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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Unveiling――お披露目
135/140

中層――参道

 今日は少し、短めです。

 ウノとシュテルンは、中層に下りた。

 広い通路は、上層と同じく光るスライム達によって照らされている。

 上はほぼ天然の洞窟だったが、この辺りは煉瓦で補強され、半分ほどは人工的な造りとなっている。

 床も、しっかりとした石畳が敷かれていた。

 もっとも全ての通路がそうなっている訳ではなく、手が回っていない部分も多々ある。

 ただ、後ろにある上層への階段から、下層の階段までを繋ぐ、いわゆる『参道』は完全に石畳化は終了していた。


「とりあえず、適当に歩くか」

「それだけで、一日つぶせそうですね」


 ウノとシュテルンは、ゆっくりとした足取りで、その参道を歩き始めた。

 ダンジョン上層への上り階段があるのは、中層中心から見て『南東』の中程に位置する。

 そこから『東』方向へ真っ直ぐ歩き、外周通路に到達する。

 そして『北』方向へ上り、ちょうど『東』位置に来たら『西』方向へと進む。

 途中の大部屋を通過し、『中央』と『西』の中程で再び『北』上すると、下り階段へと到達するという造りになっている。

 ウノ達は今、上り階段から『東』へ真っ直ぐ進み、左右に伸びる外周通路に到達したところだ。

 そのT字路では、祭壇に詣でる人達が迷わないように、矢印の看板が設置されていた。

 通路は手前半分が歩道で、奥の半分が車道となっている。

『南』側は、関係者以外立ち入り禁止。

 そちらに迷い込んだ人は即、この参道へと誘導される事になっている。

 ごく稀に、このダンジョンの秘密(そんなモノがあればの話だが)を探ろうとする者や、冒険気分で侵入する子供や若者がいるが、大体はウノかバステトが気付いて、追い出してしまう。

 一般の来場者は、矢印の看板に従い『北』へ進むこととなる。

 ウノも、そちらに歩みを進めた。


「とりあえずグルッと一周回ってみるか」

「参道はよいのですか?」

「途中までな」


 すぐ向こうには『西』へ進む矢印の看板がある。

 ただ、ウノとシュテルンはそれを無視して、そのまま『北』上する。

 二人はこのダンジョンの関係者――というか所有者――だから、何も問題はないのだ。


「どうせ最終的に、下層に下りるからその時に歩く事になるだろ」

「確かに」


 外周を回ると、それなりの距離となる。

 大雑把に、一辺が二〇〇メルト程度の直方形なので、八〇〇メルトか。


「疲れたら、自室に戻ろう」

「そういう意味では、ここはすごくいい環境だと思います。でも、多分主様が疲れる事はないと思いますが?」


 何せ、すぐ側が自室なのだ。

 休もうと思えばいつでも休める。

 ただ、シュテルンの言う通り、一ケロメルトもない歩きでウノが疲れるなんて事は、まずないのだが。


「いや、シュテルンが疲れたらって意味なんだけど」

「いえいえ、主様の負担になる真似など、このシュテルンいたしません。その時は置いていって頂ければ結構です。足手まといになるつもりも、ございませんから」

「……ここは、戦場か何かか?」

「ちょっと前は、そんな感じでしたね」


 言われてみれば、強鬼(ハイ・オーガ)が侵入したりしたのだから、それはそれで間違ってはいない。

 とは言っても、あんな出来事はもう、そうはないだろう。

 戦場と言えば、とウノはふと思い出した。


「三〇〇年前もな」

「そういえば、主様はその当時もここを歩いていたのでしたね」


 過去に飛んだという話は、ウノはもうシュテルンにはしてあった。


「我ながら異常なことだと思うが、そうだな。事実だ。ただし、じっくり見て回る余裕なんてなかったけどな」


 三〇〇年前の騎士団侵攻において、ウノは住人を逃がし、迎撃を担当した。

 完全に成り行きである。

 騎士達を相手にするのに集中していたので、周りに関心を払う余裕なんてなかったというのが本音だった。


「まあ、あの当時のダンジョンから、ずいぶんと変わったとは思うよ」

「壁も、穴を開けたりしてますからね」


 壁に穴を開け、風通しを良くしたのは、つい最近のことだ。

 それまでは迂闊に拡張工事を行えば、崩落の危険があると手出し出来なかったが、土の精霊や土小人(ノーム)が強度を考えてくれたので、それも可能となった。


「お陰でずいぶんと風通しが良くなった。前は酷かったからなあ。あ、これは俺達がここに来てからの話な」

「分かっています。とても人が住める環境ではありませんでした」


 湿っぽく、少々蒸し暑く、そして暗い、いかにもなダンジョンだった。


「足下もまあ、見事に埃が積もっててなあ」

「その辺りは、マルモチに感謝ですね」

「にゅむー……?」


 ウノの羽織る、青いジャケットが小さく鳴いた。

 上着に擬態したスライム・マルモチだ。


「貴方は、寝ていて結構です」

「にゅ~……」


 小さく間延びした声を上げ、マルモチは再び静かになった。




 参道を抜け、さらに『北』へと上がっていくウノ達。

 そこへ、後ろから馬の駆ける音が響いてきた。

 振り返ると、ゲンツキホースのカーブが、こちらに駆けてくるところだった。

 当然、車道である。


「ヒンッ」

「お、カーブ。仕事の時間はまだだろ」

「ヒィン」


 カーブが頭を近づけてきたので、ウノは乱暴にそれを撫でた。

 後ろでシュテルンが少し羨ましそうにしているが、そこはスルーする。

 カーブはここで、巡回馬車の仕事をしている……が、まだ仕事前なので、馬車部分は繋げていなかった。


「そうか、準備運動か。今日も一日頑張ろうな」

「ヒヒン」


 頑張るよ、という風に鳴き、再び走り出したカーブは左の曲がり角を消えていった。


「巡回馬車も、そこそこ使われてるみたいだな」

「お年寄りには、ありがたいようですね。小さいとはいえダンジョン、上層から下層はそれなりの距離がありますから」

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