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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
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会議は続く

 ……そういえば、ずっと向こうにあるのは。

 ウノはさっき、バステトがある方角へ視線を向けていた事を思い出した。


「城下町の、オーシンの方か。厄介だな」

「にゃ?」


 分からないという風に、コテッと首を傾げるバステト。

 だけど、ウノには見当がつく。

 何百年も前の神像。

 美術品、もしくは歴史的価値があるモノがあるとすれば、美術館か博物館だろう。

 ……勘だが、おそらくは博物館だ。


「博物館の研究者が、ここを調べてたって言うしな」

「そして主様の言う厄介というのは、博物館には獣人が入れないからです」

「にゅう、それならこっそり潜入しちゃえばいいにゃあ」


 神様の提案は、普通に不法侵入だった。


「いや、そういうのはちょっと」


 命に関わるとかそういう話ならば、ウノだってなりふりは構わない。

 けれど、所詮は自分の家を過ごしやすくする、というレベルの話だ。

 それで余所様に迷惑を掛けるというのは、ウノとしても抵抗があった。


「どちらにしろ城下町まではちょっと距離があるし、ちょっと今、物騒になってるから時間をおいた方がいいと思う」


 かくして、神像の件はひとまず保留という事で落ち着いた。


「にゃあ、いざとなれば誰かに彫ってもらうにゃ。それに垂れ旗も修復したいのにゃ」


 垂れ旗……祭壇の前の通路左右に並んでいた竿の事か、とウノは思い出した。


「あれは、一体どういう旗なんだ?」

「色んな種族の紋が刻まれてたにゃ。犬獣人とゴブリンのもあったにゃ」


 異種族交流の宗教だったので、種族の垣根を越えた旗が飾られていたという事のようだ。

 ただ、ウノとしては困惑してしまう。


「主様、ご存じですか?」

「……いや、そういうのは、あんまり」


 犬獣人の種族の紋章なんて、全然知らないウノだった。

 というか知っている獣人の方が稀だろう。

 そのようなモノを学ぶ環境が、ないのだから。

 そしてそれは、ゴブリン達も同様だったようだ。


「ごぶぅ」

「ボクたちも、しらない」


 全員揃って、ふるふると首を振る。


「図書館とか行けば、見られるにゃあ」

「……図書館も、異種族は出入り制限されてるんだよなあ」


 オーシンという城下町、すなわち市立の施設に関しては、ほぼ全部、それだ。

 バステトは、呆れたようなため息をついた。


「にゃあー……人間は何百年経っても、成長しないにゃあ……まあ、とにかく下層の祭壇は無事にゃから、あとはきれいに掃除して、今言った二つをちゃんとすれば問題ないにゃあ。神像を捧げてお祈りしてれば、センテオトルもいずれ姿を現すのにゃ」

「ごぶっ!」「ごぶぶ!」「ごぶう!」「……ごぶ!」

「がんばる!」


 バステトの鼓舞に、ゴブリン達が興奮する。

 信仰する神に会えると言うのだ。興奮するなと言う方が無理だろう。

 このダンジョンの全三層については、大体まとまった。

 あとは、新しく見つかった、中庭についてだが……。


「中庭もひとまず保留」

「……あれはちょっと、どうしようもありませんからね」


 上層に戻る途中、バステトとの契約で得た『地図』を頼りに、中庭への通路も一度見たのだ。

 そこは一度階段を下り、長い直進通路を経て、階段を上って地上に出るという通路だったのだが、これが腐った水で水没していた。

 ちょっと向こうが気になるから行ってみる、と気軽に言うには、少々覚悟がいる通路だったのだ。

 中庭探索はある程度準備をしてから、という事になった。


 家に関しては、これである程度話し合いはまとまったと言ってもいい。


「では、各々やる事も決まった所で、もう一つ話がある」

「にゃにゃ?」


 まだあるのか、と疑問を浮かべる皆を、ウノは見渡す。


「いや、生活に関してさ。この森の動物を狩って、植物を採るって生き方もあるけど、俺はもうちょっと文明的な生き方をしたい。お前らも美味い飯食ったり、酒飲んだりしたくないか」

「ごぶっ!!」

「おいしいごはん、たべたい」


 食べモノが関わると分かると、ゴブリン達は諸手を挙げて賛成を示した。

 ならば、外貨の稼ぎ方だ。


「幸い、森の手前の村には、冒険者ギルドの支部がある。そこに森や山の素材を卸せば、ある程度の金が手に入るだろう。そうしたら、それも叶うぞ」

「お魚もかにゃ?」

「魚自体は多分川で獲った方が美味いだろうけど、調味料があった方がいいだろ?」

「にゃあにゃあ、塩焼きや酒蒸しも、美味しいにゃあ」



 バステトも踊り出した。

 ただ、聞き慣れない単語があったので、ウノは聞き返す事にした。


「さかむし?」

「知らないにゃ? にゃあ、ウチキの力が増したら、料理も出来るようになるにゃ。猫の手にゃれど、そんじょそこいらの料理人に負けないレベルのご飯を提供できるにゃ」


 それは助かる、とウノは思った。

 一応ウノだって料理の一つや二つ出来ない事はないが、普段の食材が貧しかったという事もあり、シンプルな料理しか作れないし、詳しい知識もないのだ。


「聞いたな? じゃあ、早速仕事を始めよう。ゼリュ、外へ探索に出る奴を選んでくれ。日が暮れる前に、食糧調達しよう」

「ごぶごぶ」


 ゼリューンヌィが仕切り、担当を決める。

 結果、ゴブリンシャーマンのグリューネと、ちゃっかりモノのヴェール、木の棒を武器にしたリユセが同行する事となった。


「ウチキも外に出る事は出来るけど、力がない内はあんまり離れるのはよろしくないにゃあ」


 自称家の守護者らしく、バステトは留守番。

 ホブゴブリンのゼリューンヌィと力持ちのアクダルは、洞窟上層の環境を整える作業に戻る。

 ウノにシュテルンを加えた、計五人が探索班となった。




『邪教神殿の洞窟』の周辺は森に囲まれている。

 すぐ西にはほぼ絶壁のような険しい山があった。

 ウノは、その絶壁を見上げた。

 若干反り返っている部分もあって、この位置からでは頂上は見えない。


「んー……」

「主様、何を目測されているのですか?」

「いや、まだ確かめてない中庭なんだけど……多分、あの西の山の向こう辺りになりそうなんだよな」

「言われてみれば……」


 つまり、ダンジョンはこの山の下を潜っている事になる。


「あと、下層の祭壇裏手にあった崩落部分も、多分山の向こうだ」


 地面の高さが一定とは限らない。

 今、ウノ達のいる場所より山の向こうが低ければ、下層の奥がそのまま地上に繋がっていてもおかしくはない。

 中層から通じる中庭も考えると、イメージとしては多段となった地形だ。

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