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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
15/140

ヴェールの特技

 ウノを真似て、山を見上げていたグリューネが、ハッと思いついたようにシュテルンを見た。


「しゅてるん、むこうみれる?」

「見る事は可能ですが……主様どうしましょう?」

「いや、今はやめとこう。こういうのは、後のお楽しみだ。食糧調達が先決にしたい」


 巨人でもない限り、もし危険なモンスターがいてもこちらまで来る事はないだろう。

 興味はあるが、優先順位はかなり低かった。

 それよりも、食べ物だ。


「死活問題ですからね……って、ヴェール何をしているんですか」


 ゴツゴツとした岩壁を、『お調子者』ヴェールがよじ登ろうとしていた。

 指を引っかける場所はいくらでもあり、慣れた者ならば登る事も可能だろう。

 ただし、ヴェールは別に山を登る事に慣れていなかった。


「ごぶっ!?」


 案の定、ウノの背より少し高い所まで到達した所で、落下してしまった。

 地面に叩きつけられ、頭を抱えてのたうち回る。

 ……まあ、死ぬ程じゃないし、放っておいても平気だろう。


「のぼるの、だめ。あとまわし」

「ごぶう」


 グリューネが杖で小突きながら、涙目のヴェールを説教する。

 が、ウノはこの手の阿呆は嫌いではない。


「チャレンジャーだなあ、お前」

「ごぶぶ」


 ヴェールは歯をむき出しにして、笑った。


「で、村はあっちの方か」


 山とはほぼ反対側を向く。

 南東にはテノエマという村が存在し、そこをさらにずっと進み続けると、いくつかの宿場町を経由して、かつての住処だった公爵領の城下町オーシンがある。

 そちらに向かうのは、当分先になるだろう。

 問題は、北だ。


「それで、あっちは危険なんだっけ?」

「あぶない。ちかづくの、だめ」


 ウノも、ギルドで聞いた覚えはあった。

 この森の北の方は『深層』と呼ばれる、やや強い目のモンスターが棲息する地域となる。

 そこに棲むというオーガは、初心者には荷が重い。

 そして、初心者にすら討伐されてしまうゴブリンなど、ひとたまりもなかった。


「ですが、私と主様ならばオーガの一匹や二匹」


 クワッと鳴くシュテルンは、いつも勇ましい。


「一匹程度なら何とかなるけど、あいつら群れなんだよなあ」

「そこは、確かにネックですね」


 ウノもシュテルンも、集団に対して有効な技能を有していない。

 負けるつもりはないが、苦戦はしそうだ。

 だが、何もすぐに『深層』に到達する訳ではない。

 ある程度の距離を取れば、モンスター達の強さもそれほどではないだろう。


「じゃあ、近づきすぎない程度に北に向かおう。確か、近くに川があるはずなんだ」


 ウノとシュテルンの後ろを、ゴブリン達が恐る恐るついてくる。

 すると、不意に頭に声が届いてきた。


 ――魚にゃ……魚をウチキに捧げるのにゃ……。


 声の主が誰かは、問うまでもなかった。


「ええい、無駄に神託みたいな声を出すな、神様バステト! ……ん、水気はこっちか」


 ウノの鼻に湿った感覚が伝わり、少し方向を修正する。


「おーおやぶん、わかるか?」

「鼻と耳はいいんでね。おい、勝手に動くとはぐれるぞ」


 グリューネの問いに振り返ると、またヴェールが何やらしていた。


「ごぶぅ!」


 長い木の枝、それもしなる細さのそれを、ヴェールは得意げにかざしていた。

 細すぎて、武器にはなりそうもない。


「枝なんて、どうするんだ?」

「ごぶごぶ♪」

「あとのおたのしみ、っていってる」


 ぶんぶんぶんと真上に向けてしなる枝を振り、ヴェールはご満悦だ。


「勿体ぶるなあ」

「主様に対して無礼な振る舞いをすると許しませんよ」


 シュテルンが眼光を鋭くすると、ヴェールはグリューネの後ろに隠れた。

 しかし、グリューネもヴェールと同じぐらいの体格なので、隠れ切れていなかった。


「シュテルン、気にしてないから」

「そうですか。ゴブリン、感謝しなさい」

「ご、ごぶごぶ」


 シュテルンが威圧を鎮めると、コクコクとヴェールは頷き、拝み始めた。

 何て小芝居をしながら歩いていると、森が開けて川が姿を現した。


「おお、いい感じの川じゃないか。……水汲んで往復するのは、ちょっと面倒だけど」


 洞窟との距離は、遠くもないが近くもないといった感じだ。

 水は結構重く、ちょっと手間かも知れない。

 そこでふと、そういうのにうってつけな人(?)材がいるのを、ウノは思い出した。

 ゴブリンの中でも一際、重量級の奴……アクダルだ。


「あの力自慢っぽいのに頼めるか」

「だいじょうぶ。あくだる、ちからもち」


 頷くグリューネの横を、ヴェールが駆け出した。


「ごぶーーーーーっ!!」


 そして枝を振りかざしながら、大きな岩の上に立った。

 チャポン、と何かが川に落ちる小さな音がする。


「ってお前いつの間に、釣り竿なんて作った!?」


 ヴェールの持っていたしなる木の枝には、いつの間にか細い糸が括られていた。

 さっきの小さな音は、餌を投げ落としたのだろう。


「きのえだ、くものいと、どうぶつのほね、いわのしたのむし」

「……タダのお調子者じゃなかったんだなあ。しっかり、釣った後の魚を入れる場所まで確保してるし」

「ごぶごぶぅ」


 ヴェールはウノの方を振り返り、グッと親指を立てた。


「ここはまかせろっていってる」

「うーん、釣果は期待半分ってとこだな。水場は確認出来たし、あとは肉とかあれば嬉しいんだけど。それと、野草とか果物とか」


 肉ばかりでは、身体に悪い。

 これは、城下町オーシンにいた頃に学んだ事だ。

 故に野菜や果物も手に入れたい。

 そんな事を考えていると、肩の上のシュテルンが、小さく羽ばたいた。


「主様、肉でしたら私が周辺に偵察に出て、獲物を探しましょう」

「ああ、頼む。兎や鹿がいたら報告してくれ」

「了解しました」


 バサッと翼を広げると、シュテルンはウノの肩から飛び立ち、一息で高みへと昇っていく。

 そして、森の向こうへと消えていった。

 一方、もう一匹のゴブリンがヴェールから、新たな枝を受け取っていた。


「ごぶ」

「……ごぶ」


 もう一本竿を作ったのかと思ったが、それは弓と矢だった。


「おいグリューネ、あいつ弓まで作ったぞ」

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