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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Unveiling――お披露目
139/140

下層――神殿

 のんびりと朝食を取り駄弁っている間に、ダンジョンへの入場が始まったようだ。

 明らかに、商店街には人が増えてきていた。


「よし、じゃあそろそろ行くか」

「はい」

「にゃあ」


 ウノ達も、下層へと向かう。

 商店街を抜け、通路を北西へ。

 下層へ到る幅広の階段には、既に長蛇の列が出来、ウノはその横を素通りしていく。


「相変わらず、すごいな」

「にゃー、有名人は辛いのにゃ」


 声は、下の方からしていた。

 見ると、いつの間にかバステトは黒猫形態へと変わっていた。


「それで、黒猫になっているんですか……」


 まあ、横を歩いているのが神・バステトであると分かれば、人々の間でちょっとした騒動になるかもしれない。

 広い場所ならいいがここは階段、雪崩でも起こっては事だろう。

 或いは、単なる変装を楽しんでいるだけで、むしろウノとしてはそちらの方が正解のような気がする。


「ちょっと歩幅が足りなくなるのが不満にゃ。ウノっち、ウチキを抱える栄誉を与えるにゃ」

「その栄誉、私が頂きます」


 ヒョイとシュテルンが、バステトを抱え上げた。

 その目は細められ、鷹の目が黒猫を凝視する。


「にゃ、にゃー、狩猟者の目なのにゃ!?」


 シュテルンの胸元でバステトは暴れるが、その程度で離すシュテルンではなかった。

 そんな三人が階段を下っていると、列を整理していた犬頭(コボルト)が敬礼してきた。

 神殿の関係者と分かるように、白いゆったりとした衣に棍を携えている。


「おつかれさな、です」


 ちょっとまだ、言葉を話すのが不慣れなようなので、新入りなのかもしれない。


「いや、そっちこそお疲れ様。ほどほどに頑張ってくれ」

「あい」




 そして長い下り階段を進み、ウノ達は下層を一望出来る踊り場で一旦足を止めた。

 ウノは、祭壇を見て頭を振った。


「それにしても……」

「ええ、主様の言わんとしている事は、分かります」


 シュテルンも、深く息を吐く。

 それを、抱きかかえられているバステトが見上げていた。


「二人の表情が、とても複雑なのにゃ」

「複雑にもなるだろ。なんだあれって言いたくもなるよ。なんだあれ」

「言ってるのにゃ!?」


 祭壇は、巨大なバステトの神像と化していた。

 騎士団侵攻の際にカミムスビの姿へと変形した巨大祭壇だが、これは他の神への変形も可能であったという。

 魔力自体は、起動時に捧げられたモノが最大であり、変形には信者の祈りがあれば充分にまかなえた。

 ならばと、日替わりで変えようという話になり、今日はバステトの日であった。


「実際に拝むと、感心するより呆れますよね」

「いやまったく。ただ、とにかくデカい」


 そして猫耳神像の全身を一番よく見られるのは、この位置だった。


「にゃー、皆いっぱい拝むのにゃあ」




 祭壇の下では、いくつかの四角い枠線が引かれ、それぞれに神と巫女(シャーマン)がいる。

 枠の大きさは様々だが、一番大きいのは当然、人間の信者が多い創造神カミムスビ。

 小さいのは草木の神であるタネ・マフタやバステトであった。

 そしてその枠の中に信者達が集い、神々が語っていた。

 はみ出ないように、警備の白い服を着た者達がロープで囲んでいる。

 ウノ達は、そんな語らいの場の間を、ゆっくりと歩いて行く。

 バステトの分身(であり本体でもある)の前にもまた信者がいて、大体成人した女性が多い。

 邪神であるという誤解が解け、家の神としての面があるバステトの信者には、やはり主婦の信者が多いという事だろう。

 分身と、シュテルンが抱える黒猫が手を振り合う。

 食の神であるセンテオトルの側には、ゴブリンシャーマンであるグリューネも控えていた。


「おーおやぶん、てるん、神、おはようございます!」

「おはようさん、グリューネ」

「おはようございます。でもてるんはやめて下さい」

「にゃあー、今日も盛況で何よりだにゃあ」

「そうだねえ。それにいい天気だよ」


 センテオトルが、天井を見上げる。

 神像の動く予定はないが、天窓は開かれている。

 そこからは青い空が覗き、洞窟内にも太陽の光が注ぎ込まれていた。

 ウノ達はそのまま、祭壇の裏手へと進んでいく。


「ちなみにあの語らいの場は、握手会形式にする案もあったのにゃ」

「そもそも握手会って何だ。そもそも握手するだけの、イベントとか成立するのか」

「まず、そこですよね」


 ウノとしては、単なる握手がイベントになるというその意味が分からない。

 シュテルンも同感であるらしい。


「現代の民にはまだ、早い世界なのにゃあ」


 にゃあと、バステトは一声鳴くだけであった。


「それにしてもあれって、かなり信者の数に差が出てるけど、不満はないのかね」


 ウノが気にしているのは、枠の大きさ、信者数の差だ。

 神々で争いが起こったりしたら、ちょっと洒落にならない。

 まあ、幼女同士の喧嘩とみると、途端にレベルは下がるのだが。


「不満はないにゃあ。そも、例えばカミムスビとアスラでは、信仰する種族の絶対数に差があるのにゃ。比較自体ナンセンスにゃ。それに……」


 バステトは、後ろを振り返ろうとしたがシュテルンに抱えられたままでは難しい。

 なので、シュテルンも小さくため息を漏らし、身体を回した。

 ウノも、後ろを見る。

 草木の神タネ・マフタの信者には、老婆が数人といった具合だ。

 どうやら、薬を扱う魔女の類らしい。

 ただ、その数人とタネ・マフタとの距離は近い。


「見ての通り、少なくとも信者側は、神と触れ合う時間が増えるのにゃ」

「それはそうでしょう。人数が多い方が、その時間は少ないに決まっています」


 一方で、カミムスビの信者はまだ早い時間帯であるにも関わらず、一〇〇を越えている。

 それでも生で神と触れ合う信者達は、ただ畏敬の念で神に祈りを捧げていた。


「ならば、お互いに不満はないのにゃ。問題ないにゃ?」

「まあ、それならいいんだよ」

「ところでウノっちはスルーしたけど、お参りしないのかにゃ? 今ならウチキのイベント待ったなしなのにゃ」

「いやいやいや。俺さっき、朝食捧げ(おごっ)たよな?」

「うむ、ウチキ大満足だったのにゃ」




 祭壇の裏手には、温泉がある。

 脱衣所の手前には今も、精霊達が漂っていた。


「一っ風呂浴びてくかにゃ?」

「悪くないけど、今日はあまりそういう気分じゃないな。生命の水だけ買おう」

「にゃあ、本日二つ目の捧げモノにゃあ」

「奢ってもらうのを当然と思うようになるのは、よろしくないと思いますよ」

「にゃ、それは分かるにゃ。よろしい、ここはウチキが朝食の礼として払うのにゃ」

「おお、神様が太っ腹だ。よし、シュテルン祈れ祈れ」

「はい、祈りましょう」


 ウノとシュテルンは、バステトに祈りを捧げた。


「文字通り現金な信者達なのにゃ!?」

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