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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Unveiling――お披露目
140/140

中層――マイホーム

 居住区の造りも書こうかと思いましたが、『ウノの居住区』『ここほれワンワン』『変わる環境、変わる状況』とこの辺りとほぼ重複するので割愛しました。


 下層を見回ったウノ達は、自室に戻った。

 部屋を漂っていた、色とりどりの精霊が集い、上級精霊のサラマンダー『コンロ』やウンディーネ『シンク』へと変化して出迎えてくれる。

 仕事に戻るよう、軽く手を上げて告げると彼らは再び、細かな精霊に霧散した。

 手前はパーティーも開けそうな広いリビングで、奥には私室という造りは変わっていない。

 強いて変わった点を挙げるなら、シュテルンの個室が増えたぐらい。

 あとは家具がちゃんと整った事だろうか。


「で、これからどうするのにゃ?」

「どうするも何も、大体見回ったから、いつも通り仕事だよ。今日はギルドで依頼を受けて、狩猟だな」

「お供します」


 装備品をロッカーから取り出し、十手をベルトの後ろに差す。

 靴をブーツに履き替えて準備はあっさり整った。

 シュテルンは、弓矢を用意する。

 まだまだ修行中で蹴りが攻撃の主力だが、いずれは遠距離でも戦力になるだろう。

 そしてバステトは、ソファでゴロゴロしていた。


「にゃにゃー、別にもう働く必要もないんだけどにゃあ。信者からの上納金でウハウハなのにゃあ」

「何かものすごく、悪い事してるみたいに聞こえるなあ」

「別にしてないにゃ。単に人聞きが悪いだけにゃ」

「自覚あるなら改めような!?」

「まあ、その気になれば働く必要がないのは事実ですが、無為に過ごすのも堕落ではないかと」


 シュテルンの言葉に、ウノは同意する。


「だよなあ。それに俺は楽がしたくて神殿整えた訳じゃないし、ただ単に住む家が欲しかっただけだからな。仕事は別だよ」


 何となく長くなりそうなので、ウノもソファに腰を沈めた。

 すぐに出掛けるような仕事でもないので、特に焦りはなかった。

 シュテルンも心得た様子で、飲み物を用意しにキッチンへと向かった。


「にゃー、ウノっちが納得してるにゃら、それでいいけどにゃ」

「変な能力授かったのは、ちょっと予想外だったが」

「屋根のある家は手に入ったにゃ。食べるモノと着るモノにも不足しなくなって、ついでに可愛い猫も住むようになったのにゃ」

「最後はどうでもいいとして」

「酷い言われ方したのにゃ!?」

「にゅ」


 ウノの袖から、スライムのマルモチが小さく触手を伸ばして自己主張する。


「ほら、ペットならここに」

「……神が、スライムに負けたのにゃあ」


 ボフリ、とソファに突っ伏すバステトであった。

 しかしすぐに気を取り直したのか、顔を上げる。


「マイカーはないにしても、ゲンツキホース(カーブ)もいるのにゃ。さあ、ウノっち、次の望みは……にゃあ、特になさそうにゃあ。野心がないのも考え物にゃ」


 ゴロゴロゴロ……と、幼女神はさらにソファの上で転がる。

 臭い付けかよ、とウノは内心突っ込んだ。


「いいだろ別に。このダンジョンをさらに発展させて、一つの国として独立させてやるぜーとか言っても、しょうがないしな。多分出来そうな気もするけど、そんな責任取れそうにないし」

「取れるとは思いますが」


 シュテルンが、液体の注がれたグラスを四つ、盆に載せて持ってきた。

 グラスの中身は葡萄の果実水だ。


「うん、でも面倒くさいな」

「ですね」


 シュテルンは、ウノの隣に座り直す。

 そもそも、ダンジョンを発展させるとかそんな理由でこれまでやってきた訳でもないので、やろうとも思わない。

 大体、領主からの干渉もなくなって、ようやく安泰となったのに、何で自分から世間に波風立てなきゃならないのかとも思うし。

 ウノは、快適に住める自分の家を手に入れた。

 それで、ひとまずは満足であった。


「まあ、程々に豊かなぐらいがちょうどいいんじゃないか? ちょっと足りないぐらいの方が、やる気も出るような気もする」

「贅沢な話だにゃあ」

「そういう贅沢な暮らしになってるんだよ、今は。まあ、当面はどこもいじる必要はないだろ。問題が出たら、随時対応するって事で」


 グラスの中身を軽く飲みながら、ウノは言う。

 テーブルの上では、袖から分離したマルモチの分身(小)がグラスに直接ダイブし、浮かびながら少しずつ中身を吸収している。

 同じようにグラスに口づけていたシュテルンが、ふと顔を上げた。


「……ああ、足りないモノと言えば、一つありますね」

「あれ、まだ何かあったか?」

「子供です」

「さ、準備も済んだし、冒険者ギルドに行くかシュテルン」

「そうですね」


 ウノは一気にグラスの中身を飲み干し、立ち上がった。

 それに、シュテルンも続き、グラスから飛び出したマルモチ(小)も本体に合流する。

 バステトは、ソファからずり落ちた。


「言い出しっぺ自身が直後にスルーしたにゃ!? すごいにゃ!?」

「主様の意向が最優先ですから。一緒に住んでいますし、流れでそういう事もあるかもしれません。私としては気長に待つ所存です」

「達観してるにゃあ……ああ、でもそういう事にゃら、ウチキも目標が出来たにゃあ」


 バステトは立ち上がり、得意げに胸を張った。

 ウノは、目を細めた。

 これはどうも、またロクでもない事を考えている顔だ。


「厄介ごとは御免だぞ」

「失礼にゃ。子供が出来る前に、すべき事があるのにゃ。結婚式にゃ!」


 ドゥン!! とバステトの背後で爆発が起こった……ような幻視を、ウノは見た気がした。


「それは確かに、絶対に必要ですね」

「絶対にか……?」


 世界の常識の如くシュテルンが頷くが、ウノとしては首を傾げてしまう。


「まあしなくても、出来るモノは出来るけどにゃ。やれるに越した事はないし、幸い神の祝福なら持て余すレベルであるのにゃ」

「そこだけは、本当に大量にな……」


 今、一体何柱、下層にいるのやらである。


「にゃあにゃあ、盛大にやっちゃうにゃ。神父役をウチキやカミムスビがやってもいいけど……うん、ここは教皇呼んじゃおうにゃ」

「グレードが上がったのか下がったのか、すごい微妙なチョイスだそれ!?」


 普通に考えれば神自身の祝福の方が間違いなく偉大なのだが、世間一般と社会的には後者の方が強い気もする。


「にゃー、これは善は急げだにゃ。ウノっち、今日の狩猟はお休みにゃ。緊急会議を行うのにゃ。場所はここのリビング。首脳陣を集合させるのにゃー!」


 シュパッとバステトは、どこかへ転移した。

 ……まあ、あちこち動き回るのだろう。

 ウノは、ソファに深々と身を預けた。


「落ち着いたと思ったんだがなあ……」

「ここに住んでる限り、退屈とは無縁でいられそうですね。いらざるを得ないとも言えます」

「……ま、いいや。じゃあじきに神様達やゼリュ達も来そうだし、シュテルン準備しようか」

「はい、主様」




 ――こうして。

 貧民街を追われた犬獣人(ウノ)は、新たな住居を手に入れた。

 ウノとシュテルンの結婚式や、新たな家族が生まれる時にもまた一騒動があるのだが、それはまた別のお話。

 ご愛読ありがとうございました。

 何か普通に山もなく終わりましたw が、主人公の初期の目的が達せられたのでひとまず幕とさせて頂きます。

 それではまた、次の作品でお会い出来ればと思います。

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