かめてみたが、特に何か変わった点はない。

 知らず、力が増しているのかと思い、試しに近くの木の幹を叩いてみる。

 それだけで木がメリメリと音を立てて倒れ……たりはしなかった。


「……やっぱり変わってないし。なあ神様、力を貸したって具体的に何してくれたんだ? 『犬のお巡りさん』みたいなのとはまた、違うのか?」

「主様、目が……」

「ん?」


 シュテルンの指摘に、思わず目に指をやる。


「いえ、普段は黒いのに、金色になっています」

「そうなのか……? 泉でもあれば確認出来るんだけど……」


 さすがに、今は確かめようがない。

 そもそも、目の色が変わったからどうだというのか。


 ――まだ神の力もロクに使えないけど、家の守護神としてウノっちに『番犬』の力を付与したにゃ。家の者を守る力にゃ。

 潜在能力(ポテンシャル)の一部が底上げされてるはずにゃ。

 どこがパワーアップしたかは、おいおい分かるにゃ。

 ちなみに通称は『オルトロス・システム』にゃ。

 我ながら格好いい名称にゃあ。


「名前に拘る前に、効果を説明をお願いしたいのですが。そもそも主様は番犬などではなく、家の主です」

「まったくだ、と言いたい所だが……今はとにかく力がもらえるなら、ありがたい。何より、それどころじゃなさそうだ」


 ごぶっ、ごぶぅ……!

 きゃんっ、きゃうぅ!!


 ウノの耳に、助けを求めるヴェールの声が届いていた。

 バステトの説明どころではなくなってしまった。


「あっちだ。何か余計なのまで混じっているみたいだけど」


 ウノは、早足で急ぐリユセの腰を掴むと、そのまま脇に抱え込んだ。


「……ごぶっ!?」

「抱えた方が早い」

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