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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
19/140

周辺モンスターの把握

 ダンジョンでの生活が始まって、一週間ほどが経過した。


 洞窟から少し離れた所にある川辺は、穏やかな日差しを受けていた。

 ウノは、そこにあった比較的大きな岩に腰掛け、目を凝らしている。

 その視界には、拳を突き、蹴りを放つ蛙の集団の姿があった。

 その数は一〇〇に少々足りないぐらい。


「カンフーガエルか。皮と油が取れるな」


 メモ、と紐で束ねた紙の一枚に、細く尖らせた炭で種族と大体の数、それにモンスターの絵を書き込んでいく。

 さらに追加で『リユセはコレから格闘術を学ぶべき』など補足を入れる。

 紙は植物の茎を加工したモノで、知識自体はバステトが持っていた。

 材料の採取はウノ達全員で、加工で特に活躍したのはゴブリン達のボスであるゼリューンヌィと、力持ちのアクダルだった。

 残念ながら、森を出た先にある村で売れるほどの量はないので、あくまで個人用だ。

 文字を書けるのがウノしかいないので、実質彼専用の道具となっている。


 ――ウチキも読み書き出来るにゃあ!


「いや、無理だろバステト様。その肉球でどう文字書くのさ。モノもほとんど持てないのに」


 ――ウチキの知ってる青い狸みたいな猫は、手が丸くても文字も書けたし、どら焼きも掴んでたにゃあ!


「はいはい。青い狸ってそれは狸じゃないのか?」


 バステトの心の叫びを軽く受け流し、川辺に棲息する別のモンスターを探す。

 水面から突き出た岩……と思われたそれから、細長い首と手足が出現するのを確認し、冒険者ギルドのモンスター図鑑に目を通した時の記憶を思い出していく。


「レゾンタートル……水の哲学者様は獲ってはいけないんだったか」


 炭の棒を紙に滑らせていると、空から地上を偵察しているシュテルンの念話が入ってきた。


(主様、こちらではドランクマタンゴの群れを発見しました)

「場所は記憶しておいてくれ。後で感覚同調するから。こっちの作業が終わるまでは、適当に飛んでるか、他の獲物をつまみ食いするとか、まあボチボチ適当に頼む」

(了解しました)


 直後、森の向こうからか細い飛行音が響いたかと思うと、高みに達し、そこから一気にこちらまで急降下してきた。

 ウノの耳元で羽ばたきと共に、シュテルンが舞い降りた。

 そのまま、炭の筆を紙面に滑らせるウノの隣に待機する。


「ご用が終わるまで、こちらで控えさせて頂きます」

「……いや、別にいいけどな。適当にって俺が言ったんだし」

「キノコ連中の場所はちゃんと、憶えています」


 えへん、と胸を反らし、シュテルンは軽く岩を蹴った。

 スイ、と低空飛行を行い、川の水面スレスレを滑空し――魚を獲った。

 そしてそのまま弧を描き、ウノの下に戻ってきた。

 そしてソッと、まだピチピチと跳ねる魚をウノの足下に置く。


「まず一匹目は主様へ捧げます」

「よだれよだれ。我慢しなくていいから食え。俺は火を起こさないと食えないんだから」

「そうでした! ……鳥に、火を起こす術はないのでしょうか」


 ――にゃー。クチバシをカチカチ鳴らして、火花を点ければいいにゃあ。


 そんな、バステトの言葉がウノ達の頭に響いた。


「え、それで火が点くのか?」


 ――まあ、鷹には無理にゃ。


 カチカチ、と本当にクチバシを鳴らしていたシュテルンが固まった。

 そして直後、剣呑な気配を発揮させる。


「……戻ったら、お覚悟を」


 ――処刑っぽい台詞が入ったにゃ!?


「まあ、クチバシか鉤爪の一撃ぐらいは覚悟しといてくれ」


 ――助ける気、ゼロにゃーっ!? 神様に対する畏敬の念が相変わらずないにゃ!?


「だったらもう少し、神様っぽい言動をしてくれ」


 苦笑しながら、ウノはレゾンタートルの情報を紙に書き込み終えた。

 シュテルンも自分が獲った魚をモシャモシャと食べ終え、首を上げる。


「では主様、行って参ります」

「何なら俺も一緒に行こうか」

「いえ、ここは日の当たりがよいので、こちらで作業を続けて下さい」

「そっか……なら、お言葉に甘えようかな」


 実際、よい日差しなのだ。

 うっかりすると、そのまま居眠りしそうではあるけれど、少々離れがたい。

 シュテルンが飛び立ち、念話が入ってくるのを待つ。


(主様、予定を変更します)

「どうした、敵か?」

(いえ、感覚同調をお願いします)


 シュテルンに請われ、ウノは感覚同調を起動する。

 視界が二重にぼやけ、シュテルンの木枝の上からの視点が投影された。

 そのシュテルンの視線は、一点に固定されている。

 地を這う、丸まっこい虹色をした虫だ。

 シュテルンとは距離がある為分かりづらいが、大きさは手のひらサイズといった所だろう。

 その周囲には、もう二回りほど小さな同種、こちらは水色に近い銀色の虫が何匹も群れていた。


「ミスリルスカラベ、いや、レアのタマハガネスカラベか……!!」

(はい。優先して見つけるよう言われていましたから)


 ミスリルスカラベから採れた甲殻は人工の魔力石の材料となる事で知られており、ミスリルスカラベで下級、タマハガネスカラベで中級の魔力石が精製出来る。

 ただし、ウノの目的は素材の収集ではない。

 メモ類をリュックに詰め込んで立ち上がると、勢いよく岩から飛び降りた。

 感覚同調を切ってから、森の中へ駆け出していく。


「よくやったシュテルン。これで、排泄物の処理が楽になる」


 ミスリルスカラベ、タマハガネスカラベというモンスターは、他の動物の糞を餌にするという特殊な習性を有している。

 これまで、ウノ達は中層の一室に穴を掘ってトイレ代わりにしていた。

 排泄物の処理方法としては、いくらかは洞窟の周辺に撒いていわゆるマーキングとし、残りは通路をうろついているマルモチの分身体をトイレに運んで消化してもらうという方法だ。

 ただ、マルモチの分身体は本体より頭が悪く、というかそもそも知性自体がないので、地面に堆積した埃を優先したり、いつの間にか部屋を出て行ったりと、排泄物の処理をしてくれるとは限らなかった。

 ミスリルスカラベ達は、そういう意味では排泄物の専門と言える。

 ほんの少しだが、生活は改善されると言ってもいい。


 森をしばらく走っていると、木の上にシュテルンの気配があった。


「主様」

「来たぞ」


 ミスリルスカラベ達はどこか、などと聞く必要はなかった。

 少し離れた木の下に群がっているそれに、ウノは自身の犬耳から契約(ペアリング)申請を行った。


 カチリ。


 接続する感覚と共に、虫の中でも一際大きなタマハガネスカラベが身動ぎした。


「よし、繋がった。洞窟の場所を教えるから、眷属と一緒に行ってもらえるか? 餌に関しては、胡散臭い猫がいるからそれに案内してもらうといい」


 同意の意志が伝わってきて、すぐにタマハガネスカラベはミスリルスカラベを率いて、洞窟の方へと向かっていった。

 一方、バステトの方から抗議の思念も届いていた。


 ――胡散臭いは余計にゃ!


 しかしウノはこれを軽く受け流した。


「神様の方は、上層のゼリュ達にスカラベ達を駆除しないように伝えてもらえるか? さっきのシュテルンをからかった件は、俺が取りなしておくから」


 ――しょ、しょうがないにゃあ。シュテルンが怖いんじゃないんにゃからね!

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