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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
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スライムは繁殖中

「う゛ぇーるは、てさきがきよう。よわいけど。わなもつくれる」

「充分じゃないか。……で、もう一匹の方は弓、使えるのか?」


 確か名前はリユセだったか。

 自分で名付けておいて、忘れそうになる。……しょうがないじゃないか、五匹もしたんだから。


「すこしつかえる。けんとおのとやりもつかえる。りゆせがいちばんとくいののは、いしなげ」


 つまり、ゴブリン五匹の中でも一番武器に通じている、という事か。


「最後のは武器かどうか微妙だけど、大体どういう個性を持ってるかは、把握出来た気がする。……って言っても、弓とか技術いるからな。どれぐらい使えるか、見せてもらえるか」

「……ごぶっ」


 リユセは頷き、ウノに矢を向けた。

 そして弦を引き絞る。

 キリキリキリ……。

 その表情は真剣そのモノだ。


「ってこっちに向けるなよ!? そしてなんでそんな不思議そうに首を傾げる!?」

「てっきり、たいせんかとおもったって」


 グリューネの通訳に、ウノは脱力した。


「いや、普通に弓の腕を見たいだけだから。適当に……そこの木にでも撃ち込んでみてくれ」

「ごぶ……っ!」


 リユセは、ウノが示した木の幹に目標を変え……不意に茂みから白い毛玉が跳び出してきたので、素早くそちらを撃ち抜いた。

 兎のモンスター、ケマリウサギだ。


「キュウ……!」


 ケマリウサギは小さな呻きをあげて、絶命した。


「……これは、普通にお見事。今日の晩飯が一品出来たな」


 まさかそれに対抗意識を燃やした訳ではないだろうが、直後にシュテルンから念話が届いてきた。

 主従の絆が深まると、少々離れようと念話や感覚共有は可能だ。


(主様、こちらでも何体か獲物を発見しました。……モノクロウルフとストーンボアとカッパーオックス、どれを狩って帰ればよろしいですか?)

「待て待て待て、シュテルン! チャレンジャー過ぎるだろ! 狩っても、ここまで運べないだろう?」


 それぞれ、狼と猪と牛のモンスターだ。

 シュテルンの実力なら、勝つ事は出来るだろうが、運搬手段がない。


(ハッ!? これは迂闊でした。さすがは主様、問題点を瞬時にお考えになられるとは……)

「いやうん、普通に気付くから。その聞いただけで物騒な獲物以外には、いないのか?」

(小物としてはモグラと兎とネズミ、蛇辺りでしょうか。全員が一度に食べられてかつ美味と思われるのは鹿でしょうね)

「肉に困る事はなさそうだな」


 シュテルンが挙げた小動物系も複数狩らなければならないあろうが、この短期間でそれだけ発見出来るという事は、数は豊富のようだ。


(あと、野草等、植物に関しては私は苦手なので……)

「あー、そうだったな。そっちは俺担当だ。任せろ」


 貧民街で暮らし、日々の食糧にも困っていた時は、ウノとシュテルンは城下町の郊外に出て、野草を採ったり、兎を狩ったりしていた。

 そのお陰で、食べられる植物には多少詳しい。

 ただ、同じように学習したはずなのだが、シュテルンには野草の区別がつかないらしい。

 人(?)それぞれ得手不得手があるし、ウノは特に気にはしていない。

 川では、ヴェールが鼻歌を歌いながら楽しそうに釣りを続けている。

 すぐに駆けつけられる距離で、食べられる野草や木の実を探そう。


「ボク、しごと、なに?」

「グリューネは、食べられる草は分かるか?」

「んん、しらない」

「ならそれを憶えてもらう。俺が同行出来ない場合も、あるかも知れない。まあシュテルンには護衛をしてもらうつもりだけどな」

「がんばる」


 グッと、グリューネは胸の前で両拳を作った。


「よし」


 グリューネとリユセを率いて、ウノは茂みを掻き分け……思わず、動きを止めてしまった。


「っ……」


 奇妙な音がしていた。

 蛇が草を掻き分ける音……とは少し違う。

 もっと粘ついた何か、そう、泥を掻き混ぜるような、音というか響きというか。


「なに?」


 不意に動きを止めたウノを怪訝そうに見るグリューネに対し、リユセは既に弓矢を構えていた。


「リユセも気付いたか。なかなかいい勘をしている。少し離れた所に、変なぬぶぬぶしたのがいる」

「ぬぶぬぶ?」

「……いや、他に言い様がないというか、俺にもまだ分からないんだよ。なんだこれ……シュテルン?」


 ウノに応え、空高くでシュテルンが旋回した。

 しばらく待つと、シュテルンから返答があった。


(主様、その気配は粘動体スライムの群れです。とてもカラフルです)

「カラ……分かった。とりあえず気付かれない程度の距離まで、近づいてみる」


 慎重に茂みを掻き分け、音の方を目指す。

 程なくして、開けた場所に『それ』はあった。

 例えるなら、色とりどりの大きな水たまりだ。


「おおお……」


 ウノも思わず、小さく声を上げてしまう。

 赤、青、黄色、水色、緑、ピンク、紫、橙色、透明、白、金、銀……。

 そこでは、様々な楕円形のモンスター、粘動体スライムがひしめき合っていた。

 ぬぶ、ぬちゅ、ぬぶん。

 泥を掻き混ぜるような音は、彼らがくっついたり離れたりする音だったようだ。


「こりゃあ何だ……? グリューネ、知ってるか?」

「しらない」

「……ごぶ」


 ゴブリン二人も、初めて見るようだった。

 ウノ達の疑問に応えたのは、バステトだった。


 ――スライムの繁殖風景とはレアにゃあ。

 辺りのスライム達が集まって、増殖中にゃ。


「……スライムの繁殖って、あんな風にやるのか?」


 ――たまたま多かったのが集まって、ああいう形を取ったにゃあ。

 あれも一つの形にゃ。

 でも、大抵は熱から赤いのが生まれたり、草から緑のが生まれたりするにゃ。

 ちなみに熱で溶けたり、草と同化して消滅しちゃったりもするにゃ。


「さすが神様、物知りだ」

「せんとーとるさまじゃないけど、すごい」

「……ごぶ」


 ――ふふふ、もっとほめるにゃ。

 それにしてもあのスライム達、実においしそうにゃあ。


「食うのか!?」


 ――リンゴ味とかレモン味とかしそうにゃー。


「多分、気のせいだ」

「すらいむ……たべる?」

「食べません。お腹壊すぞ。……んー、蹴散らしてもいいんだけど、無駄な殺生は控えたい所だなぁ」

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