新たな仲間
スライム達は、単純に増えているだけだ。
洞窟に攻めてくるなら話は別だが、どうもそんな風には見えないな……とウノの本能は感じていた。
ただ、ウノが駆除に消極的な理由が、グリューネはよく分からないようだった。
「どうして? すらいむ、よわい」
「無害っぽいから。それに一体だと弱いけど、いくら何でもあんな数捌けないって。俺だけならいざとなったら逃げられるけど、お前らあれ全部相手に出来るか?」
「んんん……」
「ごぶ……」
今でこそ無害だが、あれらにまとめて襲われたら……グリューネは唸り、リユセは後ずさる。
「最悪、全身粘体に包まれて消化されて、骨だけになるだろうな」
「ややや、やめとくっ!」
「……ごぶ!」
二匹とも、両手を上げて降参した。
しばらく観察していると、群れから離れた何匹かのスライムが、近くの草を取り込んでは消化を始めた。
それを見て、ふとウノには思いつく事があった。
「そういえばスライムって、何でも食うんだっけ」
「ん、どうぶつも、くさも、いしも、なんでもたべる」
「それは……使えるかな?」
「なにに?」
「部屋の掃除」
ウノは動物使いの特性を使用し、頭部にある犬耳から波動を放った。
カチリ、近くにいた青いスライムと繋がる感覚がし、それは動きを止めた。
大きさは一抱えある岩ぐらいだろうか。
「にゅむ?」
目がないので何とも言えないが、こちらを向いたのだろう。
むいむいと、ウノの方に近づいてくる。
「敵意がないのは分かってもらえてると思う。ちょっと変わったご飯のある場所を知ってるから、ついてきてくれるか?」
「にゅうー」
了承の意だろう、スライムは身体を縦に長く伸ばした。
あっさりと契約ペアリングも成立する。
「……台詞だけだと、まんま誘拐犯だな、これ」
何となく反省しながら、契約した青スライムを連れて川へと引き返す。
……が、すぐにスライムと距離が出来てしまっていた。
理由は単純で、人間やゴブリンは足で歩くが、スライムは這うからだ。
「うごくの、おそい」
「スライムだからな」
「にゅ!」
ウノの足下に到達したスライムは、胴体の一部を上に伸ばした。
契約したのに言葉を発しないのは、発声器官の問題ではなく、純粋に言語を話す能力がないのだろう。
それでも要求は、ちゃんと伝わってきていた。
「……抱えろってか? どっこいせ」
ウノは、スライムを抱え上げた。
感触としてはひんやりと冷たく、絶妙な弾力があった。
予想に反して、粘液が付く事はなかったが、これはスライムの方で調整してくれているのだろうか。
少々重たいが、運べないほどではない。
川に戻ったら、一旦下ろして腕を休めれば、洞窟まで運ぶ事も出来るだろう。
ただ、
(あああああ……! だっこ! 主様のだっこ!)
何故か、頭の中に、シュテルンの絶叫が響いていた。
何故にこの鷹は、スライムに嫉妬するのか。
――だっこというか、漬け物石抱えてるようにしか見えないにゃあ。
バステトの感想の方が、大体合っているとウノも思う。
「まあ、そこそこ重いな。ん……おいおい、何する気だ?」
青スライムはその身体を微妙に変化させ、ウノの身体を這い上がり始めた。
それを見て、グリューネが慌てだした。
「おーおやぶんが、たべられる!?」
「いや、大丈夫。そんなつもりはないっぽい……おお、これなら楽だ」
スライムが、ウノの上半身を包み込んだ。
ちょうど青色のジャケットのような形になり、ウノの両手も塞がる事はないし、動きに支障も生じない。
「にゅむん」
何だか得意げに、スライムも震えた。
(主様の上半身を覆うなんて……くっ、私もスライムになりたい)
「……シュテルン。今更、お前にスライムになられても困るんだけど」
頭の中へ飛んでくる思念に、ウノが突っ込みを入れる。
空からの視点というメリットは、かなり大きいのだ。
(あくまで願望です)
――にゃあ、人化は諦めるにゃ?
(それはそれで捨て難いので困ります!)
「まあ、とにかく一旦川に戻ろう。ヴェールが、余所のモンスターに襲われたらコトだ」
そうやってまとめ、ウノはようやく歩みを再開した。
川に戻ると、河原にあったのは頭蓋骨だった。
「ごぶごぶ!」
ただし、人骨でありゴブリンのヴェールは無事だ。
のんきにこちらに手を振り返していた。
その周りには、古ぼけた皮鎧や剣、ブーツらしきモノも転がっている。
「おい、これ、どうしたんだ?」
「ひろった。あっちすぐ、ほねといっしょにあったって」
「んー」
収穫した野草や木の実を抱えたままのグリューネの通訳を聞きながら、ウノは人骨と古ぼけた装備類を確認してみる。
大きさから察するに、小人族のようだ。
骨になっているし、かなり年月が経っているのだろう。
ズボンの太もも部分に大きなひっかき傷らしき痕跡と、どす黒く変色してボロボロになった部分がある所を見ると、どうやら矢を受け、失血死した……と見るのが妥当な所か。
「モンスターにやられた冒険者……かな? まあ、せっかくだし有効に使わせてもらいます」
――そういう時は、手を合わせてジーザスと唱えるにゃ。
何やらよく分からない思念が流れてきたが、一応神様バステトの言葉なので、従っておく。
あとは言ったモノである、神様の責任だ。
それよりも、さっきからやたらとソワソワしているのが約一匹。
「……欲しいのか、リユセ?」
「ごぶ!」
普段の消極的な返事はどこへやら、リユセはぶんぶんと何度も首を縦に振る。
「剣は錆びちゃってるな。でもこの兜は使えそうだな。それに鎧も……ああ、いい、いい。俺やゼリュだと小さくて合わないだろ」
力持ちのアクダルも体格には合わなさそうだし、グリューネとヴェールは鎧を着るタイプではなさそうだ。
「ごぶぅ!」
兜をかぶって剣を掲げ、リユセは全身で喜びを示していた。
サイズは、小人族のモノでもやや大きいようだが、許容範囲だ。
何より本人が納得しているようだし、ウノが口を出す事ではない。
「んでまあ、これで魚を持って帰られる、と」
ヴェールが回収したモノの中には、大きめのリュックもあった。
中の衣服や道具類を取り出していく。
「おみず」
野草類を地面に置いたグリューネが、リュックに直に水を入れていく。
リュックは革製で、水袋代わりになってくれていた。
ヴェールが釣った魚も大量で、ウノ達全員の腹に入る分には充分な量があった。
これも、リュックに回収する。
「シュテルン、そっちの首尾はどうだ」
シュテルンに宛てた念話は、すぐに返ってきた。
(種類は分かりませんが、美味しそうな鳥を捕まえました。そちらへ持って行きます)
「こっちは洞窟に向かってるから、シュテルンもそっちを目指してくれ」
(了解しました)
「今日の晩飯は豪華になりそうだ。……ただ、調味料がどこまで持ってくれるかだな」
水と魚の入ったリュックを抱え、ウノは洞窟へ歩き始めた。