上層02:ゴブリンシャーマン
すみません、とても短いです。
こういう時は、お昼にも掲載しようと思います(基本は零時)。
「……あ、いた」
「ごぶ……っ!?」
部屋の隅に縮こまっていた存在が、ウノの声にビクッと震える。
小柄なゴブリンは、猪の骨を細工した仮面を頭からかぶっていた。
両腕で粗末な杖を握りしめ、他のゴブリンと違って粗末ながらもゆったりとした衣装を羽織っている。
これはどうやら……。
「ゴブリンシャーマンか」
奇襲を掛けていなかったら、戦闘は少々長引いていたかもしれない。
まあ、それでもゴブリン数匹相手に負けるつもりはなかったが。
「さて……」
ウノは、頭に生える犬耳に力を集中させ、不可視の力をゴブリンシャーマンに向けた。
動物使いの能力が発動し、カチリ、とゴブリンシャーマンとの間で何かが繋がった。
契約申請は通ったようだ。
「な、なに……?」
骨の面から、舌っ足らずな声が響いてきた。
声の高さから、雌らしい。
ちなみに洞窟手前に置いてきた四匹は、全部雄だった。
「言葉は伝わるな?」
「っ!?」
ウノが声を掛けると、戸惑っていたゴブリンシャーマンが飛び上がった。
「下等なる魔物よ。自分と仲間の命が惜しければ、主様と正式な契約をしなさい」
「待ってシュテルン、それすごく悪役っぽい」
「しかしつまるところはそれです。契約するために、此奴らを生かしておいたのでしょう?」
「まあ、そうなんだけど。……ああ、あとここに侵入したゴブリンの中で繋げる事が出来そうだったのが君だけでさ、向こうにいる他の連中を説得してくれないかな」
ウノは、入り口の方を顎でしゃくった。
「に、にがしてくれる……?」
「それでもまあいいけど、どちらかといえば、人手が欲しいんだよ」
「?」
「人ではなく、小鬼ですけれどね」
「冷静な突っ込みありがとう。話を戻すと、この洞窟は魔物が棲むのにはちょうどいいらしくて、放っておいたら勝手に入ってくる。君らのようにね。だけど、それだと困るから見張りになってもらいたい。ちなみに、君らを叩きのめしたのは、この洞窟に無断で入り込んだからだ。ふさがれていたはずなのに、何で入った?」
「ボクら、すむところない。あなみつけた。すむばしょみつかった。ふさいでたじゃまないた、こわしてはいった」
「そう、そういう事情の魔物とかが来るんだよ」
「落ち着いて、主様と愛も育めません」
「今のところ、そういう予定はないんだけど」
「可能性が皆無ではないのですね。期待しておきます」
「……どこまでポジティブなんだ、この鳥類。で、どうするんだ?」
「よ、よくわかんない……」
ゴブリンシャーマンは、ウノの機嫌を損ねないか不安そうな態度で、おそるおそる首を振った。
「よく分からないというのは?」
「まるで、ここにすむみたいないいかたしてる。でも、にんげん、こんなところにすまない……んじゃないの?」
「あー……」
ウノは額を叩いた。
そこの説明をしていなかった。
「それが、住むんだよ。これを見せて理解出来るかどうか、分からないけど」
懐から、巻物を取り出す。
ウノはそれを、ゴブリンシャーマンに広げて見せた。
「この洞窟の譲渡証明書だ」
「?」
「やっぱり分からないか。要するに、このダンジョンは俺が昨日、管理していた冒険者ギルドから買い取ったんだよ。つまり、ここは俺が住む『家』なの。魔物に人間の法を適用させるのも、かなりナンセンスだとは思うんだけど、君らは俺んちに不法侵入したって事。理解出来るか?」
――にゃあ。
「ん? 何、猫がいるのか?」
「主様、そのような気配はありません。ただ、私にも鳴き声は聞こえました」
「ゴブリン、お前か?」
「ち、ちがう。ボクも聞こえた」
ウノは耳を澄ませ、生き物の気配を探った。
しかし、自分達とゴブリン以外の存在は、この洞窟にはないようだった。
「……やっぱり、いないな」
何だったんだろう、とウノは髪を掻いたが、答えは出なかった。